第48話 マリーブ
2,3日。
そう言っていたのに、翌日には私の前に現れて、突然拉致っていったのは、マリーブだった。
深淵を見通す、と言われたその深い紫の瞳。
同じく紫の髪を、相変わらずただ切りそろえただけ、の、髪型も変わらない。
いつもダボダボの魔術師ルックをしていたのが、今は黒のスーツに身を包んでいるし、少し背も高く感じる。いや、これはこっちが小さくなったからか?
ただ、違和感なんてそんなもんで、良く見知った仲間だと思ったんだけど・・・
場所は昨日のリーゴの部屋。
私は、なぜかマリーブに膝の上に抱かれて、頭を撫でられている。
そういや可愛い物好きで、小さな魔物を拾ってきては、ナオルに捨ててきなさい、って叱られていたなぁ。
もちろん、私は、抵抗した。
けど、詩音のスペックのまま拉致られるように学校前から連れ去られ、タクシー経由でこの部屋に連れ込まれ、そのまま、膝の上に。
簡単な抵抗は、無駄に洗練された麻痺の魔法と、植物を操る能力で、なすすべもなく、連行され、今に至る、というところ。
さきほどまでは、しびれた身体で身動きが出来ず、話すことすら出来ない、目も動かせない状態だったけど、やっと、目や口ぐらいなら動かせるようになってきた私。
冗談にして、これはひどい、と、睨もうとしたけど、そもそもまだ首が動かせないみたい。
「どういうつもり?」
麻痺のせいで舌っ足らずになるものの、どうにか言った私。
「フフ。良い子良い子。」
気にせず頭をご機嫌に撫でるマリーブ。
完全に拾ってきた魔物の子扱いって感じ。
まだ、魔物の子相手みたいに、ひっくり返されて腹を撫でられる、なんて暴挙に出ないことを喜ぶべきか、なんて、考えていたら、慌てて走って部屋に入ってきたリーゴが見つけて、私を引きはがしてくれました。
遅いよ・・・
というような、なんというか、いかにも、な、元パーティたちのやりとりがあって、やっと一息ついた私たち。
女3人、ケーキをつつきながら、おいしいね、とか、そんな当たり障りのない会話。
なんだこれ?
「で?えらく早いご到着、だね?2,3日かかるって聞いたけど?」
一息ついて、まったりしはじめたそのとき、私は、マリーブにそう尋ねた。
ローマから、ってそんな簡単に来れるの?
「軍用機出させた。」
・・・・
出させた、って。
あんた何者よ。
「早く日本に行けなきゃ、魔力が暴走するかも、ってつぶやいただけ。」
脅してるよね?!
で、どこで誰を脅したのさ?
マリーブじゃらちがあかないのは分かっていたから、チラッとリーゴを見て、先を促す。
「あ、えっとね。マリーブは、この世界に来るとすぐ、魔法の知識でもって、この世界で一番その手の権力を持つ人のところに直談判にいったのよ。」
「そんな人いるの?」
「まあね。この世界で一番信者が多いと思われる宗教団体のトップ?」
って、キリスト教のトップ=ローマ教皇ってこと?
それで、ローマ?
「交渉ははじめからうまく行って、エクソシストっての?その人たちに協力して信頼を得て、この世界の力を学んでるんですって。えっとなんて言ったっけ?」
「カバラ。」
「そう、それ。それを教えて貰いつつ、魔法の講義してるのよね。」
「そう。みんな良い子。」
「ですって。」
・・・・
なんか、ついて行けない気がする。
これって現実の話?
映画の世界じゃん。
聞くのは怖いけど、聞いておくべきかな?
「じゃあさ、リーゴは?リーゴは何してたの?」
「私?私はほぼアメリカね。表向きはCIA所属。身分隠して教師として派遣された、ってとこ?」
表向きがCIAって!
いや、そもそも身分隠してる時点で裏側ですよね?
「ちなみに私の場合、向こうから接触してきたのよ。なんか蛇の道は蛇っての?マリーブのことを掴んでた、そっち系の組織が、自分たちもってね。幸い転移先がアメリカだったもんで、ダウジングだかなんかでマリーブみたいなのゲットできないかなぁって探ってた、その網に引っかかったらしいわ。」
この先、聞いてていいのか、ちょっと不安。
「でもって、私を見つけたその組織、私の本当の所属はフリーメーソンっていうの。そこそこ歴史あるらしいわよ。なんか、巨大な建物、ピラミッドって知ってる?それを建てた大工の集団が元祖らしいの。」
へぇ、フリーメーソンって実在するんだぁ、私はちょっと遠い目になる。
つまり、ここにいるのは、バチカンとフリーメーソンってわけね。
ハハハ。一体何の小説を読んでるんだろうねぇ。
現実とは思えないわ。
タツと出会っただけでも、なんだこれ、だったけど、この地球も、大概侮れん世界だったんだねぇ。
普通に小市民で育った私には知らない世界だよ、ハハハ。
「シオン安心する。シオンは私が守る。」
「そうよ。まぁ、一緒に戦うなら別にそれもいいけどね。ただ、覚えておいてね。私たちのバックにはバチカンもメーソンもついてる。頼れるものは頼る。自分たちだけが突出したら、前世の二の舞よ。」
「情報戦も重要。」
リーゴ、そして、マリーブの言葉に、若干気圧されながらも、私は、大きく頷いた。
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