終焉の世界でゾンビを見ないままハーレムを作らされることになったわけで

緑豆空

遠藤近頼の章 ゾンビを殺す力を持つ男の話

第1話 終末の世界でハーレムを作らされることになったわけで

世界は滅びの道を突き進んでいた。


それはもともと唾液でうつる風邪のような症状の感染性の病気だったが、突然変異により感染すると凶暴化し、人を噛むゾンビになるウイルスになってしまったのだ。いくらワクチンを作っても変化するウイルスに医療機関もなすすべがなかった。


アジアから広がったこの病気は瞬く間にひろがり、世界を死滅させてしまった。


人類は未知のウイルスに敗北した。



さかのぼること3年前…


俺はうだつの上がらない新入社員だった。名前は遠藤近頼(えんどうちかより)22歳、独身で彼女いない歴22年だ。趣味は業務用食品スーパーに行って大量に食料を買い込み、小分けして冷凍、それを小出しにしながら食べたり酒を飲んだりする事だ。


そんな地味なこと趣味とは言わない?なんとでも言ってくれ、俺は学生の一人暮らしのころからこれが趣味だったのだ。


あとは家から出ないで、ただひたすら読書をするのだ。一回の買い物で余裕でひと月持たせられる。


まあランチはおにぎりを作っていくか、外のファーストフードですませる時もあるので、1日3食すべてを月1回の買い物で補うとなると無理だけどね。


そんな俺がいつものように金曜日の夜、軽自動車で業務用食品スーパーに行った。


スーパーの店舗内では、お客さんも皆マスクをして買い物していた。風邪のような感染症が蔓延して、感染防止対策がとられていたからだ。このような状態がもう2年も続いていた。


とにかく業務用はデカくていいな!


大量のパン、肉を豚鳥牛1キロずつ、ドデカホールケーキ、冷凍野菜のブロッコリーやほうれん草など1キロずつ、ミックスベジタブル1キロ、ブドウジュース1ダンボール、米10キロ、業務用アイスクリーム1キロ、ビール500缶24本、ステーキ醤油のガーリックとオニオン味を買う。


これらをすべてカートに乗せて運び車に積んだ。


今日、家に帰ったらこれを全部小分けにして、1食ごとの量にするんだ。これで今月の土日は一歩も外に出ずに、好きな音楽を聴きながら読書三昧だ。


そして家に着いた俺はテレビも見ずに、ずっと食料の小分け作業に没頭している。


ただ今日はなんか変な感じだ。


静かな住宅街のワンルームマンションなのだが、まわりがバタバタうるさい。俺はスマホとイヤホンで音楽を聞き、作業に没頭していく。


全部の作業が終わったので、今日は鳥肉をステーキ醤油で焼いたものとほうれん草のおひたしとごはんだ。ごはんが終わってビールを一本あけた。


俺が夜寝ていると、スマホの緊急警報に叩きおこされた。


ビービービー

ビービービー


地震でも来るのか?と思ってメッセージを見たら、暴動が頻発しているから外出を控えろという内容だった。


暴動が頻発する?


なんだこりゃ?


深夜だったが慌ててテレビをつけてみると、緊急ニュースが流れていた。街では暴動をおこしている人が人々を追いかけているようだ。


というか噛みついてないか?これは東京?なんだ?


他の局もかけてみようと、チャンネルを変えてみた。


あれ?これ今日行った業務用食品スーパーの前の道路じゃないか!人々が逃げ惑っている?


マジか?


俺の部屋は3階の角部屋だったが、そういえばさっき騒がしかったような気がしたな。


俺は一旦ベランダに出ようと窓をあける、遠くでサイレンがなっているようだった。


下を見て驚いた…街が廃墟のように荒れていた。商店のガラスは割れ車があちこちに突っ込んでいる。煙がでているものもあった。しかし人々は普通に道路に出てキョロキョロしていた。


買い物から帰って来た時スマホ見てたから・・気がつかなかった・・


慌てて窓を閉めた。


なんだこれ。まるでゾンビ映画じゃないか…。さっき帰ってきた時・・俺は気がつかなかったみたいだ・・


慌ててスマホを取り親に電話をかけるとすぐに出た。


「母ちゃんニュース見た?大丈夫だべか?」


俺は田舎の生まれなのでなまって話した。


「近頼!大丈夫が?無事が?」


「ああ無事だよ。そっちは?」


「いまんとこなんとかなってる。けんどどうなるかわがんね。」


「京奈は?親父は?」


「大丈夫だべ。こごにいるよ」


「とにかく家から出るな。」


「近頼も無事でいてな。」


次に俺は警察にかけたがなかなか繋がらなかった。やっと繋がったのだが「家から出ないでください!」で切られた。消防署には全く繋がらなかった。


どうしてこんな事になった?なんなんだ?とりあえず食料はある、先ずは家にいるしかない。電気はまだきてるようだが、冷凍庫がだめになったらヤバイぞ。とにかく切り詰めて乗り切るしかない。


とにかく現場把握のためインターネットで情報を探すが、テレビの情報となんら変わりなかった。 S N Sでもパニクった情報ばかりでわからない。


実家とは毎日電話していたが、1週間すると食料が尽きたらしい。父母妹の3人で切り詰めていたが、買い物を土曜日にする予定だったらしく、食料をなんとかしなければいけなくなったらしい。


「とにかく、買い出しは気をつけてくれ!」


「わかった。お前もなんとかしてなぁ」


俺は1日1食にして切り詰めている。ジュースにもビールにも手をつけついない。まだまだ続けられる!


それからはもう家族にも警察にも電話がつながる事はなかった。


さらに…数日すると周辺に住んでる人達が、車で出ていったりした。


だんだんと周辺の人が居なくなっていく…おそらく食料がきれたか病人がでたか…。俺にはまだ食料があったが先行きが不安になってきた。


「ヤバイか…」


ぼっちな俺は近所の人に声がかけられず、ひとりぼっちになっていく恐怖と戦っていた。


2週間が経過すると、もうテレビはどこもやっていなかった。かろうじて電気とガスはまだきている。インターネットでしらべても、なかなか更新されているサイトがみつからない。情報は S N Sで見た噛まれるとゾンビになるという情報だけ。


ちょっと外の様子を見ようとそっと窓を開けてベランダにでる。もう道路には誰もいない、街はなにも動いていないようだ。


その時だった…


「あの…」


びっくりした!


「はい。」


「無事ですか?」


「なんとか…、そちらは?」


「まだ…ただもう限界です。」


「どうしたんですか?」


「食料が…」


「あ、であれば俺がなんとか出来ます。ベランダの防火戸を破りますんでこちらに来ませんか?」


「いいんですか?」


「助け合いましょう!」


ベランダを遮る壁を破って隣の人を呼び込んだ。


まだ俺が住み始めたばかりのマンションなので、引っ越しの挨拶をしただけの人だ。隣の人は女子大に通う学生だそうだ。肩にかかるくらいの焦茶のストレートヘアで痩せた顔をしている。かわいい顔だと思うのだが目の下のクマが酷くて可哀想になっていた。


やつれている…


「いま食べ物の準備するから待ってて。」


俺はステーキ醤油で味付けした豚肉と、ブロッコリーをチンしてブドウジュースを出してあげた。


彼女は凄い勢いで食べ始めた。よほど腹が減っていたらしい。あっという間に食べ終えた。


「落ち着きましたか?」


「はい、ありがとうございます。」


「相当疲れてますね。」


「・・・・」


ポロポロ・・


涙が・・


彼女は泣き出した。しばらく話すことができないでいた。


「ほんとに、ほんとに不安でまさか隣に人がいると思いませんでした。」


そうか、俺も静かにゆっくり動いていたからな。


「俺もまさか隣に人がいたなんてびっくりしました。」


「音を立てないように、じっとしてました。」


「あ、俺は遠藤近頼です。」


「私は長尾栞です。」


栞さんはうとうとし始めた。


「あの、すみません。寝むれ眠れていないので…」


「あ、部屋に戻りますか?」


「いえ、ここで眠ってもいいですか?」


たぶん不安で眠れなかったのだろう。俺も1人より2人のほうがましだった。


読書が好きであんなに1人が好きだったのに不思議なもんだな。


俺も眠くなり、まもなく眠ってしまった。



朝、起きたら栞さんが俺に話しかけてきた。


「あの…ここですごしていいですか?」


「俺は構わないです!いいですよ。2人なら心強いです。」


「部屋に着替えや調味料を取りに行きたいんですが、一緒に来てもらえないでしょうか?1人になるのが怖いんです。」


「お安い御用ですよ」


というわけで、彼女の部屋に一緒に行く事になった。


着替えの服と下着を確保、その後キッチンに言って油と調味料、トイレに行って生理用品、ベッドの上から布団、最後に化粧ポーチを持ってきた。


彼女の部屋ではとくに何もなく、すんなり戻ってきた。


その日から2人ですごすことになったが、女の子と2人…彼女いない歴22年の俺には刺激が強すぎる。


冷静に冷静に…


栞さんからきいた話では。友人達とも S N Sで連絡を取りあって無事を確認しつつどうしようか話し合っていたらしいが、解決策がみつからないうちに、ひとりまたひとりと連絡がとれなくなっていったのだとか。


ぼっちな俺は連絡とれる相手なんか親しかいないけど。


暮らし始めて1週間はぎこちなかった2人も、だんだん親しく話せるようになった。反対にインターネットではどんどん情報が少なくなっていった。どれも助けを求めるものばかり。


そんなある日ガスが止まった。


「ガス、止まりましたね。」


「はい。」


「食べ物はまだ少しありますが、調理は電子レンジのみです。電気もどのぐらいつながるかわかりません。この調子で切り詰めてもあと一週間です。」


「はい。」


「食べ物が尽きる前に、今ある食べ物を加工して、熱を通して日持ちするようにして再度冷凍します。」


「はい。」


「あと10本くらいあるブドウジュースを携帯して、食料を探しにいきませんか?」


「えっ…!」


「怖いとは思いますが、このままではジリ貧です。」


「わかりました。」


「決行するのは3日後です。今日はいままで控えていたビールを飲みませんか?苦手ですか?」


「飲みます。」


その日の夜は2人でビールを飲んで早めに眠った。


そして俺達は、決行の日までに武器になりそうな物を作った。掃除機の筒の先に包丁をガムテープでくくりつけた。あとはナップザックに通販のダンボールを縫いつけ盾がわりに、ナップザックの中にはフォークを入れた。


そして決行当日がきた。


俺と栞さんはガチャりとドアをあけて外に出たが、マンションの廊下には誰もいなかった。とにかく2人で俺の軽自動車の所までいく。


月極駐車場にはだれもいなかった。道路のあちこちに血の跡があり、2人でビビリながら歩いてきた。


駐車場の車に乗り込んでエンジンをかけたら、ひと月もかけてなかったため、チュチュチュチュン…エンジンがかからない・・


ヤベっ?かかってくれ!


