第4話 パンダと瑠夏とスキル説明
「とりあえず森を抜けて、まずは人里を目指すぞ」
「ぱんだぁ〜っ♪」
父親パンダ――ダディの背に乗り森を進む
「見たことない草や花がたくさん……。あたしホントに異世界に来ちゃったんだ……」
「迂闊に触れるなよ? 毒草だったり、魔物が擬態してる場合もあるからな。地球の感覚で居ると危険だぞ」
背中越しに投げ掛けられたダディからの注意喚起に、ビクリと伸ばしかけた手を引っ込める瑠夏。その顔には冷や汗が浮かんでいる。
「え、ていうかそういうの分かるのダディ? そういえばチートスキルがどうとか……」
「そりゃあ、見ず知らずの土地に飛ばされるんだ。交渉したら女神パン・ダルシアも快く
(あたし交渉どころか女神に会ってすらいないんだけど!? 強制連行だったんだけど!?)
釈然としない気持ちを抱えつつ、しかしダディが言うスキルとやらに興味を惹かれたのか、瑠夏は鼓動が早くなるのを感じていた。
「ダディはどんなスキルを貰ったの?」
「〝ユニークスキル〟と〝汎用スキル〟だな。ユニークスキルってのは、種族ごとの特性だったり持ち主専用だったり……要は滅茶苦茶レアなスキルとでも覚えとけ。汎用スキルは努力さえすれば誰でも得られるスキルのことだ」
「料理とか、格闘技とか?」
「そんな感じだ。ちなみに俺が貰ったのは【鑑定】と【解体】だ。だから獣や魔物を解体して素材を採ったり食えるようにもできるし、物の価値や詳細、あとは他人や自分の能力を調べることもできる。熟練度を上げないと精度が落ちたり失敗したりするけどな」
「へぇー! ファンタジーなゲームとかマンガみたいだね!」
瑠夏の顔には好奇心がありありと表れていた。ちなみに彼女のこういったオタク的な知識の源泉は、主に彼女の兄だったりする。兄の影響で瑠夏はサブカルチャーにもそれなりに造詣が深いようだ。
「ユニークスキルは【
「待って。【言語翻訳】はともかく待って。ねえツッコミしていい?」
「今更だが森の中で大声はあまり出さない方が良い。だから却下だ」
(自分だって散々吼えたり技名叫んでたのに!!??)
「あの時は戦いで昂ってたんだ」
「心を読まないで!? ……まあいいや。どう見てもプロレスだったけど、そういうモノってことにしとく」
「瑠夏はいい子だな」
もう一つの【巨大化】についてのツッコミはもはや諦めた様子で、乾いた笑いを浮かべる瑠夏。そしてはたと気付く。
「ねえダディ。あたし女神に会ってないんだけど、そういうスキルとかって貰えてるの? ちゃんとこの世界でやってけるのかな……?」
至極
しかしそんな瑠夏の不安を背中越しに感じ取ったのか、ダディはフッと笑うと首だけ巡らせて振り返った。
「安心しろ。俺から頼んでおいたから、瑠夏にも転移特典でスキルは与えられてる。それからスマホにもお得な機能を付けておくとパン・ダルシアは言ってたぞ。試しにカメラで自撮りしてみろ」
「パンダが自撮りとか言うの違和感しかないんだけど」
「いいからやってみろ」
不承不承ながらもスマホを取り出し、カメラアプリを起動しインナーカメラに設定する。画面を覗き込むとそこには……
「うわ、『人間族:ルカ・トウジョウ』って出た……!」
「写真をそのまま撮ってみろ。自動でアーカイブに登録されて、ステータスやらスキルやらが確認できるはずだ」
「う、うん……」
促されるままに自身の顔を撮影すると、画面が切り替わった。そして画面には自分しか知り得ないはずの、プライベートな情報が羅列される。
「ちょ、誰よあたしの個人情報漏らしたヤツ!? 体重に……スリーサイズまで!?」
「神の
「神って……けど電池マークのとこ『∞』って付いてるし。電波は無いってことはネットは使えないのか……」
「シャッター音も無音になってるからコッソリ調べられるな。それだけ使えりゃ充分すぎるだろ」
どうでも良いがこのパンダ詳しすぎである。そう思いつつも瑠夏は、自分のプロフィール欄で一際目に付く〝スキル〟欄をタップしてみる。
「あたしのスキル……【審理眼】? 嘘を見抜けるスキルかぁ。あとは……【
「〝聖女〟のユニークスキルだな。交渉にも役に立つし、【
「納得いかない……。あとは【言語翻訳】はダディと一緒か。これなら現地の人とも普通に話せるね。それから【
「料理は人間の専売特許だろ? 娘の世話も頼みたいからその構成だ。我ながらナイスな選択だな」
「世話させる気満々じゃん……」
溜息を吐きつつ、瑠夏はスマホを操作し続ける。使える機能はかなり制限されており、インターネットを使うSNSや検索サイトなどは軒並み全滅している。
そんな中で、スマホのホーム画面に見慣れないアプリアイコンを見付けた。
「ん? 【アーカイブ】?」
「ああ、それはこの世界専用のアプリだと思えばいい。カメラで撮った対象の検索や図鑑登録もできるし、単語が分かればそれで情報も閲覧できる」
「ウィ〇ペディアじゃん……!」
「便利だろ? 俺の【基礎知識】と併せりゃそうそう困らないはずだ」
「いや、助かるけどさぁ……」
なんとも言えない脱力感に見舞われる瑠夏であったが、スマホを眺める両目に画面からとは違う光を感じ、顔を上げた。
「お、思ったより早く森を抜けたみたいだな。このまま街道が見付かれば、人の住む街へはじきに着くだろ」
「うっわぁー、ビルも道路も無い……。草ばっか……」
「ぱんだぁ〜っ♪」
「地球ほど文明が進んでない世界だからな。パンダかんだ言っても、俺らは恵まれた世界で生きてたってことだ」
「そう……なのかもね。って、ダディは動物園の中で暮らしてたんでしょ!?」
「細けぇなぁ瑠夏は。出逢ったばっかの頃の嫁みてぇだ」
「お嫁さんこんな性格なの!?」
のんびりとダディの背に揺られて、瑠夏達一行はついに森から脱出することに成功し、人里を目指すことになった。
陽は天頂から西に傾きつつある。見通しも良く明るいが、ダディは夕方には街に着きたいと若干足を早めた。
瑠夏はルナを抱っこしつつ、そんなダディにしがみついて、これから起こることへの不安と期待に、鼓動を早めたのだった。
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