第180話

 北条に臣下の礼を取るという事は北条の傀儡となる事を通り過ぎて配下と正式になる事だ。つまりは土地を持たないことになる。そうすれば残った国人衆達も宇都宮とは別々の扱いをしてくれると考えるだろう。それに宇都宮、ひいては下野国を我々の手で抑えられるのはでかい。手の届きづらい土地を直接配下に任せられるのだ。


 「よし、ではその方向で草案を持ってきてくれ。那須の方はどうなっている?」


 「はっ、こちらは元々宇都宮とは別の扱いをすると言うことで統治の引き継ぎに必要な人材を残して残りはそれぞれ別の土地の軍学校で北条式の訓練を受けています。」


 「他に報告する事はあるか?」


 全ての国についての報告を聞き終えたので周りに再度意見はないか聞くが特に反応はない。


 「では、今月末の評定をこれで終える。各々方は来月からも励まれよ。」


 「「「はっ!」」」


 氏政はこの場から立ち去っていくと個人的に政務を取っている部屋に戻りながら先ほどの議事録を読み直す。


 「康虎達が戻ってくるのはいつだったか?」


 側に控える源太郎がさっと横から予定表を見る。


 「予定では明日、一度下野国を見終わった警ら隊を休ませて人員を交代するために数日河越に寄ることになっております。その際、父や政豊殿 義弘殿 義堯殿もいらっしゃいます。」


 源太郎は必要となるであろう情報をさきよみして答えてくれている。さて、誰に下野国を任せるかな。俺は簡単に言えばエリアマネージャー統括のような立場だ。上野国のエリアマネージャーをしながら三国峠には担当の光秀を送っている。


 下野国に関しては俺の統治選択ミスにより手間取っているためエリアマネージャーを誰か派遣しようというところなのだが、康虎に任せてしまいたい。しかし、奴は東関東の兵をほぼ全て統括している立場だ。これ以上負担を増やす訳にもいかないしな。


 「はぁ、ゆっくり過ごせる日はいつくるのだろうか。」


 ふと呟いた言葉だったが周りにいた源太郎や正信 次郎法師はこんな時は何も言わずにスルーしていた。返事を期待していたわけではないが何故か悲しくなった氏政だった。


 翌日、康虎 政豊 義堯 義弘を呼び出した氏政は評定を行う部屋とは別の小会議を行う場に集まっていた。この部屋は重臣たちや側近たちと話す際に使われる場で河越の中でも最重要な場所のひとつだった。


 「皆のもの、まずは労を労わせてもらう。よく乗り切ってくれた。」


 それぞれ皆が頭を下げ労を労う。


 「さて、今日集まってもらった内容についてだが、その前に康虎はどうだ?立場にも慣れてきたか?」


 「いえ、慣れる事はございませんね。まだまだ現実味がございませぬ。しかし、この立場を頂いた以上精一杯努めています。政豊もここ最近の実践や経験を得て成長しておりますぞ。」


 「そうかそうか、義堯達はどうだ?」


 義弘は幸隆付きで経験値を積んでいたが最近では義堯と現場に出ることが多くなっていた。


 「はっ、我々も房総の統治が安定しできました。愚息ながら義弘も武勇だけではない男になったと言えるでしょう。」


 迷うな。康虎 政豊コンビか 義堯義弘親子に任せるか。統治の経験を積ませるという意味では政豊にも土地を任せてみたい気持ちはあるが下野国は生半可な統治にはできない。


 「隠さずに話すと、下野国を北条直轄の者で治めることに昨日なったのだが康虎は手が離せないのだな?」


 申し訳なさそうにしながら康虎がこちらを見る。


 「はっ、軍の統括や再編など、警ら隊との連携もございますし防衛計画の練り直しも必要になっています。少し時間が足りないかと。」


 「分かっているのだ。無理を言ってすまない。」


 さて、どうするかと悩んでいると話を聞いていた源太郎が意見を述べようと手を挙げた。


 「どうした源太郎?意見があるなら好きにいうといい。」

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