チュチュチュチュブオーン!


かかった!俺たちは道路に放置された車を縫うようにして、まずは業務用食品スーパーに向かってみた。


何事もなく、業務用食品スーパーについてしまった。


筒につけた包丁を栞さんに持たせて、体の前にくるようにダンボールナップザックを背負わせる。俺はフォークを持って彼女の前にたち、恐る恐る自動ドアの前にたつ。ウィーンと普通に開いた。


「あの、全然人いませんね」


「そうですね。」


「とにかく中に入りましょう。」


恐る恐る慎重にスーパーのなかに入っていく。


やはり誰もいない。冷蔵庫に電源は入っているが、すでに中の肉は変色して食べられそうにない。奥の冷凍庫コーナーに向かうとまだ冷凍庫の中に肉があった。時間超過もあるため牛肉だけ取り出してみる。カチカチだしまだ食べられそうだ。


「ちょっとカートとってきます。」


「あ、私も行きます。」


一人になるのは怖かったので、2人でカートを取りに行き4台のカートを持ってきた。


まずは缶詰めの方にいく…普通にあった。そこら中に散乱してたが問題なく食べられそうだ。


蟹缶、牛缶、サバやさんま缶、果物缶を大量に集めた。つぎは乾物の方に行き大量の海苔をゲット、あとは味噌5パックと醤油1.8L3本、ケチャップを2、マヨネーズを2をゲット。


まだほとんど手付かずだ…というかこんなにあるのになんで誰も持っていかないんだろう?不気味なのは床にたまにある血の跡だ…。


あとは米10キロ2つと小麦粉、お菓子コーナーも普通にあったのでポテチとチョコを大量に取り、ホットケーキミックスを棚の10箱全部カートに入れた。カート3台の上下がいっぱいになった。最後にアイスクリーム3キロとジュース3箱、天然水2Lの6本いりダンボールを5箱、冷凍牛肉を5キロでかなり山積みになった。


生きている誰かが取りに来るかも知れないので、根こそぎ持っていくようなマネはしない。とにかくカートが山積みになったので車に戻ることにした。


外に出たが特にゾンビはいなかった。


俺たちは次にガソリンスタンドに行ったが、ここでも誰にも会わなかった。街はだいぶ荒廃しているようだったが、人もゾンビもいない…とにかくセルフスタンドで満タンにする。


そして帰ろうとした時だった。


栞が喋った。


「あの?薬局いきませんか?トイレットペーパーとかティッシュとか…」


「そうですね。」


俺たちは薬局についた。自動ドアはひらかなかった。裏の従業員通用口に行くと空いていた。


これは…


ガーンとゾンビが出てきそうなテンプレじゃないか?


中に恐る恐る入ってみるが誰もいなかった。何事もなく中に入って電気をつける。店のなかはまったく荒れていなかった。


トイレットペーパー、ティッシュ、生理用品、風邪薬、カットバン、頭痛薬、化粧水、フェイスローションを適当にカートに乗せていった。


薬局の中では何事も無く自動車まで戻って来た時だった。通りのむこうから人が走ってきた。


「ヤバ!しおりちゃんはやくはやく!なんかきた!」


「カートは?」


「置いてこう!」


と、車に乗り込もうとしたとき


「待って!まってください!たすけて!」


話しかけてきた。とりあえず俺はフォークを構えた。


「わたし!人間です!あいつらじゃありません!」


「え?だ大丈夫ですか?」


「感染もしてません。」


おちついて見てみると女子高生だった。ショートカットのクリクリ目の美少女だった。でも全体的に汚れている。


「早く乗って!」


彼女を後部座席にのせて俺は薬局でとってきたものを詰め込み車を出発させた。女子高生はとにかく泣いていた。話を聞ける状況じゃなかった。


とにかくマンションに着いたが駐車場やマンションの前の道路に争った跡がある。緊張がはしった…大丈夫なのだろうか?しかし中に入っても誰もいなかった。俺たちは大量のものを俺の部屋に運びこんだ。とにかく一度もゾンビを見る事は無かったな。


俺の冷蔵庫だけでは入りきらなかったので、栞の冷蔵庫にも詰め込んだ。電気はまだ来ているようだった。


とにかく疲れている様子の女子高生には、シャワーをすすめた。ゴワゴワになった髪と汚れた体を洗うようにと言ったら、シャワーの前にいてくれと言われたのて座りこんで、出てくるのを待った。もうガスがきていないので水だったため。電気ケトルでお湯を作って差し入れた。


しばらくすると中からあがると声が聞こえたので栞と交代した。彼女がドライヤーで乾かしているうちに。俺は仕入れた肉と缶詰で、飯を作りご飯を炊いた。肉はオーブンレンジで焼いたがまあまあうまく焼けたようだ。味付けは塩胡椒にした。


