第42話 Sランカーたち
スリスリ……スリスリ……
「こ、コテツ殿? どうなさったのですか? 今日はやけに甘えていらっしゃいますけど……。何か理由でも?」
スリスリ……スリスリ……
「理由なんて無くてもいいのですよコテツさん。あんな薄情な人妻なんか放っておいて、もっと私に甘えて下さいな!」
スリスリ……スリスリ……
「ひ、人妻言うなっ! ぶった斬るぞモニカっ。私はただコテツ殿の様子がいつもとは違うから心配なだけだッ! ど、どうぞ思う存分スリスリして下さいコテツ殿っ」
スリスリ!……スリスリ!……
「ちょっとコテツさんを取らないでよっ! さあコテツさん、今度は太股と太股の間をスリスリして下さい、さあッ!」
「だ、駄目ですコテツ殿っ! そんなモニカの不浄なところをスリスリしたら、コテツ殿が穢れてしまいますッ!」
スリスリ?……スリスリ?……
「ああーん、コテツさんはお気に召しましたのね! ここは不浄どころかとても清らかなところですわ。うふん」
「だっ、駄目ですってばッ!」
引き剥がさないでくださいリリアンさん。オレはいま猛烈に甘えたい気分なのです。
そもそもレーガンさんが悪いのです。オレが取引したおネエさま捕縛作戦には、オレしか参加させてくれなかったのですから!
ずっと一緒だったリリアンさんとモニカさんが居ないんですよ? 分かりますかこの不安感。
イヌは仲間と共に集団で生きるのが当たり前なのです。なのに知らない人たちの中で一匹でいるなんて……。寂しくて毛が抜けそうですっ!
「コテツ君……。そろそろこの会議室に俺の仲間たちが来ると思うので、イチャイチャするのを終わりにして貰えると助かるのだが……」
レーガンさんは何も分かっていませんね。仲間と離れなければならないイヌが、どれだけ心細いかを! なので。
「イヤです」
「イヤ、なんだね……」
「リリアンさんとモニカさんも仲間に入れてくれたら、ご期待に応えます」
「はぁ、何度も言うけどねコテツ君。我々はまだ君を全く信用していないのだよ。リリアン君とモニカ君は共にAランカーの実力者だそうだね? そんな彼女たちと一緒の君が、ボルトミと戦う段になって我々を裏切ったらどうなるかね? 途端に我々は窮地に陥ってしまうだろう」
レーガンさんの話はいつも長くて意味不明です。約束したのになんでオレがレーガンさんたちを裏切るのでしょうかね?
オレがそんなことを思いながらちょっぴり不貞腐れていると、知らない四人の人間の匂いがしてきて扉を叩く音がしました。
例のレーガンさんのお仲間たちのようです。フレンドリーな匂いは……今のところしていません。
「おうレーガン、待たせたな。本部より召集されたSランカー四人、ただいま参上だ」
「やあ、ご苦労だったね。さあコテツ君もシャキっとしたまえ。そして彼らに挨拶しておくれ」
リリアンさんとモニカさんにスリスリしているオレを、四人は冷たい目で見ています。
このままスリスリしていたいのですが、しかし挨拶せねばなりますまい。オレは躾のいい飼いイヌですので!
「はじめまして、柴イヌのコテツです。よろしくお願いします!」
ところがオレがフレンドリーに挨拶したにも関わらず、四人は警戒の匂いをさせながらオレを無視しています。
そしてレーガンさんと話し始めました。躾のなっていない人たちですね!
「こいつがドン・キモオタの仲間だって男か? 女とイチャつきながら平然としている様だが、胆が据わっているのかそれとも馬鹿なのか、どっちなんだレーガン」
「さあな、俺にも分からんよ。それよりお前たちも自己紹介をしてくれんか。一応これから共に戦う仲間になるんだし、必要なことだと思うがね?」
「チッ、仕方ねえな。俺の名はバウワー、Sランカーの戦士だ。得物は見ての通り
「はじめまして、コテツさん。私の名はミネルバ・コーチです。ミネルバと呼んで下さいな。Sランカーの聖女です」
「あたいはパフだよお。Sランカーの
「ごっつぁんです!」
「あー、こいつは力士のように見えるけどSランカーの魔法士だ。ちなみにごっつぁんですとしかしゃべらない」
「みなさんよろしくお願いします!」
普通に挨拶できるんじゃないですか。見直しましたよ。
それでも警戒の匂いが消えていないのは、きっとみなさん臆病なのでしょう。イヌのお友だちにもそういう方はいましたね。用心深い性格は悪いことではありません。
「なるほど、みなさんはかなり臆病なんですね! 納得です」
「なっ!? 何だとこの野郎っ、喧嘩売ってんのかあッ!」
「あらあらまあまあ……。どうかこの者に天罰が下りますように」
「うわあ、言うねえ君も……」
「ごっつぁんですッ!」
みなさん急に怒りの匂いをさせ始めました。オレなんか怒らせるようなこと言いましたっけ?
