第59話 家族旅行はエジプトで
エジプトにいます。
急に何の話?だけど、私、今、エジプトにいます。
予算争奪戦でもある、期末試験を無事に終えた学校。
当然、夏休み突入です。
試験休み中に、夏の予算分配なるものが行われるとのこと、学校では知らないことがたくさん起こっていたようです。
夏休みというのは、文化系も体育系も試合やコンクール等がいろいろあるよね。
県大会に全国大会、出ると出ないとでは必要な予算も違う、ということのようで、毎年クラブ活動の予算、として、各学期の終了時に各部に分配されるようです。
まずは、大会に出るための費用がいる部は、地区大会突破が予算大量取得の要件になるんだって。
大会とか関係なく活動する場合は、やはり学業優先ってことで、部員の成績が考慮されます。
うちの学校は、学年順位が分かるようになっているからね。
通知表の記載事項に学年順位も出ているし。
英会話、グラマー、リーダーなんていう各科目は100点表記で、英語みたいに教科の表記はABCDEの5段階評価。
私は、トロいけど、成績は悪くないのよね。まぁ、お姉ちゃんほど優秀じゃないけど。
だってね、生涯オールAとか、わけわかんないでしょ?さすがは生徒会長様です。
ミス研は、変人の集まりだけど、成績優秀者が集まっている。
今年も、なかなかの予算をゲットできた、と、部長さんは大喜びしていました。
なんでも、今年の合宿は、ほぼほぼ部費から出るから、できるだけ参加するように、ってニコニコ顔でした。
毎年、合宿は盆明けにあるそうで、私は・・・まだ未定。
試験休みが明けると、もう終業式だけ。
で、夏休み突入です。
前世の仲間達は姿を消して、なんていうか、入学当初ののんびりした雰囲気に戻ってきました。
特にさしたる問題もなく、タツがときおりミス研に神様やら妖怪の本を持ってきては、こいつは本当は○○で・・・なんて、解説するのを聞くのが非日常といえば非日常。だからといって、シオンが必要な出来事もなく、詩音でずっといるから、なんとなく、女の子の意識が多くをしめるようになってるかも、と、分析とも言えない分析をぼぉっとしている、かな。
あれは夢だったんじゃないか、前世やその仲間たちとのこと、また、タツに連れ回されたこの世界の化け物たちとの邂逅を、そんな風に思えるようになってきた今日この頃。
我が家では、夏休みは半分ぐらい海外で過ごすことが多いんだけど、今年はエジプトへと行くことになりました。
両親はお仕事関係も考慮しての、エジプトです。ビジネス用の社交、ってやつ?
エジプトってアフリカ圏だけど、飛行機でパリまですぐだし、経済圏はむしろヨーロッパと似たようなものなんだそう。もともとエジプトは古代からヨーロッパと一連の文明を築いてきたしね。古代ローマに古代エジプト。いずれも文明圏はかぶってくるのよね。
とはいえ、やっぱりローマとエジプトでは全然違うわけで。
エジプトと言えばピラミッド、です。
ギザのピラミッドは有名だけど、大小無数にピラミッドは点在していて、日本で言ったら古墳みたいな感覚、なんだそう。まぁ、どっちもお墓だしね。
ピラミッドだけじゃなくて、普通に墳墓もたくさんあります。地下に向かって掘ったような奴。
ミイラもたくさん発掘されてるし、その壁画や埋葬された物は、ギザのピラミッドじゃなくても、なかなかに興味深い。
なんていうか、前世を彷彿させる、のよね。
こんな古代の遺産は、エジプトの国にとっても立派な観光資源となっていて、国との交渉で、お金さえ払えば結構中に入れてくれたりします。
王家の谷と呼ばれるお墓がいっぱいある場所だと、あちこち観光客を案内している姿が目につくわ。
昨日、私たち家族も、『あなたたちだけ案内します。』なんて調子の良いことを言う役人に連れられて、ある王妃の墓を見学しました。
そして、今日は、ギザではない、ちょっと小さめピラミッドがある場所に来ています。
ここのピラミッドは中が公開されていて、自由に入ることができるの。
自分で明かりを用意して入らないと暗いからね、なんて注意を受けつつ、私とお姉ちゃんは日本で買った小さなヘッドライトを装着。
小学生ぐらいの西洋人の男の子達が、それを羨ましそうに見てきたわ。文字通り指をくわえて。
そんな顔しても貸さないからね。
身長だけなら私よりも大きいその子達に、ちょっとだけ「いいだろう」ってポーズをしちゃう。
「もう、詩音たら。ほんと、子供ねぇ。」
クスクス笑うお姉ちゃん促されつつ、中に入ります。
外からピラミッドの上方に登って、小さな穴から入るんだけど、まるで洞窟に入るみたい。
私は小さいからいいけど、大きな西洋人のおじさんとかは大変そう。
中に入っても、ほんと、狭いね。私はちょっぴり頭を下げ、気持ち膝を曲げる感じで降りて行く。けど、大きな人達は、ずっと屈んで、急勾配の階段を降りてるから、ほんと大丈夫かな?
ピラミッドに入ると、観光客もそれなりにいるから、戻って来る人と譲り合いながらの道程です。
ヘッドライトの明かりが頼りの真っ暗な道。
前を行くお姉ちゃんの背中を見ながら、妙に懐かしい気になるのはなんでだろう。
「くっさぁい。」
お姉ちゃんがこっちを振り返って、鼻をつまみつつ笑っています。
うん。
確かに臭い。
すえた匂いは、でも、なんだか懐かしい。
そうだ。
場末の酒場はこんな匂いがした。
あと、庶民の家は大概こんなものだ。
地下室とか、もっとひどかった。
汗とアンモニアと埃が、嫌な化学反応を起こしたような、ずしりとするこの匂いは、あの世界では、あちこちで嗅ぐことになったもんだ。
スラムなんかじゃ、もっとひどかったけど、この匂いがする方は危険が多い、なんていうそんな目安でもあったっけ。
そんな感想がとりとめもなく出てきて・・・
「どうしたの、詩音?」
ふざけて鼻をつまんでいたお姉ちゃんがびっくりしたように立ち止まって言った。
え?
私は、言われて、自分の頬に涙が伝っていることに気付いた。
なんで?
この匂いがあったところには、リーゴたちもいて・・・
こうやって観光を楽しんでいる間にも、彼らは戦っているんだろうか?
魔王となったサーミヤが、力を蓄えているんだろうか。
それに・・・
ハハ、驚いた。
俺の頭に浮かんだのは、ナオルの顔だ。
すえた匂いのする裏道へと、俺をよく誘ったもんだった。
ナオル。
お前は真っ先に逝っちまった
お前以外は、仲間ってなんなんだろうなぁ、っていう目に遭ったけど、ちょっぴりあんたが羨ましいと思うこともあるけど、やっぱりあんたを守り切れなかったことは後悔、つうか。
いや違うな。
こんな迷った心をいつも引っ張ってくれたのは兄貴分のあんただったんだ。全く。なんで先に逝っちゃったんだよぉ。
匂い、というのは、存外記憶を引き出す物で・・・
無意識に流れた涙は、頭より心が先に分かっていたのだろうか。
こんな観光客がいっぱいの、人だらけの場所で涙を流すなんて、恥ずかしすぎる。
そう思った私は、ふと違和感を感じた。
あれ?
ここはどこ?
お姉ちゃん?
泣き顔を見て驚いていた姉はどこ?
私は、一人、真っ暗な、だけど、嫌な感じに嗅覚だけは刺激する、そんな場所に一人佇んでいた。
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