第70話 PK再来

「ワン‼ トゥー‼ スリー‼ クリムしゃん、タイミングがズレているりょん‼」


 フィレンの指導は続く。全くわからない――というよりアイドルに興味がない――俺でもわかるのは、チェリスとアルスが揃い始めていること。

 だが、クリムの遅れ具合いはよくわかる。ってか、超目立つ。ほんとにデビューできるのだろうか?


『んじゃ、あとは任せたぜ‼』

「えっ⁉」

『おいおい……。ま、いいか……。やっぱさすがだなぁ~。私も見学させてもらうとするか……』

「へっ?」


 ルグアの迷言が頭の中を曇らせる。通信しかできないのに、どうやって見学するんだよ⁉


『ハハッ‼ もしや、引っかかったな? アレン? 冗談だよ。冗談。できるわけねぇだろ‼』


 団長。ちょっかい上手。嘘に聞こえない。演技に見えなかった。演技なんだろうが……。


「も、もしかして……。演劇部だったんすか?」

『……さあな』


 ルグアと言葉を交わしながら、アイドル初心者のレッスンを見る。『さすがだ』と言っていた相手は、きっとチェリスだろう。

 ただ一人、ずば抜けて上手い。キレも笑顔も段違いだ。バックのクリムとアルスの影が、だんだん薄くなる。


「決めたりょん。アルスしゃんとクリムしゃんは、重点的に教えるりょん‼」


 ガッテンと手を打ち、見本になるフィレン。チェリスを置き去りにして、離れていく。


「アタシはどうするのよ?」

「チェリスしゃんは自主練で大丈夫りょん‼ ファイトだりょん‼」

「じ、自主練って……」


 情緒不安定のチェリス。わからないのは仕方ない。一番最後に参加したのだから。うろ覚えに決まって……。


「チェリス、そこをどけっ‼」

「「……⁉」」


 突然、沈黙を貫いていた風魔が叫ぶ。俺は言われたように、チェリスを避難。なぜかはわからない。刹那。


 ――ビュシューン……。


 耳に響く風切り音。飛んできたのは、投剣だろうか? 風魔は真っ向勝負で受け止める。

 苦言はない。何も声出さない。静かすぎるのは、変わり無し。小刀が胸に刺さっているのに……。


「だだ、大丈夫……すか?」

「……気にする必要は無い。むしろ嬉しいくらいだ。ウォーミングアップには、物足りないが……」


 逆に気になるこの展開。小刀が飛んできた方向には、小柄でピンクの髪を揺らす少女。


「ありゃりゃ、止められちゃったぁ~。ざーんねーん♡ むねーん♡ えへへっ、なんちゃって♡」

「「あんた誰?」」


 初対面にしては、はちゃけてる少女。笑みのレベルはチェリス以上だ。可愛いすぎてとろけそう。


「ねぇねぇ。そこの女性。テスターナンバー300のチェリスだよねぇ~♡」

「そ、そうだけど……」


 戸惑いを隠せないチェリス。少女の用件は何なのか? ってか、名乗るのが先じゃね?


「ごめんちゃいの許してちょ♡ マロネって呼んでね♡ この前、とどめ刺しきれなかったから、来ちゃいましたぁ~‼」


 こんな可愛いやつがPKなんかよ⁉ それに刺しきれなかったって……。


「第6層のことだよ~ん‼ ルグアに邪魔されちゃったからねぇ~」


 邪魔されたって……。ん? ということは、あの時助けた女性って……。思わずチェリスを見ると、


「今更遅いわよ‼」


 ――バシッ‼


 強烈なビンタを受けてしまった。

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