女子高生に身の上を聞いてみることにした。


「俺は遠藤近頼、こちらは長尾栞。君の名前は?」


「高田あゆみです。」


「どうしてあんなところに?」


「みんなゾンビになっちゃって、兄さんが最後まで一緒にいたんですが…その…ゾンビに捕まってしまって、私は隣町まで逃げてきたんです。」


「どうして危険を冒してまでこのまちに?」


「友達の家が全員無事だって聞いてたからきたんです。SNSで連絡とってて…」


「友達の家って?」


「このマンションの裏です。」


「えっ?」


「でも今日の昼前あたりから既読がつかなくて…」


「裏か…見にいってみよう。」 


「いいんですか?」


「朝までは繋がってたんだろ!まだ、可能性はある」


「はい。」


部屋に鍵をかけ俺たちは3人で、あゆみの友達の家にいってみた。


「ここです。」  


俺は掃除機に包丁をくくりつけたものをかまえ、ドアを開けてみた。鍵はかかっていなかった。部屋には争った跡があった。血飛沫も飛び散っている。しかしどこにも家族はいなかった。友達の携帯だけはそこに落ちていた。


「誰もいないな…」


「逃げたんでしょうか?」


「わからない。」


とりあえず俺たちは部屋に帰った。あゆみは疲れたようで寝てしまった。


「なんか…このマンションの駐車場なんだが気がついた?…」


「うん…出かける前より荒れてるような気がするわ」


「だよなあ。ゾンビきたのかな?」


「でもぜんぜんいなかったわよ。」


「どういうことだろうな。そもそも街中にゾンビなんて、いなかったみたいな気がしないか?


「いない気がした。」


「うーん。」


よくわからなかったので、とにかく気が抜けた俺たちは寝ることにした。


次の日の朝、俺たちは冷凍野菜をチンしてマヨネーズで食べた。しかしこのままでは世界の情勢もわからない。


そして落ち着きを取り戻したあゆみに、詳しくこれまでのことを聞くことにした。


あゆみは高校2年生で両親と兄の4人家族で家にこもっていたらしい。クラスメート達とは S N Sで連絡をとりあって家族どうしで集結するはずだったらしい。ところが計画を実行する前にどんどん連絡できる相手が減っていった、最後まで連絡がとれていた俺のマンションの裏に住む友達が、昨日の午前を最後に消息をたったと…


「ということは、まだ家に潜んでいる人が居るかも知れないな…」


「そうね。助けられる人がいるかも知れない。」


「このマンションは各階に4部屋ずつの5階だてだ。1階は不動産屋と管理人室だから…18部屋ある、一部屋ずつ探して行こうか…。1階からはオートロックを開けないと入って来れないから、それほどゾンビの心配はないと思うし、無事な人がいるかもしれない。3階はベランダ伝いに、窓から中を除いたが誰もいないのはわかってる。しかし他の階には人がいるかもしれない。」


「わかったわ。」


栞が手を握りしめて返事をした。あゆみは頷くだけだった。いままではゾンビの恐怖で動けないでいたが、3人なら心強い!


それぞれに包丁やフォークを握って部屋を出る。


「まずは1番上の階からいこう。」


まずは5階、一部屋一部屋緊張しながらインターフォンを押していった。全部の部屋に鍵がかかっていた、誰も出てくる気配がない。次は4階だ…一部屋目は同じく誰もいなかった。2部屋めインターフォンには誰も出なかったが鍵がかかっていなかった。


緊張で汗がにじむ。


ガチャ


そーっと中に入るが誰もいない。しかし…血の跡があった。恐る恐るシャワー室やクローゼットをあけるが誰もいない。争った跡があるのに死体もない。男の部屋だなゲームとタバコの吸い殻そして男物の服が脱ぎ散らかしてある。天体望遠鏡が窓の外に向けてあるが、空を向いていない…覗いてた?


「争ったみたいね。」


栞が言う。


「そうみたいだが本人はどこ行ったんかね…」


「怖いから早く出ましょうよ。」


あゆみは怖がっている。俺だって相当びびってるが、女の子2人の前だし堂々としていよう。


結局、4階のあと2つの部屋も鍵がかかっていた。3階には戻らず2階に進んだ、この階も誰もいなかったし、すべて鍵がかかっていた。


そうだよな…一人暮らしのマンションだ、食料は2〜3日で尽きるのが普通だろう。栞だって自炊してるからたまたま食料があったけど、ほぼわずかな米と小麦粉で生きてたらしい。


食料が尽きかけて死を覚悟した時、俺の存在に気がついたのだとか。


1階は管理人室と不動産会社だか、食料調達のときどちらもいなかった。あと一箇所確認したい場所がコインランドリー室、マンションの人専用のランドリーだった。


電気をつけ恐る恐る入っていくが・・誰もいない。


洗濯機が4台乾燥機が4台の簡易なランドリーだ。洗濯機を1台ずつ開けていくと、ひとつに洗いかけの衣類があった。1ヵ月も放置されていたから生乾きの匂いがしたので、とりあえず蓋をしめた。乾燥機には2箇所に服が入っていた。どちらも女性ものの衣類やタオルだった。


他にはこれといってなにもなかった。


「結局人はいなかったな。部屋はどこも物音ひとつしなかった。」


「どうしたのかな?食料を求めて出て行って帰って来れなくなったとか?業務用食品スーパーは争った形跡はあったけど、ものは無くなってなかったし、こんなに簡単に食料が持って来れるならいなくなるわけないのに。」


俺と栞の話にあゆみが割り込んできた。


「えっ?スーパーに行って帰ってきたの?」


「そうだよ。」


「ゾンビはいなかったですか?」


「ゾンビも人も誰もいなかったけど…。」


「人はいないと思いますよ。」


「なんで?あれほど食料があるのに?」


「だからこそです。」


俺はあゆみの話しが見えてこなかった。食料があるのに人がよりつかない?なんで?


続けて、あゆみが言う。


「あの出会った時の薬局にもゾンビいなかったですか?」


「いなかったよ。」


「もしかしたらたまたま運が良かったのかも知れませんよ。」


「たしかに俺たちもそんな気がしたな…。」


「そうよね、あんなに食料も薬品もあるなんてビックリしたわ。」


栞も不思議に思っていたらしい。


「えっと、ゾンビが待ってるから入れないんです。普通は…」


あゆみが言った。



えっと。どゆこと?


「知恵があるってこと?ゾンビに?」


「そうじゃなくて本能みたいな?」


「本能??」


訳がわからん。


「えっとサバンナのワニって水辺に潜むじゃないですか?水によってくる動物を捕まえて食べるやつです。知恵というより本能的にそこに来ることがわかってるみたいなんです。食品や薬が売ってるところに、人が集まるとわかって潜むらしいんです。元人間だし体が覚えてるみたいな?」


「あーそういうことか…てか俺たちが行ったとこはいなかったよ?争った跡はたくさんあったけど…」


「それが不思議なんですよねー?争った形跡があるなら絶対いるはずなのにな…」


たしかに辻褄はあってんな。だけど俺たちが行ったらいなかったぞ?なんでだ?人が来なくなって移ったとか?もと人間ならそのくらいはありそうか…


部屋に戻って昼メシにすることになった。


とりあえず確保してきたホットケーキミックスを緩めにといて、ホットプレートでパンケーキを作った。電気はまだ来ている…きれてもおかしくないと思うんだがなあ…できたパンケーキにバニラアイスを添えてデザートに桃缶をつけた。グレープフルーツの炭酸ジュースを飲みながら食べることにした。


「おいしい!」

「パンケーキ好きー!」


「そうか、そいつは良かったよ。」


とりあえず腹が満たされて落ち着いた。さて…午後はどうするか?とりあえず3人で話し合いだ。


「で、今後どうしよう?」


「そうですねー、テレビもやってないし。ニュースとか情報とれないですよね?」


3週間を過ぎた今、もう社会は機能していないかもしれないな…


ブーブーブー ブーブーブー


あゆみのスマホが鳴った。


スライドさせて出てみる。


「出た!あゆみ?生きてる?」


「生きてる!里奈も生きてたんだ!」


「どこにいるの?」


「駅そばの高級高層ホテルの最上階のレストランに立てこもってた。」


「ひとりで?」


「マネージャーの瞳さんと2人!」


「マネージャーさん?」


「ドラマの収録が終わって、マネージャーと最上階の部屋で料理食べてたら警報がなったんだけどさ。部屋から逃げようと思ったら…スタッフが来て待ってろって…。いつまで待っても来ないからテレビつけたら大変なことになってるの知ってさ。」


「それから?」


「なんと!皆逃げてたの!」


「酷いでしょ?」


「酷すぎる….」


「そしたらエレベーターも止まってて…。階段で降りようとしたら下からうめき声や叫び声が聞こえてきて、慌ててレストランに入って鍵をしめたの。」


「それからずっと?」


「ずっと。」


なんと、2人でレストランの食材で3週間しのいでいたらしい。たぶん立て篭って正解だと思うけど…


「でも食材がきれちゃったの…、とにかく警察も消防署も業界関係者にも、かけまくってたんだけど繋がらなくてさ、友人にかけたら1発であゆみが出たのよ。あゆみはどこにいるの?」


「近頼さんって人のうち。たぶん警察も消防も壊滅したと思う。」


「そんな状況酷いんだ…てか…近頼さんってだれ?」


「助けてくれた人。」


「そうか…、わたしはもうダメかも…最後に声が聞けてよかった…」


「まって!私がそっちにいく!」


「あゆみ!ダメだよここは危険だよ。警察も壊滅じゃ無理じゃん。」


「なんとかする!」


「もう….スマホの電源きれる。バイバイ!」


「ちょっ…」


電話が切れてしまったらしい。気まずい雰囲気が流れた。しかし生きている人がいる事がわかった。もっといるかもしれない。というかこのままではジリ貧だ。動いてみるのも手かもしれない。


「栞、あゆみ。俺助けに行こうと思う。」


「えっ…行ってくれるんですか?」


「危険だがなんとかしなくちゃ!」


「あゆみちゃん!私もそう思うわ!」


「栞さん…」


「そうと決まったら急ごう。」


急いで準備をして、包丁やフォークを持ってマンションをでた。3人で軽自動車に乗り込み駅近くの高級高層ホテルに向かう。道路には車が乱雑に止まっていたがなんとかすり抜けて進めた。人が全くいない…ゾンビもぜんぜんいない…。なーんか不自然なんだよなあ…


