第5話
大部分の伝えたい事は伝えた。後するべき事は韮山城に向かう時に小田原から職人を連れていく事だな。氏康が何人か選んでくれていたようで必要なメンバーは揃っている。明日にはここを発つ事ができるだろう。
「松千代丸様!」
そうやって声をかけてくれたのは北条綱成だ。地黄八幡と呼ばれる猛将だ。
「綱成殿か!お初にお目にかかる。」
「私は貴方の配下にいずれなるのです。もっと扱いを雑にしていただがなければ困りまするぞ。」
「そうか、では遠慮なくそうさせていただこう。」
「はっはっはっ、本当に1歳児か?中々に傑物だな。」
「綱成には敵わないさ。」
俺たちは他愛もない話をして別れた。あれは品定めに来ていたのかな?及第点を貰えてるといいな。
俺は今韮山城に着いて配下達に指示を出す訳でもなく、こちらに来てくれていた幻庵に会う予定だ。
少し待っていると幻庵が人を連れてやってきた。
「お久しぶりでございまする。首尾は上々のようで」
「なんとかな、やりたい事はみんなとりあえず理解はしてくれたみたいだよ。目安箱や伝馬制の設置に取り掛かってくれているのが伝わってきたよ。」
「ほっほっほっ、我が領地で先駆けていたのが分かりやすくて良かったのでしょう。この様子なら関所と楽市楽座の件もうまくいきそうでございますな。そのためにも道を先に整備しなければなりませぬ。」
「だな。韮山城にいる常備兵300を使うつもりだ。黒鍬衆といって戦地での土木工事や砦建築を行う戦闘と工作の熟練部隊にする予定だ。」
「それは良いことですな。遅れて申し訳ございませぬが、こちらが以前紹介すると話をしていた風魔の者です。」
「風魔小太郎にございまする。」
伝記で伝わっているような大男ではなく、戦国時代で見たら身長が高い180センチくらいだろうか。顔は厳つい。年齢的にはこの男と息子が全盛期の風魔小太郎かな?
「そなたは山師であると同時に乱破素波の者であるな?」
「はっ!風魔一族の頭領をしておりまする。もし御下命で雇っていただけるのであれば働かせていただきまする。」
「ふむ、今はどちらに住んでおるのだ?」
「今は我らが働いて得た銭で食い繋いでおりまする。定住することもなく放浪の旅でございまする。」
「ならば、風魔一族郎党みな召抱えよう。俺の直属とするので北条よりも俺を優先して仕えてほしい。」
「な!なんと!雇うのではなく召抱えて頂けるのでございまするか?」
「ああ、勿論武士としてだ。お前を武将として配下を足軽としてだな。だが戦場で武器を取って戦わせる気はない。というのも俺が期待するのは相手から情報を奪ったり、暗躍するような今までの活動をして欲しい。今渡せる土地は荒れた土地しかない。そこを俺は開発するつもりだ。そこで良ければ土地を与えたい。どうだ。」
「勿論喜んで仕えさせていただきます。」
風魔小太郎はその大きな身体を丸めて頭を下げる。
「よし、ならまずはお主の一族を韮山の立花辺りに向かわせてくれ。あそこは山がちになって川があるが、放棄された畑や田が多い。皆の力と俺の知識で豊かにするぞ。」
「はっ!」
こうして俺は初めての家臣である風魔小太郎とその一党を配下に加えた。
風魔一族が移動している間に今からでもできる塩水選や人糞の代わりに鰯で作る肥料を使う方法を伝える。とりあえず納得しやすいのはこれくらいだろう。正条植えなどの今までやってきた方法を変えるやり方はまだ難しいだろう。
それと、職人達とも話を通さなければいけない。常備兵を黒鍬衆にするために説明もいるな。とりあえず職人町に向かってから訓練場へ向かうか。
「職人達よ!私は八幡様のお力によって様々な道具の設計図だけは書ける!しかしそれを現実にあるものにするには君達の弛まぬ努力が必要だ!北条の民をより良い生活に導くためにもどうか力を貸してくれ!それに君達なら新しい挑戦に対しても物怖じせずに果敢に向かっていける者達だと、現当主である父上から聞いている!」
こうやって相手の自尊心をくすぐりながら自分のやっている事は大きな凄いことだと自覚させる。
「若殿様!我ら一同ついていきまする!」
俺はとりあえず唐箕、備中鍬、短床犂、スコップ、ツルハシ、型付け、踏み車、竜骨車、中耕除草機、千歯扱き、とりあえず覚えている限りの道具を見た目だけの絵しか描けないが、なんとか頑張って描いて木工職人と鍛治職人達に説明して試行錯誤してもらう。
特に力を入れて欲しいのはスコップである。鍛治職人には厚みを持たせて鋭さを上げるように指示。万能武器槍、鈍器、剣のスコップである。次点で簡単な千歯扱き。
後は後家倒し防御のために石鹸の製法を新しいことに取り組むのが好きな職人達に渡して試行錯誤してもらう。植物油と海藻灰、それに日本国産のハッカだ。ハッカに関しては商人からの輸入に頼るしかない。だから風魔に今度商人に扮して苗ごと取りに行かせるつもりだ。あとは、米から作る酒、日本酒と稗から作る酒、稗酒の作り方だが…酒職人には稗酒だけ渡しておく。稗酒が広まり始めた頃に日本酒を表に出す。作り方は蒸留を使うから蒸留機の作り方も一緒にだ。
何気にここの職人たちの家族はみな城内の職人街に移動させており、出入り口や壁には兵士が見張りをしている。そこに風魔がいれば大丈夫なはずだ。
これらとは別に黒鍬専門の職人のグループも作る。コンクリートやセメントなどの作り方を説明し、実際に適切な配分で作れるかを彼らに実験してもらう。今ある竃でも貝殻を熱して石灰にし、十分にセメントにできるはずだ。
そして最後に常備兵達を集めて、韮山城の広場にお立ち台のようなものを置かせて演説をする。
「北条を守るための矛であり盾である諸君達には大きな機会がある!私は日の本で初めての黒鍬部隊というものを作る!その名誉ある先鋒を君たちに任せたい!黒鍬とは戦場に誰よりも先に着き砦や陣地を作り上げ、相手との戦いを優位に進めるための部隊である!勿論!土木作業だけではない!有事の際には誰よりも果敢に戦ってもらうことになるだろう!そのためにも私が君たちのために特別な訓練を施す!私についてきてくれ!」
「「「「おおおお!!!!!」」」」
こんなちょろいのでいいのかとは思うが、みんなやる気になってくれたようだし、部隊長のような人に訓練内容を纏めた紙を渡しておく。
内容としては整然とした行軍や近代的な筋トレ方法、そこに土嚢を運びながらのランニングやスコップができた後には、穴を掘ってその土を使い韮山城の空堀と土壁を作る訓練だ。それに常備兵達に食トレをさせるために、料理人達には栄養バランスを考えた食事を作らせる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます