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 神山さんの両目からは途切れることのない涙が流れ、笑顔で刻まれるはずの皺にそれは吸い込まれていった。


「私は今でも後悔しているんだ。あの時、全てを捨てる覚悟ができなかった自分を。彼女を思うことが罪滅ぼしになるわけではないのに、今もこうして、彼女との思い出を巡ってしまうんだ」


私は神山さんの話を冷静に聞くことができていた。もしくはあえて距離を空けるように聞いていたのかもしれない。


それは私もただの人ではいられなかった一人であり、私が私に対して言えなかった言葉をようやく伝える事ができるからなのだろう。


「でも、神山さんは社長という役を投げ出すことなく、杏奈さんが願ったことを最後までやり遂げたということですよね?それは杏奈さんが望んで、そして、ただひとつだけ一緒に居られる方法だと彼女は思ったのではないでしょうか。だから、神山さんの…手放せなかった社長という役の中には、ずっと杏奈さんいてくれて、一緒に歩んで来たんだと僕は思います」


神山さんは浴衣の袖で涙を拭き、大きく口を開けて笑った。杏奈という女性の笑顔がそこには映っていた。

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