第16話 衣服創造(フェスカ)
余たちは3階層へと足を踏み入れた。
3階層からはモンスターの強さも跳ね上がる。
余たちの実力であれば問題ないが、油断はできないだろう。
さすがに、この先には罠もあるはずだ。
「ふむ。ここが3階層だな」
「はい。2階層までが最初級だとすれば、3階層は初級といったところですね。わたしでも、無防備なところに不意を突かれれば、ダメージを負うこともある階層です」
「そうだな。気を引き締めていくとしようか」
「はい。お任せください」
いよいよ、ダンジョン攻略も本格的な段階に入ったようだ。
余の予想通り、モンスターたちが強くなってきた。
それでも、余にとっては余裕だったのだが。
「陛下。こちらをご覧になってください」
イリスが指差す方向には宝箱があった。
「ほう。ダンジョンの宝箱を見るのは久しぶりだ」
「そうですね。わたしは見るのは初めてです」
2階層までは、ダンジョン内で宝箱を見つけることはほとんどない。
しかし、3階層ではたまに見つかることがあるのだ。
より高階層に行くにつれて、出現頻度は上がる傾向にある。
それと同時に、中身の希少性や罠の危険度も上がっていく。
3階層の宝箱は、大した物が入っていない代わりに罠の危険性もほとんどないだろう。
イリスが慎重に宝箱を調べる。
「どうだ? 何かわかるか?」
「はい。鍵はかかっていないようですね。開けてみます」
イリスが宝箱を開ける。
そのとき。
プシュッ!
何かの液が宝箱から吹き出した。
「うぇっ? な、なにこれ!?」
イリスが液体をモロにかぶる。
彼女は雷魔法に秀でる。
さらに、肉体強度もそれなりだ。
しかし、残念ながら罠の探知能力や索敵能力はそれほどでもない。
だから、このような不意のトラップには弱い。
「大丈夫か? イリス」
「だ、大丈夫です。どうやら毒ではないようです」
イリスがそう言う。
余は魔眼で液体の毒物反応を探る。
彼女の言う通り、毒ではない。
「ふむ。ならば、早く拭くといい」
「はい……、わかりました」
イリスがハンカチを取り出して、濡れた身体を拭こうとする。
その瞬間、彼女が何かに気づく。
「って、服が溶けてます!」
彼女の制服がドロリと形を失っている。
「本当だな。さっきのは服のみを対象とした溶解液だったようだ」
服のみを溶かす。
一件、難解な設定が必要な罠だが、実はそうでもない。
人を殺傷することを織り込んだ罠の場合は、対象者の魔法抵抗力によってレジストされてしまう。
あえて服や装備のみを対象とすることで、魔法抵抗力をすり抜けて害を与えることができるのだ。
「わわわっ。ど、どんどん溶けちゃう……」
あっという間に、イリスの服は半分以上が溶けてしまった。
別に特別な防御力があるわけでもないし、ダンジョン攻略だけを考えるのではあればこのままでもよいのだが……。
「イリスよ。余がお前の服を創造してやる。そのままでは、いろいろと不便であろう」
「あ、ありがとうございます」
「どれ。まずは、余の前で直立してみろ」
「こ、こうですか?」
イリスが余の前に立つ。
何やら顔を赤くして、体を手で隠している。
あらぬ姿を余に晒すのが恥ずかしいのか。
まったく、可愛いやつである。
「イリスよ。両腕を上げよ」
「ええっ!? そ、そんなことをしたら……」
「嫌なら構わぬ。これはイリスのためを思って提案していることなのだがな」
「わ、わかりました。……えいっ!」
イリスが意を決した様子で両腕を上げる。
衣服が溶けていたこともあり、彼女の可愛らしい乳房が丸見えだ。
しかしもちろん、余は彼女を辱めるためにこのような指示をしたわけではない。
「衣服創造(フェスカ)」
余は、イリスの裸体を覆い隠すように衣服を創り出す。
「お、おお~。すごいですね。まるで、わたしのために作られたかのようにピッタリフィットします」
「当然だ。まさに、イリスのためにつくったのだからな。余の魔眼で、お前の身体サイズは筒抜けよ」
「えっ!?」
「何を驚いておる? ええと、上から88、56、そして……」
余の言葉は最後まで続かなかった。
「うわあああ! 陛下のバカーー!!!」
イリスの強烈なアッパーが余の顎を襲う。
「ぐはあっ!」
思わず膝をつく余。
そんな余をイリスは睨んでくる。
「もう知りません! バカアホドジマヌケ陛下!」
ぷんすか怒りながら先に進むイリスであった。
適度にダンジョンの空気を楽しむために、魔力と闘気を抑えておったのが裏目に出たな。
さすがの余でも、今の状態でイリスの攻撃を完全に防ぐことはできない。
「ぐ……。ごほっ。い、痛いではないか」
「陛下が悪いんです! わたしのスリーサイズを勝手に調べるなんて…………」
裸同然の姿を晒しておいて、気にするところはそこなのか?
「余はただ、お前の服をつくってやろうとしただけなのだがな」
「それなら、普通に聞いてください! いきなり人の胸やお尻のサイズを看破するなんて、何を考えているのですか!」
「ふむ。では、スリーサイズをお前の口から余に教えるがよい」
「うぅ……。陛下は変態です」
涙目のイリスが余を睨んでくる。
「イリス。これは必要なことなのだ」
「セクハラです!」
「よいか? この先に潜れば、おそらくもっと過酷な戦いになるだろう。余はイリスのことが心配なのである」
「へ、陛下」
「イリスが万全な状態でなければ、余も安心して戦うことができぬ」
「そ、そういうことであれば。わたしのスリーサイズは、上から88、56、そして……って、バカー!!! そんな手に乗るはずがないでしょう! うまいこと言ってもわたしは騙されませんよ!」
見事なノリツッコミを見せるイリス。
なかなか筋が良いぞ。
将来有望である。
まあ、こんなところで漫才をしているわけにもいかぬのだが。
ダンジョンの壁の一部が光り始めている。
ダンジョンは、定期的にその構造が変質するのだ。
「どうやら、次へ行くしかなさそうだな」
「はい。覚悟を決めましょう」
こうして、余たちはさらに先へと進み始めるのであった。
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