追悼03 耳を疑う対応ー影狼の法廷・触法少年

 公園では人目が気になると、近くの小学校の多目的トイレに桜子を連れて行った。そこには、中野美帆、城井優斗、高岳風馬、吉田真由美、前田朱里の五人がいた。取り巻き小学生たちはトイレの外で騒いで遊んでいた。

 桜子を外から見えないように囲み、無言で桜子に自慰行為を始めるように促した。桜子は錯乱状態になり、早くこの場から解放されたい一心で、泣きながら下着の上から右手を当てた。その時、日頃から真面目な桜子の態度に苛立っていた真由美と朱里が、常軌を逸する。


 「それじゃ、見えないんだよ」


と、桜子のスカートと下着を毟り取った。これで今後、私には逆らえないという確信を得た美帆は、冷めた笑顔で勝ち誇ったように言い放った。


 「これで良く見えるね、優斗・風馬、ほら見なよ」

 

 それに対し、優斗は興味がないとその場を立ち去った。その後を優斗に気があった朱里が追いかけるように出て行った。美帆は桜子が自慰を行うのを冷徹に見ていた。風馬は携帯電話で写真や動画を夢中で撮っていた。真由美は憂さを晴らすように大声で笑い、嗚咽まみれに泣きじゃくる桜子を見下ろしていた。美帆、真由美は、学業ややりたいことがある桜子を面白くないと感じ、自分たちの劣等感を突きつけられているようなストレスを感じていた。


 どれくらい時間がたったのか…。桜子には途方もなく感じられていた。絶望と羞恥心でうな垂れていた桜子は、周囲の静けさに気づいた。美帆たちの冷たい鬼面を想像しながら顔を恐る恐るあげると周りには誰もいなかった。

 残された桜子は、その場で泣きじゃくり、どうすればいいかわからずうずくまっていた。どれほど時間が経ったのか分からなかった。外で声が聞こえた。桜子の体はその声に反応し、スカートを拾い履き、下着を手に取り、トイレを飛び出し、一目散に帰宅した。家に着くとシャワーを浴び、汚いものを洗い流すように体を力強くこすりつけた。願わくば汚れと共に記憶も洗い流したかった。しかし、こすってもこすっても記憶は、色褪せなかった。バスルームを出るとそのまま桜子は自分の部屋に引き篭もった。


 翌日、桜子はショックから学校を休んだ。その次の日は、気を強く持って改善されることを期待し、恐れながらも学校に行くと自分のあわれもない恥ずかしい画像がLINEによって同級生の一部に拡散されているのを知ることになる。

 桜子は、居場所を失い担任の須垣明歩に助けを求めた。当初は、イジメは絶対許さないと言っていた担任の須垣は、事の重大さに気づいてか保身に傾く。他人の行動に敏感になっていた桜子は、須垣担任の変化に気づき、見せたくない自分にも送られてきた写真を見せ、真実を強く訴えた。

 担任の須垣は、取り乱す桜子を治めようと、あの子たち選挙カーを見るとおいかけるようなおバカさんなの、と笑って見せた。そんな須垣の美帆たちを擁護する発言は桜子の耳には入らず、その態度はさらに須垣を追い込んだ。須垣は対応に苦慮し、事実関係を調べると約束し、一旦、桜子を帰宅させた。


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