ホテルにつくとバリケードを作るように車やトラックが置いてあった。軽自動車はそれ以上進めなかったため車を降りた。


ホテル周辺にも1階ロビーにも誰もいなかった。エレベーターのスイッチを押したが、動かなかった。30階を昇るのか….俺たちは恐る恐る館内の階段を探した。やっとみつけたが、暗かった…流石に危険なので、カウンターに行ったら懐中電灯を3本も見つけた。3人で照らしながら昇っていく。


「ふうふう」


「ちょっと休まない?」


「でも、立ち止まるのは危険だと思います。」


「いや。少し休もう。」


俺たちは階段の踊り場でひと休みした。もう、20階だ。もう少しで着くが息を整えよう。


「よし!進もう。」


異様に疲れるのは、ゾンビの恐怖のせいだ。


やっと30階の最上階についた。そっとドアをあけてみる…いきなりゾンビがでてきたらまずい。しかし誰もいなかった。


とりあえずレストランに向かった。するとレストランには鍵がかけられて入れなかった。


「あゆみ。電話かけてみたら?」


「うん….」


パランパラパラピー


やたら明るい着信音がレストランから聞こえてきた。


「あゆみ!怖いよー。さっきは電源きれたフリしてきったけど、やっぱり死ぬのは怖いよー」


電話の向こうで泣いているようだった。


「里奈!落ち着いて!迎えにきたよ!いまレストランの前にいる!」


「えっ!ウソ!」


里奈さんは、自動ドアの向こうから顔を覗かせた。


「「!!!橋本里奈じゃん!!!」」


俺と栞は声を揃えて叫んだ!髪はゴワゴワ、服はよれよれだが、間違いなくそうだ!


天使すぎる可愛さで有名な女優のCMで見ない日はない、売れっ子新人女優じゃないか!国営放送のドラマに1年間出ていたあの!橋本里奈だ!


「あゆみ〜」

泣きながら鍵をらあけて出てきた。


「里奈!」 


2人は抱きしめあった。後ろからキリリとしたクールビューティーがあるいてきた。


「マネージャーの真下瞳です。」


「あ、近藤近頼といいます。」

「長尾栞です。」


「よく助けに来てくださいました。ありがとうございます。」


「一緒に逃げましょう。」


というわけで、いま昇ってきたら階段を降りることとなった。死にそうだ。


地上に降りてきた5人は車に向かった。バリケードを超え軽自動車にぎゅうぎゅうに乗り込んだ。流石に4人定員に5人は重い。少し進むと瞳さんが言った。


「あの?近くの駐車場にロケバスがあります!キーを持っているのでそこにいけますか?」


「はい。」


少し危険だがパワーのある車がありがたい。早速駐車場へ向かった。


「あれです。」


そこには15人ほど乗れそうなマイクロバスがあった。


「スタッフがきちんと停めてくれていたようです。」


俺たちは早速乗り込んだ。運転は俺がやって、皆は外を警戒している。


「っていうか、ゾンビも人も全然いなくないですか?」


橋本里奈ちゃんが言った。


するとあゆみが、

「確かに…でも私はたくさん見たんだよ!」


「私達も最上階の吹き抜けから下をみたら3階くらい下にゾンビらしきらものは見ました。」


瞳さんが言う。


「俺も実際は見てないんです。」

「私も…」


と、車を避けながら走っていると、車の前に人が飛び出してきた。俺は咄嗟にブレーキを踏んだ。すんでのところで止まった。


「ゾンビじゃないんですか?」


橋本里奈ちゃんが言う。あ!それは想定してなかった!轢いたほうがよかったかな?と、考えていたら。

外の人が


「助けてください!」


と叫んだ。


人だ…


ひとまずドアを開けて入れた。 


「私はあのセンタービルの病院で働く女医です。というか男性??」


「はい、男はわたし1人ですが….」


「わかりました。とにかくあの病院にあと2人取り残されています!助けて!」


30歳くらいの失敗しない女医さんみたいな人だった。うん!この人は失敗しないだろう。見た目が。


「誰か走ってくる。」


2人の女性が走ってきた。2人を乗せた俺はとにかくアジトである我が家に向かった。


マンションの不動産のガラスが割れていた!緊張がはしる。バスを降りて不動産屋の中を覗くが誰もいない…


てっきり初ゾンビかと思ったが、肩すかしだった。


・・・・


とにかく俺の部屋に戻った。


ワンルームには8人は多かった。


今日助けたみんなは相当にやつれていた。俺はとりあえず8人分の牛肉を塩コショウしオーブンでチンして、ご飯を5合炊いた。後は冷凍野菜を1キロ取り出して解凍してだし醤油をふり、ごはんが炊けたのでそれを紙の皿に出した。皆黙々と食べていた。パイナップルの缶を2つあけて、それぞれ2つずつの輪っかを食べ終わった皿にだしてあげた。


あっという間にみんな食べた。


そしてみんな髪がゴワゴワで顔もベタベタしていたので、シャワーをすすめた。全員がさっぱりしたところで円になって情報交換をした。みんなここに橋本里奈がいることに驚いていた。


