埃を被った君たちよ

芥葉亭子迷

レディ・クラクション

 クラクションが鳴り響く。

 埃のヴェールをまとったカーテンをどかして窓を開け放つ。煙草の煙が外に逃げて排気ガスと入れ替わった。

 そうして通りを見下ろす。


 黒塗りのジャガードが通り過ぎる。

 運転席と助手席に座る黒人夫婦は、まっすぐ前を向いていた。その向こうでは恋人同士が睦まじくしているのを行き交う人が避けて歩く。向かいのアパートの三階では赤ん坊が泣いているのを無視してベランダで紫煙を燻らす女。隣の部屋では女の子が水槽の亀に餌をやっている。

 厚いフレームの眼鏡越しに鳶色の瞳がそれを見送る。かつて新しかったこの街も、いつの間にか老害の仲間入りになったらしい。


 部屋の大部分を占める傷跡が目立つ本棚には、くたびれた表紙がタイトル順で綺麗にまとめられて並んでいる。小さくなった蝋燭が燻ったまま放置されている。

 ドアが開いて、染めた茶髪を適当に纏めた女が顔をしかめた。

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