【Ex】さぁ、次の国へ!
リノとゲンには三分以内にやらなければならないことがあった。リノは栗色の髪を乱しながら、フィッシュサンドを咥えた
「誰よ! あのフィッシュサンドを食べないと次の国にはいけないって言ったやつぅ!」
「わしだな。この国でしか食べられんと聞い――」
「しかも! 出航時間を勘違いしてぇえ!」
「それはリノだな」
一人と一匹は隣国に航るための手続きを済ませていなかった。三分以内できるかできないかの瀬戸際にいる。
久しぶりに晴れた空に誘われて出てきた人々は目を丸くして華奢な背ときれいな毛玉を見送る。
「何だ、あれは」
「そんなの後あとぉ!」
「後では機会がなくなるではないか」
憮然と語るゲンには水を渡る能力がある。水に潜り込んでしまえば、塀に囲まれた植物園でも王城の噴水だって行き来できる故、全く焦っていなかった。取り残されても隣国に顔を出すぐらい朝飯前だ。
呑気な精霊を放り投げても何ら問題はないが、人の文明に触れると楽しそうにするのも事実で付き合わせている。しかし、必ずしも気持ちが伴うわけではない。はねる鞄がゲンのフィッシュサンドをはたき落としたとしても、あくまでわざとではない。
「ぬぁああ! わしの! フィッシュサンドォオオ!」
「ごっめーん! 舌かまないで、ね!」
勢いよく溝を飛び越えたリノは難なく着地した。
問題があったのは、ゲンの方で勢いあまってリノの鞄に頭をつっこみ、腹をリノに拘束されたまま、のたうち回る。
「やふぇんかぁああ」
「ごめんごめん! 後で聞くから!」
目の前の角を曲がり港に入った。
長蛇の列をがのび、船は出航準備さえ整っていない様子だ。
「あら、お嬢さんもラグ諸島にわたるの? でも、しばらくは無理ね。船長がフィッシュサンドを買いに行って帰ってこないそうよ」
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