第1話 ステータス
携帯電話が急に本になって、本が勝手に喋り出している。
夢であって欲しいと願うが、俺の体と脳が、此処が現実であると告げていた。
『新世界へ到達した折村様に説明を伝えるルールブックであり、現在の折村様のステータスを表示するアーカイブでもあり、他国の人間と会話をする場合に言語変換を行うバイリンガルの役目を持ちます』
何故、この本は自分の説明をしているんだ?
……あぁ、俺がなんだコイツ、って言ったからか。
それにコイツは自分をルールブックと言っている。
何かしらの説明を求める事が出来るのだろう。
「ここは何処だ?」
『折村様の質問、此処は新世界、旧世界……嘗ての現代文明は消滅し、デザイアを持つプレイヤーのみが生存しています。新世界が誕生して百四十年が経過し、既に新世界に適応したプレイヤーが自らの理想郷を作っているのが現状です』
……百四十年?
あの黄金の髑髏が現れて喇叭を吹いてから、百四十年が経過していたのか?
「なんで、そんなに寝ていたら、死んでるだろ」
何の処置もしていなければ、肉体は栄養失調で死ぬ。
いや、そもそも百四十年も生きていられる人間なんていない。
『折村様の肉体は『
「馬鹿な、肉体を再構築なんて……いや待て、そもそも、デザイアってなんだよ」
先程からこのデバイスが口にするデザイアと言うものが気になって仕方が無かった。
『デザイアとは、人間が所有する原点の欲望。誰もが持っていたその願望は、殆どは生きている間に消滅してしまいます。それでも尚、自身のデザイアを認識している者や、死の間際にデザイアを再発現するプレイヤーも存在します。新世界の神は、デザイアを持つ者のみをこの新世界で生きる者の条件として設定しました』
「デザイア……原点……」
俺が生きていると言う事は、そのデザイア、と言う概念を所持していると言う事なのか?
『折村様のデザイアは『
「………っ」
やり直したい。
あぁ、そうだな、俺は失敗したり、目標に到達できなかったら、やり直したいなんて思ってた。
けどそれは、恐らくそれは、他の誰もが思う感情や思想なんじゃないのか?
『そしてデザイアは、この世界で生きる為に必要な
デバイスがそう言うと、俺の目前に迫り、頁を開いた。
其処には履歴書の様に、俺の名前と、俺の写真が張り付けられてあって、経歴や出生、血液型や誕生日まで書かれている。
その隣のページには、何やら数字の様なものが書かれていた。
『貴方の基本性能や所持している技能を数値化したものです』
【名称】折村薪雄
【デザイア】
Level:1/100
種族:人間
【基本性能】
戦闘経験:E 肉体性能:C 特殊血統:E
精神状態:C 運命極点:D
【スキル】
『
・生物が所持するスキルの情報を観測出来る。
【デザイン】
『
・やり直しのデザイア
・素材から生命を生成、育成が出来る。
なんだこの情報は、まるでゲームみたいな……。
「……あぁ、畜生」
久々に思い出してしまった。
まだ進路も決まっていない中学生の頃。
俺は、自分の未来なんて知らないまま、呑気にゲームをしてたんだ。
親に取り上げられて、勉強をさせられて、何時しかゲームをする事なんて忘れていた。
あぁ、畜生。またあの頃に戻りたいなんて思ってしまった。
『デザイアが反応しました。
「は?」
素っ頓狂な声を上げたと思った矢先。
俺の目の前に、下敷きの様なものが出現した。
「なんだこれ……」
『この世界ではデザイアは具現化し、貴方の力と変化します。デザイアを望む事で、力が具象化されるのです。これは「ウインドウ」、必要な素材さえあれば、育成が可能となります』
「育成?」
俺はウインドウを確認する。
ウインドウには、必要な素材として『素材:魂魄系統』と言う文字が書かれていた。
『
「魂魄……待て、おい、俺の魂を使役ってどういう事だ?」
『デバイスのシステムを作ったプレイヤーが制定した
何無許可で人の魂を消費してんだ。
「魂を消耗したらどうなるんだ?」
考えられるケースは、魂を寿命と捉える事。
魂を消耗すると言えばイメージしにくいが、寿命=生きる時間。
俺が仮に70年生きるとして、その内の何年を消耗したかどうか考える。
『魂を消耗した場合、再生するのに一月掛かります』
「再生するのか?」
『はい、魂とは自我であり、自我とはプレイヤーの存在を示します。肉体には寿命と言う概念がありますが、魂にはそれはありません。ただ、使い過ぎれば自我は崩壊して死亡すると言う結果だけが残ります』
成程。
寿命と言う概念は肉体の方にあるらしい。
魂はあくまでも肉体に依存しているから、同調するが融解はしていない。
肉体が死んでも魂は残るが、魂が死ねば肉体が死ぬ。
つまり魂さえ健全であれば、肉体が無くても自我は残ると言う事か。
そして、コイツは俺の魂を何の説明もなく消耗しやがった。
だから一瞬だけ視界が歪んだのか、あの時自我が消え掛けたのだろう。
……ムカついて来たな、特に、俺の許可なく使われると言うのが凄く気に食わない。
「……決めた」
どうせ消耗された魂ならば、それを使うまでだ。
「お前を素材にしてやる」
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