追悼39 質疑応答
美帆と優斗が目を覚ましたのは、向き合った檻の中だった。
優 斗「ここはどこなんだ?あれ、裸にされている?」
美 帆「そうみたい」
優斗と美帆は、服や装飾品の全て外され、産まれたままの姿に理髪店などで掛けられる刈布を纏っていた。
優 斗「何か揺れているけど、車?いや船か?」
美 帆「知るか。それよりなぜ優斗がそこにいるの?」
優 斗「俺に分かるか」
美 帆「私たち、誘拐された?」
優 斗「誘拐?何のために…。変な女に騙されて気を失わされて…」
美 帆「えっ、私も変な男に…」
優 斗「どういうことなんだよ~、ここから出せ~」
美 帆「そうだ、出しやがれ~」
財津たちは、監禁室に備えられた監視カメラで確認ふたりの様子を伺っていた。
神宮寺「元気なこと」
蜷 川「悪い奴ほどよく眠る、ですか」
財 津「眠らせたのは俺たちだけどね」
蜷 川「そうでした、僕としたことが」
三 上「蜷川さん、大丈夫?。このあと奴らと向き合うのに」
蜷 川「慣れていますから、ご心配なく」
財津たちは、監視カメラでの確認で新たな証言を期待していた。
綾小路「罵倒し合うとか証言を擦り合わせるとか、何か動きがあるのではと敢えて、
向きき合わせましたが…無駄に終わりそうですね」
財 津「大丈夫ですよ、最初から期待してないので」
三 上「でも、ひとつだけ明確になったわ」
神宮寺「何?何?何?」
三 上「奴らの関係は希薄だってこと。イジメの対象があったから関係があった。そ
れだけね。共通点は、お互い、自分の存在感を他人を通してしか得られなか
った。対象を屈服させることで思春期の苛立ちを抑えていたってことを」
蜷 川「他人に対する罪悪感が最初からないということですねぇ」
神宮寺「何て奴らだ」
財 津「おっ、神宮寺君、激怒りだねぇ~」
神宮寺は、憎悪に満ちた鋭い視線をモニターに注ぎ込んでいた。
綾小路「どうやら、目的地点に着いたようです。船のGPSは西之島で切っていますか
ら、痕跡は残りません」
財 津「じゃ~始めますか」
蜷 川「そうですね、じゃ、着替えてきます」
蜷川は席を立ち、裁判官時代の衣装に着替え、戻ってきた。
財 津「お~、いいじゃないですかぁ蜷川さん。俺たちも着替える?」
蜷 川「皆さんはそのままで。これは私の儀式みたいなものですから」
三 上「私はスーツだけど、あんたは…」
財 津「ど、どうしよう俺だけ浮いちゃう」
綾小路「私ので良ければお貸ししましょうか」
神宮寺「それ、見たいかも」
財 津「俺はこのままでいいか、何を着ても着こなせないから」
三 上「あら、自分の事、分かっているじゃない」
財 津「はいはい」
神宮寺「はいは、一回ね」
財 津「は~い」
綾小路は、城井優斗の檻の鍵を開け、中に入ると優斗は綾小路に飛び掛かり、助けてくれと涙ながらに懇願してきた。それを受け入れないと知ると優斗は綾小路を襲い始めたが、それを一瞬に捻じ伏せ、後ろ手に手錠を掛け連れ出し、甲板に特別に備えられた椅子に海を背後に座らさせ、暴れ出さないように腰を背もたれに、足は、椅子のそれぞれの脚に特注の結束バンドで固定された。椅子は、暴れても倒れない程重量感のあるものだった。優斗の目に映るのは月明かりで見える波のきらめきと消灯したクルーザーの輪郭だった。
美帆は、優斗の連れていかれるのを見て、言い分が通る相手ではないと悟り、全く抵抗を見せなかった。甲板では美帆と優斗は向き合う形で座らされていた。
暫くして、人影が現れ、優斗側に男性が、美帆側に女性が座り、中央に黒装束の男が現れた。その男は蜷川であり、男性は財津、女性は三上だった。神宮寺は船の周辺や上空をレーダーで監視していた。
蜷 川「これより、細河桜子さんが亡くなられた審議を行う」
優 斗「俺たちは関係ない。いや、俺は関係ない」
対照的に美帆は、静かに波間を見ていた。
蜷 川「中野美帆・城井優斗に間違いがないか」
優 斗「…」
美 帆「知っていて聞くの?悪趣味ね」
蜷 川「聞かれたこと以外、発言しないように」
美 帆「ふん」
蜷 川「被告人の罪状は、細河桜子さんを追い込んだものである」
優 斗「俺は関係ない。無、無罪だ。そ・そうだ、俺たちは罪に問われないだろう、
未成年だから。それなのに裁くのか、後でどうなるか覚えて置け」
蜷 川「被告人男子が言うように未成年は少年法・触法少年で守られている。が、こ
の場の審議に全く影響を与えない」
財 津「裁判長、被告人男子が言うように被告人らは未成年です現法では裁けませ
ん。よって、この審議は無効かと」
優 斗「そこの人、いいこと言うじゃないか、そうだ無効だ、無効。直ちに解放し
ろ。この事は悪夢として誰にも言わないから、許してくれ、解放してくれ」
財 津「裁判長、被告人男子が許してくれと発言しています。許してくれとは、疚し
い事があった、またはしたことを明かした事になります」
優 斗「あ、あんた、俺の弁護人じゃないのか、何、俺に不利な事を言っているん
だ。ちゃんと弁護しろ」
