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幸いなことに、道路に上がるとすぐにタクシーが走ってくる姿が見えて、私は胸を撫で下ろした。
手を挙げた私の元にゆっくりとタクシーは近づき止まった。
運転手が降りて、私からキャリーバックを受け取ると慣れた手つきでトランクに入れた。
地域の特色なのか、その動きはゆっくりと丁寧で、ここに来たことを歓迎されているような勘違いを起こしそうになる。
私はトランクが閉まったことを確認してから後部座席に乗り込んだ。
タクシーの中は冷房が効いていたため、一気に汗が引いた。運転手はルームミラー越しの私に興味の眼差しを向けた。
しかし、すぐ前方に視線を戻した。私から目的地を聞くとそれ以上は何も言わず丁寧にタクシーは動き出した。
静かな走り出しは海から離れる余韻を与えてくれた。
紙芝居のようにゆっくりとズレて遠ざかっていく夕焼けの海岸線が、容赦無く流れていく無慈悲な現実を少しだけ忘れさせてくれた。
そして、その時間を一人で感じさせてくれた無言の運転手に感謝した。
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