第172話

 高資は徴兵した農兵の残りを全面に押し出し残った配下の武士たちで馬を持った者たちを供回りに連れて一気に穴を突破する作戦を立てた。農兵達には我々が戦場を抜けるまでに降伏しようとすれば残った武士が後ろから切ると脅してあるため死に物狂いで働いてくれることだろう。


 裏門を開け放ち、大田原城までの道を切り拓かせるために予定通り督戦をさせながらなだれ込むように突進させる。北条は慌てることはなく対応しているようだが流石に多勢に無勢のようで少しずつ後退していき道が僅かずつだが開いてきていた。このままいけるかと思ったが流石に練度の高い兵士だけあって戦線が膠着し始めていた。援軍もすることを考えればさっさとこの場を離れるしかないと腹を括った高資は周りの者たちに声をかけ突撃した。


 「駆け抜けよ!!!この場を乗り切ることだけを考えるのだ!!」


 側近が囮となるように指揮官のふりをしてそばを離れて行く、高資と囮2人の計3人にとも周りを数人ずつつけ大田原城に向かって3方向に別れた。


 「恐らくですが北条の手の者が闇世に紛れている可能性が高いと思われます。いつも以上に気をつけながら進みましょう。」


 高資は供回りのふりをして囮となっている3人目の配下に声をかけるふりをして皆に注意を促す。黙々と馬を走らせながら大田原城まで向かっていると道の側から敵兵が現れ、目の前には馬防柵があったため止まる必要ができてしまった。


 「足が止まったぞ!この場から離れられないように接近するのだ!いけい!!」


 敵のまとめ役の声が響くと同時に敵が雄叫びを上げながら突っ込んできた。高資は一兵士として戦うふりをしながら逃げる機会を窺っていたがドッドッドと馬がかける音が後方から聞こえてきた。


 「敵の援軍だと!?…計られたのか!」


 高資はこの時点になってようやく自分が間違った選択をしたことに気づいた。しかし、もうどうしようもないところまで押し込まれていたので寧ろ冷静になり目の前の敵をただ倒すことだけに集中できていた。


 「おい!こいつは手強いぞ!無理せずに囲む人数を増やすんだ!盾持ちは前面に、槍を装備したものから攻撃しろ!」


 しかし、相手の雑兵に至るまで全てが統率されており怪我を負ったり不利になればすぐに周りの他のものが代わりに入る。そうすることで死者を出さずに高資の体力は徐々に削られていった。


 「…くそっ、無念なり…」


 高資の体力が尽きる頃には周りの兵達は全て打ち取られるか捕縛されており、頑強に抵抗した高資も全方位を警戒しながら戦い続けることは不可能で軽い傷を徐々に負いながら体力を無くした。


 「…よし!捕らえよ!死ぬ前のやつは介錯をしてやれ!首を持っていき芳賀高定殿に那須の首を臨検してもらうのだ!」


 敵の部隊長の言葉を遠くから聞きながら高資は意識を手放していった。


〜〜〜


 義弘


 「よし!敵が逃げたのを確認したぞ!鳥山城の残りを制圧したのち追撃に入る!」


 義弘は配下達が敵を抑え込めるのを確認しながら追撃の準備をする。


 「いますぐ追わなくてもよろしいのでしょうか?」


 義堯時代から里見についてきている配下の一人が試すように声をかけてくる。


 「こちらは既に兵を忍ばせており、焦る必要はない。それに、地の利は向こうにあり追いかける事になれば不利になることは確実だ。それならば彼らには確実に大田原城に向かってもらい足止めを食らっているところを後ろから強襲する方が良いさ。」


 「それは失礼致しました。」


 老兵である彼は恭しく頭を下げ下がって行く。


 「いや、寧ろ助かっているさ。俺は親父のようにはまだまだできないからな。これからも鍛えてくれ。」

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