第27話 擬装2
翌日。
さっそく千鶴へ連絡し家へと来てもらった。
「さすがに無理じゃね?」
擬装の話をして見たところ千鶴はあまり乗り気じゃない。
「無理でもやるしかないだろ。〈神無 メイ〉の事件見たろ。バレたら終わりだと改めて実感したぞ」
〈神無 メイ〉バ美肉事件は1日たった今でもSNSを中心に話題になっている。
昨日の夜の配信でもコメントはバ美肉の話題がちらほらと出ていた。
[コメント]
:メイちゃんが男だったとは……
:信じてるぞなな!
:もしかしてななも……
:おっさんにスパチャしてたという悪夢
見て見ぬふりをしていたがどうしても目についてしまった。
登録数20万人でこの騒ぎだ。もしも俺が身バレした場合チャンネル登録数50万人、騒ぎは今回の比ではないだろう。
そのためこれからは本腰を入れて身バレ防止に努めて行かなければならない。今回の千鶴の擬装計画はそのための第一歩だ。
「う~ん。言いたいことは分かるんだけど私じゃ無理じゃね?」
「兄妹だし試してみる価値はあるだろ」
「声帯は関係ないでしょ。……うーんまぁやれるだけやるけど」
「サンキュー」
しぶしぶ了承してくれたところでさっそく擬装の練習を始める。
「良し、それじゃあまずはあいさつからだ!」
「こんなな~って?」
「そうだなあいさつは絶対出来なきゃ始まんないぞ。まずは地声でやってみてくれ」
千鶴は軽く咳ばらいをして
「こんなな~……」
少し顔を赤くしながら最後は消えそうな声でのあいさつだ。
「おいおい、恥ずかしがるなよ。そんなんじゃ全然駄目だ」
「いや、いつも聞いてるけど自分で言うとなるとなんか恥ずかしくてさ」
「俺なんて毎日言ってんだぞ。恥ずかしいとか言うなよ」
「いや、ハズイでしょ」
「……まぁいい。もう一回だ。元気よくな」
「う~、……こんなな~!」
さっきよりかは少し元気が出てきたけどまだ微妙に足りない。しかし、ここでつまずいてたらとても1カ月で”なな”の擬装をするなんて無理なので次のステップに進むことにする。
「まだ少し足りないけどしょうがない。あいさつは自主練しててくれ。それじゃあ次だ」
過去の配信を教材としてあいさつから軽く雑談、本編への流れを確認する。
「雑談は最近の出来事を話しながらコメントを2,3個拾ってやる。例えばコレとかコレだな」
コメントを見ながら俺がよく拾うコメントを指差す。
「こんな早いの良く読めるよね」
「さすがに長文は読めないけど集中すれば読めないことはないぞ。ようは慣れだ」
「ふーん、そんなもんなんだ」
「コメントを拾った後は大体笑うか「あ~」って言ってれば大丈夫だ」
「意外と雑じゃん」
「面と向かって会話してるわけじゃないしそんなもんで大丈夫だ。そのあとで何かしらの話につなげていければ上出来だ」
ふむふむと話を聞きながら過去配信を食い入るように見る。
「なんかそういう話聞くと配信の見る目変わるからなんか嫌だわ」
「リスナーからしたらそうだよな。でもVtuberに限らず配信者なんてそんなもんだぞ。コメント全部読めるわけじゃないし」
「スパチャとかは?」
「基本全部目を通すけど配信に関する内容なら優先して拾うようにして、それ以外は最後のスパチャ読みでって感じだな」
「それはコメント遡ってってこと?」
「場合によるな、RPGとかで詰んでる時には遡るし、サクサク行ってる時にはスルーしてしまう時もあるな。まぁ今回はコラボだから基本スルーで大丈夫だ。”たまも”が拾ったやつにだけ反応してればいい」
「了解。毎回スパチャ投げてる身としては聞きたく無かったなぁ」
コイツは”なな”の正体が俺だと知ってもいまだにスパチャを投げてくる豪の者だ。
「てか、それならコメント拾う練習する必要無くね?」
「何があるか分からんからな。練習するに越したことはないだろう。それに意外と雑談のいい練習になるんだ」
「ふーん」
「良し、それじゃあミュートにしてるから適当にコメント拾って2,3分話してみてくれ」
「りょ~」
そう言うと真剣にコメントを目で追いかけ話し始める。
「あははっ! それな~。マジウケるわ~」
「ちょいちょい! 待った!」
「何?」
止められたのを不満そうにこちらを振り向く。
「完全にキャラ違うだろ! ”なな”はそんなにギャルじゃないぞ」
「そんなにギャルだった? 女子なんて大体こんなもんでしょ」
「いや、俺女子じゃないし」
「でも”なな”は女子じゃん」
「だからこそのギャップというかさ……」
「めんどくさ」
少し千鶴がふてくされてしまった。
「いつも見てる”なな”の配信を思い出しながらやってみてくれ」
「……りょー」
先はまだまだ長そうだった。
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