真夜中の夢はドーナツの穴

阿透

第1輪 孤独依存症

第1輪① 

 目覚まし時計が鳴った。朝を知らせる警鐘が、夜を超えてやってきた眠気を邪魔する。今日も朝から暑くて蝉が騒ぐ。まだ一週間を過ぎていない奴がいると思うと、早く夏と一緒に消えてくれと思う。

 今日も眠れない夜が終わった。眠れないのに眠気が酷い。それは眠りたいと思うほどに眠れなくなって、眠れると思った瞬間に警鐘に邪魔をされることがここ数日の恒例となっている。

 時計を止めて、ベッドから起き上がり、カーテンを開けた。直射日光が眠気を誤魔化してくれればいいが、炎天下の太陽は酷暑と温気を知らせるだけだった。身体と心のダルさを引きずって、床に放置した制服に着替える。夏休みが終わって、着慣れていたはずの制服は懐かしい新鮮さがあった。

 とにかく眠い。新学期が始まってもう一週間が経ったのに、生活リズムが夏休みに引き戻されている。このまま寝てしまおうかと思う。眠たい体を無理やり引きずってきたおかげで車にでも轢かれたらたまったものじゃない。命を守るために今日は寝坊しよう。身の安全のためと伝えれば、担任も納得してくれるだろう。

 そう思った時には制服に着替え終わっていた。夏服の手軽さを憎んだ。時刻はすでに遅刻を告げている。

 夜食を済ませたので朝食は食べない。食べたせいで眠くなってしまわないためにも食べない。通学カバンを持って誰もいない家に挨拶をする。僕が起きる頃に両親が出勤しているのは、学校があってもなくても変わらない。なにか忘れ物をしている気がして少し考えたが、頭が働かないので諦めた。

 玄関を開ければ蝉の騒ぎ声と炎暑が出迎えてくれた。暑い。煩い。眠い。昨日も同じことを思った。

 今日も保健室でお世話になろう。毎日生きて帰って来られているだけで偉い。そもそも生きているだけで偉いのに、学校にまで行くとか偉すぎる。そう自分を鼓舞しながら歩く通学路は、同じ制服の者たちが点でバラバラに歩いていた。

 家から徒歩で行けるから、という理由だけでそこそこ頭のいい高校に入学した。正門には生徒指導部らしき先生がダラダラ歩く生徒の尻を言葉で叩いていた。その声が蝉よりも煩いので、お前は夏が過ぎる前に消えてくれ。

 言葉で尻を叩かれても歩くペースは変えない。急かされて走った拍子に転んで怪我でもしたら、どう責任を取ってくれるのか。ただでさえ寝不足なのに。体を守るために挑発には乗らず、ゆっくり歩く。ホームルームが始まるチャイムが鳴った。

 ホームルーム中の教室に入れば、たとえ後ろの扉から静かに入っても注目の的になる。何十人もの目がこちらを振り返る姿は、一昔前のホラー映画のような味がある。だからあえて前の扉から入る。

 いつものように前から思いっきり堂々と入れば、先生の話を真面目に聞いていた奴もそうじゃない奴も自然と意識が向く。音に翻弄される姿は猫みたいで可愛いと思っていたが、こんなことを四回も続けていると「またお前か」みたいな反応をされるから、次は別の入り方を考えてみようと思う。

 担任の小言を他所に自分の席に向かう。机と机の間を歩いている途中で、僕の前の席に座っている奴が挨拶代わりに軽く手を振る。手を振り返して、一番窓際の前から四番目の固定席に座る。軽い運動をしたので眠くなってきた。今日も安全に登校できたことを心の中で褒め称え、ホームルームが終わるのと同時に眠りについた。



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