第4話 ペンギン・ボンバー


数時間程歩いてみて分かった事がある。

まず、ウインドウに書かれた『育成』『スキル解放』『休息』の三つのコマンドの事である。

育成のボタンを試しに押して見たら、『筋力訓練』『敏捷訓練』『耐久訓練』『能力訓練』『精神訓練』『幸運訓練』の六つに分かれていた。その内の一つである『筋力訓練』を押してみた所、次に『何時間訓練を行いますか?』と言うメッセージが現れて時間指定が出来た。

恐らく、この時間指定をした後で実行に移すと、その時間分の訓練が始まる様子だ。

試しに押して見たかったが、今は安全が確保出来ていない状況にある。行動をするのならば、まずは安全確保が大事だと思った。

次に『スキル解放』だが、これは『能力鑑定』のみしかなかった。

厳密に言えば、スキルを選択するであろう項目が沢山あったのだが、確かな名称は無く、全てが『???』で統一されていた。更に分類分けと言う項目を選択すると、『解放済み』と『未解放』があり、『解放済み』の中に『能力鑑定』が入っていたのである。

何か特定の条件を達成すれば、スキルが解放するのかと推測する。


後は休息のコマンドであるが、これも選択をしたら『何時間休息をしますか?』と言う項目が出て来た、其処から察するに、時間内まで疲労か肉体の回復が期待出来る分、行動の制限が掛かるのだと推測する。

結果、一歩進んで謎が深まった感じだった。


「あ、プロフェッサー」


声を掛けられて俺はウインドウから目を離してアルトリクスの方に顔を向ける。


「エネミーが居ます」


「エネミー?」


エネミーとは、敵の事だろう。

俺は周囲を見渡して見る。アルトリクスの視線がやや下方向に向いていた為に、俺もその視線に合わせて下を向くと……何か、穴が空いていた。

丸い穴だ。中は深いのだろうか。どんな生物が潜んでいるのだろうか、とつい考えてしまう。

灰の砂地と言うくらいだから、虫の類であるサソリとかか?

いや、穴が空いていると言う事は、ヘビやネズミの可能性も捨てがたい。


そう考えていた時だった。

ひょっこりと、穴の中から顔を出す謎の生物。

灰色の羽毛に橙色に近しい嘴に、黒色の瞳、そして寸胴な胴体が特徴的な……鳥……と言うかそれは……。


「ペンギン?」


なんで砂地にペンギンが居るんだよ。


「顔を出しましたね、プロフェッサー、今『記憶の記録』でエネミーの素性を探ります。少々お待ちください」


細い指先を自らのこめかみに当てて交信を始め出すアルトリクス。

穴から這い出たペンギンは尻を振りながら砂を滑って此方へとくる。


「……く」


口に出すのは俺のキャラじゃないが……可愛いな。ペンギン。

もう動物を間近で見るのは中学生以来だろうか、一番可愛いと思う動物はネコか犬のどちらかと思っていたが、こう近くで動いている様子を見ていると、なんだか一位の座が揺らいでしまうな……。


よちよちと俺の方へと歩いて来るペンギン。

それと同時に、アルトリクスは記録の記憶からエネミーの情報を引き出したらしい。


「プロフェッサーっ。そのエネミーの名前は『爆弾の皇帝人鳥ツァーリ・ボンバー・ペンギン』です。固有のスキルは『推力加速ロケットアクセル』と『自爆破壊ブロークン・ブラスト』です」


「え?」


俺は後ろを振り向いてアルトリクスの方に顔を向けるが、背後が何か輝いていたから再度ペンギンの方に顔を向けると、ペンギンは体を膨張させながら光り輝いていた。

ブロークン・ブラスト。意味は、砕けると、爆破……つまりは。


「うおおおっ!?」


俺は全速力で走って頭を覆う。それと同時にペンギンが爆破した。

爆風が体を押し出す、そして俺は灰の砂地に体を埋めた。


「な、なんだ、あれ……なんなんだよ、あれッ!?」


俺は驚いて、バカみたいに言葉を繰り返して口にする。


「落ち着いて下さいプロフェッサー。幸いにも無傷な様子ですね」


俺は体を弄る。

確かに彼女の言う通り、俺の体は無傷で済んでいた。


「爆破するのか、あれ……」


そう思っていた矢先、俺のウインドウが開いて『!』のマークが『スキル解放』のコマンドについていた。

俺はウインドウを開いて中身を確認する。

解放済みの項目には『推力加速』と『自爆破壊』の二つのスキルが増えている。


推力加速ロケットアクセル

・瞬間的に加速するスキル。

・翼があると一時的な飛行も可能。


自爆破壊ブロークン・ブラスト

・自爆のスキル。


「急に二つも攻略済み?……いや、このスキルは……」


確かあのペンギンが所持していたスキル、だよな?

……もしかして、このスキル解放の条件って、対象のスキルを読み取る事で解放されるのか?

アルトリクスは自分のスキルである『記録の記憶』でエネミーの情報を読み取った。

その際にスキルを確認したのだろう。その結果として読み取ったスキルがスキル解放の項目に乗る事になった。


「……」


そう言えば、俺にも『能力鑑定』と言うスキルが存在する。

これを使えば、スキル解放に役立つ可能性もある。

尤も、このスキル解放はあくまでもアルトリクスが得た情報のみと言う可能性が存在する。

しかし、このウインドウは俺の能力であり、育成と言う能力は俺のデザイアから発生したものだ。少なくとも、関係がないとは言い難い。

俺がスキルを鑑定して、その能力がこのスキル解放欄に乗る可能性は大いにあった。


「プロフェッサー」


再び俺を呼ぶアルトリクスの声に俺は反応した。


「どうした?」


「またです」


また?そう言われて、アルトリクスが指を向けた先を見つめる。


「……ッペンギン」


またペンギンが接近している。

スキル『推力加速』で飛行を可能にしていた。

それも一体だけじゃない。十数匹のペンギンが此方へと迫って来ていた。


「畜生ッ!何の恨みがあってッ!」


取り合えず俺は走り出す。

あの十数匹のペンギンの爆破はそう大きいものではないが、接近して爆破されてしまえば確実に四肢を失う自信があった。


「プロフェッサー、戦いますか?」


魔導書を構えるアルトリクス。

何故か戦闘を行う気概が伺えた。


「馬鹿、やめとけッ」


そう言って俺はアルトリクスの手首を掴んで無我夢中で走り出す。


「あ、プロフェッサー?」


どうにか、あのペンギンたちが俺たちの事を狙わなくなる様に願いながら逃走し続けた。


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