村田英二の苦悩-レンタカー奮闘記

篠田 太一

プロローグ

 一日の勤務を終え、ロッカーで着替えを済ませる。

村田英二、三十一歳。

(株)石田商事が運営するアイレンタカー川崎駅前店の副店長だ。


「お先に失礼します。お疲れ様でした〜」

店長の大山に挨拶を済ませ、店を後にする。

自宅までは電車で三十分ほどの距離だ。


 レンタカー屋の仕事には大きく分けてニ種類ある。

一つは誰でも思いつくだろう、店頭でレンタカーを貸し出す業務。

もう一つはディーラーや修理工場を回り、代車としてうちのレンタカーを使ってもらえませんか?と売り込む営業である。


 村田はこの営業が得意だった。

しかし、逆にどうにも店頭での接客が好きになれない。

大山店長は外に出るのが億劫なようで、専ら店に残りあれこれ指示を出すのが好きだという。

ある意味バランスの取れた体制なのかもしれない。


 そうこうしているうちに自宅についた英二は既に寝ているであろう、一人娘の楓を起こさないよう細心の注意を払いながら鍵を開ける。


「おかえりなさい」


 妻の真美である。

真美とは大学時代から付き合っており、二十六歳の頃に結婚した。

真美は車の免許も持っておらず、レンタカーについてもあまりよく知らないが日々支えてくれる良い妻だ。


「今日は特に遅かったね。職場で何かあったの?」


「何もない日の方が少ないよ。今日は渋滞がひどくて時間通り帰ってこられないお客さんが多かったんだ。これくらいはどうってことないよ。」


「あら。今日も大変だったのね」


 毎日職場で起きたトラブルを帰宅してから真美に話すのが日課となっている。

気軽に愚痴を吐き出せる環境を作ってくれている真美に感謝だ。


 そう、に話せるレベルのトラブルなら大したことはないのだ――

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