追悼09 火種となる自己保身ー影狼の法廷・触法少年
母ひとりで娘を育てる静江には、すぐさま他の遠くの地域で暮らすだけの経済的余裕はなく、学区を変えるのみの引っ越しを余儀なくされた。
桜子の症状は重く、精神科に通いながら投薬による治療を受けていたが、PTSDは桜子を苦しめ続けた。
桜子は転校手続きを終えるも、不登校が続いていた。家に引きこもり、「お母さん、死にたい。ゴメン、ゴメン」と言うようになり静江は楽観を許されずにいた。
桜子は孤独の中、唯一の救いをSNSに求め、それなりに理解者と巡り会い、辛うじて精神を保っていた。PTSDとは言え、入り口に立った程。それでも症状は重い。しかし、SNSでのコミュニケーション能力は、社会復帰への希望を見せていた。危惧されるのは孤独と閉塞感からくる情緒不安定だった。
仁支川紘一は、旭川市長を辞任し、国政へ打って出る機会を虎視眈々と狙っていた。そんな仁支川元旭川市長に好機が巡ってくる。武漢ウイルスの対応を揶揄するマスゴミに影響され、菅野政権は、風前の灯火と追い込まれていた。このままでは、自民党は大敗する、その懸念は総裁選と向かわた。全責任を菅野政権に被せ、新たな自民党を打ち出し、国民の期待を煽り、来たる衆議院解散を乗り切ろうと図る。武漢ウイルスのお陰で地方遊説ではなく、TV討論会が主体となり、国民の関心も高まっていた。それに気を良くした自民党は、この流れを逃すまいと衆議院の解散を打ち出した。
この情報は、政界に進出しようとする有力な地盤、鞄を持つ候補者には、鼻先に吊るされた人参に思えた。仁支川紘一元旭川市長もその一人だった。
「いいねぇ。衆議院議員選挙が早まり、その流れで参院選だ。時間は残されていない。気掛かりなのはあの事件だ」
あの事件とは、桜子の事件だ。
「身辺は出来るだけクリアにしておかないとね」
「いかが致しますか」
「あの被害者気取りの女の子がいたな、名前は…」
「細河桜子です」
「その桜子が何かの折、騒ぎ立ても困る。下手な発言をされてもな」
「それでは、始末しますか」
「おいおい、怖い事を言うな。まぁ、そう願えればいいが、それはそれで事件を蒸し返され都合が悪いだろう」
「はい、では如何に」
「身辺を監視しろ。できれば内通者になってくれればいいのだが」
「…。それなら適任者がおります」
「誰だ?」
「元北海日道新聞の記者でいまはフリーの者が」
「フリー?」
「はい。問題を起こして首になった者です」
「そんな奴を使うのか?」
「女たらしで有名でして、上層部の愛人に手を出し首になったとか」
「ほうぉ」
「そいつに桜子の良き話し相手とならせ、桜子のコントロールをさせましょう」
「まぁ、任せるとしよう」
「では、活動費の捻出をお願いできますか?」
「それなら心配するな。支持者が選挙資金として工面させるから」
「はい、でも、何故、金を出したがるんですか?」
「地方の者は表舞台にでたいものさ。いまの名誉と利権をより強固なものにするためにね。何より、優越感。これに勝る者はないからな」
「では、早速、手配致します」
「うん」
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