1番気になった話は女医さんの話だった。


「私はセントラル総合病院で外科をしています。大角華江といいます。でこちらが」


「麻酔科医の北あずさです。」


「私は看護師の牧田奈美恵と申します。」


病院の食堂にあった食材で3週間切抜けたらしかった。


華江さんが話し始めた。


「あの?遠藤さん?」


「近頼でいいです。」


「近頼さん、あなたは男性ですがなんともありませんか?」


「ええ、特には。」


「実はこのウイルスなのですが…。」


「はい…」


「院内の私のラボでわかった結果と、病院のネットワークで知り得た情報ではありますが…男性は空気感染し、女性は噛まれないと感染しません。原因はわかっていませんが、染色体の問題かもしれません。空気感染はかなり発症率が高く男性は絶滅してしまう可能性がありました。ゾンビになってどんどん増えていく一方で、噛まれた女性もゾンビになりますし死んだら全てゾンビになります。」


「俺は男なのになってないけど…」


「そうです。あともうひとつ先程…とんでもないことが起きたんです。」


「とんでもないこと?」


「ええ。院内に彷徨いていたゾンビどもが、燃えるようにして消えて無くなったんです…。」


「燃えるように…。」


「さらに、感染してゾンビに変わる前の人達もです。」


「それも…?」


「ええ燃えるように…。」


「寿命じゃないですよね?」


「違うと思います。私達3人は誰もいなくなった病院から出てきたところにあなた方のマイクロバスがきたんです。」


「偶然でしょうか?」


「わかりません…。」


「華江さん達3人は感染していないのですね?」


「間違いありません。」


俺たちが近寄ったらゾンビが消えた?なんでだ…でもスーパーでもホテルでもゾンビに合わなかったのだから説明がつく。しかし…なぜ?


それから夜になるまで8人で話し続けた結果、次の日の朝にいろいろ調べる事にして雑魚寝した。


朝になり、俺はまたご飯を炊いて全員のおにぎりを作った。具はしぐれ肉の煮詰められた牛を入れ、海苔を巻いたものだ。紙コップに天然水を入れて配る。みんなあっと言う間に食べてしまった。


「じゃあちょっと4階の部屋にあった天体望遠鏡をとって、セントラル総合病院に向かいます。」


全員黙って頷いた。


マイクロバスはセントラル総合病院に到着した。やはり中には誰もいなかった。とりあえず全員で屋上に昇る。また階段かよ…ただこの階段には窓があり、明るかったので昇りやすい。 


屋上についた。


手すりまで歩き天体望遠鏡を設置して覗いた。すると500メートルくらい先に動くものを発見した。


「ゾンビだ。」


全員でのぞいてみる。


「あれゾンビだね。」

「ええ、ゾンビね。」

「ほんとだゾンビだ。」


みな口をそろえてゾンビだという。


「あっ!みて!ビルの窓に人がいるよ!」


本当だ…人が数人隠れているようだ。最大望遠にして見てみると女性しかいない。男がウイルスに弱いというのは本当のようだ…


「華江先生の言うとおりなんです…」


麻酔科医のあずさが言う。


男がゾンビになりやすいことをさして言っている。


「だから貴方が無事なのが珍しかったのよ。」


華江さんが言った。


「なるほど状況はわかりました。でもなんでゾンビは俺たちのバスが近づいたら燃えたのでしょうか?」


「あなたの生存にも理由がありそうだけどわからないわ。」


「とにかくあの女性達を助けましょう。」


俺たちはまたマイクロバスでさきほどゾンビがいたビルまで向かった。道のりにはまったくゾンビはいなかった。


ビルに着いても誰もいない…問題の女性達が隠れている部屋につくまで、まったくゾンビに遭遇することはなかった。


「助けに来ました!」


俺が言うと4人の女性が駆け出してきた。


「え?橋本里奈!」

「本当だ!橋本里奈ちゃんだ!」


皆、里奈ちゃんに食いついていた。


「とにかく!逃げましょう!」


俺が言うと、


「なら私の家がいいわ。広いから全員入っても大丈夫だし、セキュリティーもしっかりしてるから無事なはず。」


華江先生が言った。


「それならば、業務用食品スーパーと薬局、服屋とガソリンスタンドによりませんか?」


「わかったわ協力する。」


それからそれぞれの店に全員でまわりマイクロバス半分が埋まるほどの物資を調達した。どこにもゾンビがいなくてスムーズだった。


華江先生の家につくまでもゾンビはいなかった。




それからひと月がすぎた…



男一人と、女11人で役割分担をしながら生活をした。華江先生は研究に没頭し始めた。そしてわかったことがあったのだ。


華江先生はこういった。


「まだ、確証はないんだけど恐らくゾンビが、周りにいないのは近頼君のおかげで間違いないと思うの。」


「それはどういう?」


「あなたの生きた細胞を調べたんだけど、ちょっとお願いしたい事があるのよ。その前にお願いがあって…」


華江先生が耳元に近づいてきた。そして小さい声で…


「あなたの精子を頂戴。」


「ん!?」


「ちょっと調べたいのよ。お願い。」


そう言って液体の入ったシャーレを渡してきた。


「これにお願いします。」


「わ、わかりました。」


俺は2階の部屋にいき、自分で頑張ろうと必死になったが俺の相棒は、2ヵ月以上ご無沙汰だというのに反応しなかった。30分格闘してダメだった。仕方なく下に降りて華江さんに話した。


「ごめんなさい緊張して無理です。焦ってしまって…。」


「私が手伝うわ。」


「えっ!えっ!」


「とにかく急いで調べたいのよ。」


そして2人で2階の部屋にいき鍵をかけた…




それから20分後…


「準備は出来たわ下に行ってみんなをラボに集めましょう。」


なんと地下には研究室があった。そこにすぐ全員をあつめてモニターに映し出された映像をみる。どうやら電子顕微鏡で映し出された映像らしい。


「あのみんなに見てほしいものがあるの。」


華江先生は続けた。


「これは例のゾンビウイルスよ。」


映像の中に不気味に蠢めく細胞のようなものがあった。そして手にもったシャーレからスポイトでなにかを吸い出して菌の横にたらした瞬間だった。


ウイルスが燃えるように消滅した。電子顕微鏡の中でしっぽのついた何かが元気に泳いでいる…これって…


「先生!これは特効薬かなにかですか?」


橋本里奈ちゃんが、挙手をして聞いた。


「いいえ、生きた細胞です。この細胞のDNAが原因だと思われます。死ぬと効力が無くなるようです。」


「細胞ですか?」


「ええ、近頼君の精子よ。」


ああ…俺は女性11人の前で精子を晒されるという

公開処刑をされているのだな…今宵は涙で枕を濡らしそうだ。


みな絶句していた。


「あのみなさん…汚いものをお見せいたしまして大変申し訳ございません。これは私の不徳といたすところであり、死んでお詫びを致したく思う所存でございます。」


「はあ?死ぬなんてとんでもない?貴方は人類の希望よ!近頼君!」


「へ?」


「そうだよ近頼君これは凄い事だよ!」

栞が言う。


「やっぱ近頼さんって凄かったんだ!」

あゆみが言う。


「さすがあゆみや私達を救ってくれた英雄です。」

橋本里奈が言う。


「近頼さん里奈を救っていただいてなんとお礼を申し上げてよいか…。」

瞳さんが言う。


「あなたはなんとしても、私達で守らねばらなりませんわ。」

麻酔科医のあずささんが言う。


「私が身の回りのお世話をいたします。」

看護師の奈美恵が言う。


「私達はあなたに会えて幸運だったのですね。」

最後に助けたOLの吹田翼さんが言う。


「命の恩人に何をお返ししたら良いものか…。」

翼さんの後輩の髙橋優美さんがいう。


「やっと守る側から守られる側になった気がします。」

ビルの警備会社の吉川沙織さんが言う。


「あのビルに閉じ込められたのは、このときのためだったんですね。」

バイク便メッセンジャーの北原愛菜さんが言う。


「いやいやいや、俺はそんなたいしたもんじゃないっす。」


「いいえ大したものよ。」

華江先生が言った。


そう、俺の細胞はゾンビウイルスを滅ぼす特性があるらしい。しかも生きていないとだめ…。髪の毛や爪にもDNAがあるはずなのだが、生命反応がなければゾンビウイルスは効かないのだとか。 






それが発覚してから2年の月日が流れた。いまは高級ホテルに住んでいる。あの時助けた11人も全員無事だ。あのあと26人の女性を助けた。


俺は高級ホテルの最上階で、新たに入手してきた巨大な天体望遠鏡をのぞいていた。


いろいろ検証した結果、俺を中心に半径1キロ外にいるゾンビはエリアに入れず燃え尽きた。また無線で呼びかけ人を呼んだが、感染に気づかず足を踏み入れた者はエリアに入ると燃え尽きてしまった。いまのところ男性の生存者の確認は出来ていない。


俺は知らない間に、ゾンビ無双してた。


「あっ!いま蹴ったよ。」

「私の子も!」


橋本里奈とあゆみが隣で大きなお腹を抱えて教えてくれている。最初に助けた4人のOLのお腹も大きかった。さらにあとに助けた8人も妊娠したてだ。


既に、栞と華江先生、あずさ、奈美恵には俺と2人の赤ちゃんを胸に抱いている。男の子2人と女の子2人だ。男の子は俺の生きた細胞を受け継いでいるため、

ウイルスに侵される事は無いようだった。赤ちゃんを連れて歩くと俺と同じようにゾンビに会わない。


そして、妊娠している間もゾンビに会わないそうだ。俺の生きたDNA細胞が、新しい生命に生きているからだと推測されるそうだ。


おかげで、俺たちの行動範囲は飛躍的にあがったのである。今は華江先生の管理下で計画的に妊娠し出産をするというサイクルが組まれていた。すぐに受精するわけではないので妊娠の出来高をみながら、定期的に新しい女の子と身体をあわせることになっている。


ずいぶん計画的なアダムとイブになっちまった。


俺が死ぬまでどのくらいの受精をすることができるだろうか?まあ、あとは俺の息子達が大きくなったら引き継いでくれるだろう?


俺の子孫で地上が埋め尽くされれば、またこの地球は人類の手に還ってくるだろう。



そうだ俺はゾンビを無双する救世主でいながら、新しい人類を生み出す壮大な種馬になったのだった…

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