「こ、コテツ君。どういう思惑があっての事かは知らんが、そういう侮辱的な事を言うもんじゃない! みなに謝りたまえ」
ほう、レーガンさんによると臆病というのは人間にとっては侮辱のようですね。これは失敗しました。
「みなさん、ごめんなさい!」
「お、おう。……ちょっとレーガンさ、こいつやっぱり馬鹿なんじゃないのか? 一緒に戦って本当に大丈夫かよ」
「なあバウワー、馬鹿に見せるのが我々を油断させる為の彼の演技だとしたら? それに彼は実際かなり強いからな、用心だけは怠るなよ」
「俺より強いのか?」
「タイマンならお前より強いかもな」
「ケッ! 気に入らねえな!」
小声でレーガンさんとバウワーさんが話していますが、全部丸聞こえです。
そうですか、どうやらバウワーさんはオレのことが気に入らないようですね。まあ仕方ありません。人気の柴イヌが妬まれるのはよくあることです。
「よし! では全員揃ったところで今回の錬金術師ボルトミ捕縛作戦の概要を説明する。悪いがリリアン君とモニカ君はここでお別れだ。我々が帰還するのを本部から与えられた部屋で、大人しく待っていてくれたまえ」
「レーガン様、コテツさんの事をくれぐれもよろしくお願い致しますわ。誇り高きSランカーのみなさんなら、決して暗殺などはなされないと信じておりますので」
「むろんだモニカ君。心配ない」
「こ、コテツ殿! どうか御無事で。この先どうなろうと私がコテツ殿の味方であることを忘れないで下さい! そして未だ放置プレイが続行中であることも忘れないで下さいねっ、キャッ!」
「ねえリリアン、こんな時にあんたって馬鹿なの? 見なさいよあの聖女、あんたの今の一言で目を吊り上げて睨んでいるわよ」
「フン。なんだあんな年増女。どうせ羨ましいんだろ、あっかんべー」
こうしてオレはリリアンさんとモニカさんと別れ、知らない人たちと一緒に行動することになりました。
さ、寂しいっ! もうすでに心細くて遠吠えしたくてしょうがないです。
レーガンさんの話によると、ギルド本部はおネエさまの秘密の研究所を見つけたらしく、これからそこにみんなで行くそうです。
ここに来る時に使った転移門とかで行くようですね。オレお金あったかな?
「コテツ君、お金の心配はいらないよ。全部ギルドの経費で行くからね。みんなもう一度言うが、目的地は王国東部にあるゴマールの大森林。そこに一番近いライオネル城塞都市まで都市間転移門で移動し、そこから森の入口まで馬車。あとは徒歩でボルトミの研究所まで行くことになる」
ふむ。場所の名前とかまったく憶えられる自信がありませんね。まあ、みなさんについて行けばいいでしょう。
「パフ。ゴマールの大森林ではハーフエルフのお前が頼りだ、任せたよ」
「お安いご用だよレーガンさん!」
「以前のボルトミ討伐失敗の際に、五体のホムンクルスに四人のAランカーが全滅させられたのはご存知だろう。今回はボルトミの研究所という事もあって、おそらくホムンクルスの数も十匹近いと見ている。みな油断しないで戦ってくれたまえ」
「てかレーガン。そいつとそいつの仲間が三匹のホムンクルスを倒したんだろ? ならSランカーの俺たち四人なら、余裕なんじゃねえの?」
おや? そいつと言うのはオレのことでしょうか。さっき自己紹介したのにもう名前を忘れてしまったようですね、忘れっぽい人です。
「バウワーさん! そいつってオレのことですか?」
「あ? だったらなんだ!」
「オレの名前はコテツです。ちなみに柴イヌなので、ワンちゃんとか柴ちゃんって呼んでくれてもいいですよ?」
「お、おう……。よく分からねえがコテツだな、次からはそう呼ぶよ……」
「ありがとうございます!」
「ねえねえ、何であんた柴イヌって呼ばれてんのん?」
四人の中では一番フレンドリーっぽいパフさんがオレに話しかけてきました。
この女の人とはもしかしたらお友だちになれるかもしれませんね。
「パフさん、それはオレが病気で人間の姿になった柴イヌだからですよ!」
「えっ? 言ってる意味がよく分からないんですけど?」
「あー、パフ。その事については後で俺が説明するから、とりあえず話の先を続けてもいいかい?」
「レーガンさん、ごめーん」
「それでだコテツ君。君が戦ったリザードマンベースのホムンクルスと、この俺レーガンとでは単純にどっちが強いか分かるかね?」
「リザくんとレーガンさんなら、レーガンさんの方が強いですよ!」
レーガンさんの素早さならリザくんはついていけないでしょうからね。
「じゃあそのリザくん二匹と俺一人ならどうかな?」
「そうですね……。リザくん二匹をレーガンさんなら倒せますけど、レーガンさんも怪我するか最悪死にますね」
「ふむ、相討ちか。その理由は?」
「リザくんの身体がめちゃくちゃ硬いからです。レーガンさんの剣だと一匹倒すのに時間がかかって、その間にもう一匹のリザくんの伸びる爪とかで怪我しそうです。まあそれでも二匹は倒せます」
「なるほどね。つまりパーティーの連携で一匹ずつ丁寧に倒していくしかないわけか。ありがとうコテツ君」
「だがレーガン。その戦い方だとボルトミの奴は転移スクロールで逃げてしまうんじゃねえか?」
「ありえるね。まあまだ時間はあるし、道中に作戦を練っていこうじゃないかね」
うーむ、リザくんが一杯いるのはいいとして、もしまた別のワンコがいたらどうしましょうかねえ。
正直ワンコとは戦いたくはありません。また気絶させておきますかね……
オレはそんなことを考えながら、おネエさまに会ったらもう一度ご主人様のことを聞いてみようと思いました。
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