プロローグ

 ◇◇◇数時間後◇◇◇


『亜蓮‼ いつまでゲームしてるの‼』

「ん~。あと五時間やったら行く……」


 カチカチとパソコンのタイプ音を鳴らして、母さんの返答を待つ。勉強机に置かれた山のように積み上がる教科書。

 床は足場が無いくらい大量のプリントで埋め尽くされている。ゴミは散らかり放題で片付けた形跡も無し。というより、ただ単に俺がめんどくさいだけ。


『五時間ってちょっとやり過ぎよ‼ 夕ご飯できてるからおりて来なさい‼』

「冗談だよ。今行く」


 俺の家では毎日このやり取りが始まる。ちょうど夏休みだから、なおさらだ。怒られる原因はわかっているけど、いつも良いところで邪魔される。

 舞彩まいから教えてもらった、〈リアゼノン・オンライン〉のディスク型ゲームソフト。夕ご飯を食べたらこのゲームで遊ぼうかな?

 そう考えながら一階に下りて、食卓の席につく。二階に比べて一階のダイニングは綺麗に片付けられ、部屋の印象も全く違う。

 テーブルに並べられた今日の夕ご飯はサバの塩焼き。ほどよい塩味でご飯が進む。もちろんサラダも用意されていて、バランス良く手をつける。

 米つぶを残すことなく食べ終わると、お風呂に入ってパジャマ姿でリビングへ。


「ただいま‼ おっ‼ 亜蓮もう着替えたのか……」


 ちょうど父さんが帰ってきた。


「あの‼ 今日から学校が夏休みになって……」

「すまないな。実は今日から一ヶ月の間、アメリカの方に出張なんだよ。亜蓮の話を聞きたいのは山々だが……、すぐ出発しないと、飛行機に間に合わなくなる」

「そっか……。わかったよ……。おやすみ、父さん」


 もっと話したかった気持ちはあるが、出張なら仕方がないので二階に移動。

 勉強机に置かれたゲームソフトを、パソコンに入れる。横には小さな振り子時計が、コクコクと時を刻んでいた。

 時刻は午後九時。早めに寝ないと怒られるから、一時間で終わりにしよう。VRゴーグルを身につけると、「ログイン」の掛け声でゲームを開始した。


 ◇◇◇◇◇◇


「さーてログインの手続き終わったし、ステータスを確認……。と」


 簡単な操作でメニューを表示させ、項目を探す。上からステータス、装備にアイテム、フレンドに有料コンテンツと並び、一番下にオプションメニュー。

 その中からステータスを選択する。綺麗な効果音と同時に映し出される画面。書かれているのは、


 プレイヤー名:アレン

 レベル:1 ジョブ:剣士

 HPヒットポイント:814,739,500

 攻撃力:935,394,100

 防御力:739,415,500

 魔法攻撃力:247,653,200

 魔法防御力:347,516,980


「なんじゃこりゃ‼ レベル1なのに、最強すぎね?」


 ありえない数値だった。これには仰天してしまう。有名って聞いたけど、ここまで高かったら意味なくね? いったい何が面白いのだろうか……。

 俺は王道しかプレイしていなかったので、イマイチだった。そう思いながら、目の前に見えた坑道のダンジョンへ向かう。


「まず、ここを攻略してから考えよ……」


 坑道は薄暗く、少しひんやりと肌寒い。そんなのはどうでも良かった。小石が転がっている道を進み遭遇エンカウントするまで歩く。

 ようやく見えたのはゴブリンの群れ。片手剣を右手に持って突撃する。


「せいやぁ‼」


 居合いを込めたなぎばらい。少し離れた場所からは回転斬りで引き剥がすと、アクロバティックに仕留める。一応、俺は体育会系イケメン男子。自分で言うのもあれだけど……。


 ――レベルアップしました。


「おっ‼ 早速チェックしてみるか……」


 プレイヤー名:アレン

 レベル:2 ジョブ:剣士

 HP:648,214,300

 攻撃力:860,394,100

 防御力:652,415,500

 魔法攻撃力:138,653,200

 魔法防御力:240,516,980


「ふぇ⁉ マジ⁈ 数値下がってんじゃん‼」


 普通なら増えるはずなのに、なぜか減っている。どういう仕組みなんだよ‼ このゲームは‼

 増え続けるゴブリンの相手をしながら、俺は困惑してしまった。倒せばレベルアップ、上がればステータスダウン。

 運営は何を狙って、この設定にしているのだろうか? 今の俺にはわかるはずもない。迫る敵を倒す。できることはそれだけだった。

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