美 帆「無駄よ、こいつら分かってこんな真似をしているんだから」
優 斗「何を置き付き払っているんだ、こいつら尋常じゃないぜ」
美 帆「いい加減、現実を見たら。相変わらず、お山の大将気取りね」
優 斗「五月蠅い。もともとお前の嫉妬心から桜子を甚振ったんだろうが」
美 帆「それをいいことに楽しんだんでしょ。私には関係ないわよ」
蜷 川「被告人男子、被告人女子は、許可なく発言しないように」
三 上「裁判長、お願いがあります。ふたりは訳も分からないままここに居ます。過
去の記憶を呼び覚ますため、自由に発言することをお許しください」
蜷 川「異例ですが許可します」
財 津「良かったねぇ、優斗君、あっ、いや被告人男子。これで言い訳できるぜ」
優 斗「ああ、俺は…俺は、美帆に煽られてやっただけだ、悪いのは美帆だ」
美帆は、黙って冷たい視線を優斗に突き刺していた。
蜷 川「被告人女子に聞く。桜子さんが亡くなった事に関してどう思うか」
美 帆「何にも思わない。自殺未遂だって桜子が勝手にやった事、私には関係ない」
蜷 川「被告人女子は、無罪を訴えるんですね」
美 帆「勝手にすれば。関係がないって言ったって無駄なんでしょ」
蜷 川「裁きの場を冒涜する行為は、反省が見られないと被告人女子の不利に働きま
す。発言には注意してください」
美 帆「はいはい」
蜷 川「被告人男子に聞く。桜子さんが亡くなった事に関してどう思うか」
優 斗「残念に思います」
財 津「被告人男子は、ゴムなしでやるぞと発言した記録がSNS、取材記事から明ら
かです。だとすれば、残念に思うと言うのは、ゴムなしで出来なかったこと
に対してだと考えられます」
優 斗「何言ってんだ!そこの人。亡くなったことに決まっているだろう」
財 津「と、言う事らしいです」
蜷 川「被告人女子に尋ねます。桜子さんに辱めの動画を撮らせたのは事実か」
美 帆「またそれ~、もう、うんざり。何度でも言うけどあれは桜子が自分で行って
やったものでやらせたものじゃないんだけど」
三 上「あなたは桜子さんと同じような映像を撮りますか」
美 帆「撮るわけないでしょ、あんたは撮るの?」
「見てみたい」と言いそうになり、財津は言葉を飲み込んだ。
三 上「桜子さんはあなたの友人でしたか」
美 帆「いいえ。勝手に付き纏って来ていただけ。楽しんでいたんじゃない」
三 上「お金を巻き上げられたり、教科書を破かれたり落書きされることが楽しいん
ですか」
美 帆「知らな~い。桜子に興味ないから」
三 上「あんたね!」
蜷 川「弁護人は感情的にならないように」
三 上「す・み・ません」
三上は、握り拳を強くして感情を感情を抑えていた。
財 津「被告人男子君。そもそも君が桜子さんを被告人女子に紹介した?」
優 斗「美帆と桜子が知り会ったか俺かどっちが先だったかは分からない」
財 津「質問を変えます。桜子さんの恥ずかしい動画を先生に見せていますね」
優 斗「あれは、桜子の母親が娘が被害に会っていると副校長(名嘉山健司)にチク
りやがって、それで副校長に呼ばれた。その時に見せてくれたら、悪いよう
にはしないと言われたんで動画を送信しただけだ。そのあと動画を持ってい
れば不味い事になると思い俺はデータを消した」
財 津「可笑しいなぁ。消したはずの動画が流出してるんだけど」
優 斗「俺は知らない。副校長じゃないか、喜んでいたから」
財 津「被告人女子も見ていますよね」
美 帆「知らな~い。興味ないわ。優斗が他にも見せているんじゃない」
優 斗「ば・馬鹿な事を言うな。見せたのはお前と副校長だけだ」
財 津「それは事実ですか」
優 斗「た・多分」
財 津「それ以前にも、恥ずかしい動画を桜子さんに要求してたよね」
優 斗「そ、それは…、そ、そうだ、それは合意の上のことで悪くない」
財 津「動画を送らせたのは、イジメじゃないと?」
優 斗「頼んだら桜子が送ってきただけだ」
財 津「その過程で脅しがあったんだよね、でなければ送らないよね」
優 斗「強迫なんてしていない、桜子が送ってくれただけだ」
蜷 川「被告人男子は自らの自慰行為を他人に送る時、どういう条件下なら送ります
か?参考意見として聞かせて下さい」
優 斗「送る訳ないでしょ」
蜷 川「なのに桜子さんは送ってきたと言う事なんですね」
優 斗「まぁ、そういう事、かな」
蜷 川「桜子さんが亡くなってから被告人男子、女子とも反省した行動ではないよう
に思われますが如何でしょうか」
美 帆「関係ないから、反省のしようがないじゃない」
優 斗「そうだ。寧ろ、面倒な事に巻き込まれて迷惑に思っている」
蜷 川「そうですか。以上で審議を終了します。後程、被告人男子、被告人女子に有
罪か無罪かを聞きます。審判はあなたたちの意志を尊重するので慎重に答え
るように。では、三十分後に再開します」
裁判官、弁護人は、優斗と美帆を甲板に残し船内に消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます