40話 事故の後

 翌日。

 Twitterのトレンド入りを果たした〈にゃん太〉先生は一晩で性別を偽っていたことが全世界にバレてしまった。

 ”なな”の配信中もコメントで


 [コメント]

 :ななは知ってたんか?

 :これま?

 :あーあ

 :女の子があんなエッチイラスト書いてるとか興奮するわ!

   :

   :

   :


 などなど。自分の配信どころでは無かった。基本的にはノーコメントで貫き通したがリスナー含め界隈ではかなり話題になっている。

 昨日の配信はあいさつが終わってすぐ〈にゃん太〉先生がミスに気づきブチ切りして終わってしまった。

 〈マクロ〉先生がフォローしていたが終始ニヤニヤした感じだったので気づいていて指摘していなかったのかもしれない。

 精神に強烈なストレスをかけられてしまった〈にゃん太〉先生は引きこもってしまったそうだ。

 そんな状態になってしまった娘を心配して父親である店長から連絡を貰ったのが今朝のこと。「話を聞きに来てもらってもいいかい?」とのことだ。

 もちろんと二つ返事でOKした俺は〈にゃん太〉先生のいる喫茶店へと急いだ。

 ちなみに千鶴と約束していた親との話はキャンセルだ。今回の事件の方がよっぽど重要だ。〈にゃん太〉先生の進退の方が”なな”的にも優先度が高い。

 

               〇〇〇


 喫茶店に着いた俺はまず店長にあいさつした。

 「〈にゃん太〉先生の様子はどうですか?」

 「あぁ、酷く落ち込んでいてね。上の部屋にいるから声をかけて上げてくれないかい?」

 「えぇ、分かりました」

 店長に連れられて店の2階にある〈にゃん太〉先生の部屋の前まで通された。いつも飲んでいる珈琲とお茶菓子を店長に渡されて「それじゃあ下にいるから」といって店長は店に戻ってしまった。

 「あの~、〈にゃん太〉先生。俺です”なな”です」

 「……」

 部屋にいる気配はするが返事がない。

 「昨日の配信のことなんですけど……」

 「……」

 返事がない、ただの屍のようだ。

 これは重症だな。

 まったく他人事では無いので心中は察する。

 「すいませんでした。俺がもっとちゃんと教えていれば」

 「……”なな”さんのせいじゃ無いです」

 「いえ、せめて配信前にテストを見てあげることさえしてればこんなことには」

 そうだ。俺が配信方法を教えた時に一つだけ伝え忘れていたことがあった。

 テスト配信をすることだ。

 設定などを間違っていないかを確認するために配信前に機材のチェックのために必ず行う儀式のようなもの。それを〈にゃん太〉先生に伝え忘れていたのだ。

 「俺のミスです。謝ってすむことじゃ無いですけど。本当すみませんでした!」

 「……いえ、大丈夫ですって言ったのは私です……マクロちゃんに誘われて調子に乗ってたんです……だから罰が当たったんです……」

 消えてしまいそうな声で扉の向こうから聞こえてくる声は弱弱しくかなり憔悴しているようだ。

 「良かったら下で話しませんか? 日の光が当たるところの方が気分も晴れますよ」

 「……嫌です」

 「せめてこの扉開けてもらえませんか?」 

 「……」

 何かの記事で「駄目」「辞めろ」などのネガティブな単語を引きこもりの人間に言っては逆効果だと読んだことがある。自分がそんな状況に遭遇するとは思わず真剣に呼んではいなかったので急いでスマホで検索する。

 ついでに千鶴も呼んで応援を頼もう。

 

 

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