新米巫女とお憑き霊!

寧楽ほうき。

第1話 熟練幽霊と新米巫女

 とある日の夜。俺はいつも通り夜の町を散歩していた。散歩とは言っても、足をつけて歩いているわけではないんだが。

 幽霊になってから早くも十年が経った。

俺が死んだ時から町の景色は何一つ変わっていない。


「ふぅ、今日はここらで休憩するかー」


 浮遊したまま頭の後ろで両手を組み、くつろいでいると、背中に何か鋭いもので突かれている感触があった。


「んぁ?」


 振り向いてみると、そこには一人の女の子がいた。


「なーんだ、人間か。ただの人間に俺のことなんて視えないだろうしな…」

「あなた幽霊ですよね?」

「はい、そうですけど?——って、俺のこと視えてるの⁉︎えっ、きみよく見たら可愛いじゃん!特に胸!俺にナンパ⁉︎いやー、やっぱイケメンに生まれてよかったー!まぁ、死んでるんだけど!」


 なんて言っていると、気づけば俺はボコボコにされ、道路のど真ん中で正座させられていた。


「——はい、申し訳ございませんでした。嬉しくて調子に乗りました。反省しております」

「それなら早く成仏してもらおうか!」


 まるで鬼のような形相で手に持った銀の槍を、俺に向けてきた。


「え、え、目がガチっスよ!冗談ですよねぇ⁉︎」

「本当のことよ。さぁ、目を閉じなさい!」


 この綺麗な赤く長い髪は、今まで強制成仏させられてきた霊の血なのだろうか…。アーメン。

 勢いよく槍が俺の頭に刺さるが、成仏させられるような気配は一切無かった。


「——あ、そういえば今までに何度か成仏させられかけたんだけど、どうしても術が効かないらしくて、みんな帰ったんだった」

「はぁ?今日もノルマ達成は失敗か…」


 除霊にノルマなんてあるのか……。

女の子は頭を抱えて悩んでいる様子だったので、俺もこの冴え渡った脳を使って一緒に悩むことにした。


「——俺がきみの除霊の手伝いをしようか?」

「…へっ?」

「答えはイエスかノーだけだぞ」

「そうね、それでノルマが達成できるのなら仕方ないわ。それで何が目的?」

「JKとの同居です」

「真顔で言うとかキモ。死ね」


槍よりも言葉の方がはるかに痛いんだが…。


・ ・ ・


「ね、ねぇ、そろそろ刺すのやめてくれない?結構痛いんだけど…」


 なぜだろう、彼女ずっと歩きながら俺のこと刺してくる…。


「霊に痛覚なんてないでしょ。それについて来ないで」

「精神的に痛いっす…。あと、俺はきみと同居するって言ったよ?」

「私は認めてない。それと、私の名前はたちばな幽香ゆうかよ」


 そう言う彼女の頬が、なぜか赤く染まったように見えて可愛らしく思えた。


幽香ゆうかちゃーん!俺の名前はね——!」


 なぜかそこでまたまた槍で刺された。


「うるさい、近づかないで。あんたの名前なんか興味ないから」


こんなやりとりをしながら俺たちは彼女の家に向かった。


「次に刺してきたら俺、新しい趣味に目覚めちゃうからね!」

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