第41話 前世のその後
「ですが、さらに後日、改めてシオン様のことでお話しがあったのです。」
うずめはそう言うと、俺の目をじっと見た。
一見優しくもあり厳しくもあるような、しかしまったく感情を読ませない目だ。まぁ、もともと、人の心の機微を読むことに長けてはいないのだけど、と、少々自嘲気味に内心笑った。もしも、もうちょっと長けていたら、前世であんな死に方はしてないだろう。しかし、この辺りは詩音になっても成長しないな、などと、少々斜めを向いた感想を抱く。
「女神アレクシー様のご伝言です。」
まるで、巫女が神の言葉を伝えるときのような荘厳な雰囲気。いや、実際、神の声を伝えようとしているのか。
「シオン様と処刑されたのは別にお二人。アレクシー様はお二人にもシオン様と同じようにお詫びなされ、希望を聞かれました。」
なるほど。
確かにシオンは魔王討伐隊の仲間であった二人、リーゴとマリーブ。俺はふたりと共に処刑されたんだ。ふたりだって俺と同じ。女神の要請で討伐隊に参入し、死線をくぐり抜け、帰還。俺と共謀したとして殺された。むしろ、ふたりの方が巻き添え感が強いかもな。
「お二人は、しばらく女神のもとで願いを考えさせて欲しいと、休養されていたそうです。約10年後。事態は変わりました。あなたが元いた世界アレクシオンに再び危機が訪れたのです。」
「危機だって?」
「はい。魔王復活。いえ、正確には新たな魔王の誕生、ということです。」
新たな魔王だって?たった10年で?
どういうことだ?
あれだけ苦労して討伐した。
新たってことは別個体か?
しかし・・・女神はまた集めるのだろうか?俺たちみたいな戦う者を。そしてまた・・・
人は、力を持つ者を怖れる。使うだけ使えば簡単に廃棄する。
あのとき処刑されていなければ、俺たちは再び立ちあがった、のだろうか・・・10年程度なら、まだ俺はあの頃のベリオより年下だしな、と、暗い笑いが奥からこみ上げてきた。
他の人にしろ、自分にしろ、再び世界のために戦うなど、悲しみを重ねるだけだろう。
俺が自分の思索へと沈んでしまったのを、じっと何も言わずにその場の人々が見守っていることに気付いたのは、どのくらいの時間が過ぎた後だろうか。
ハッとして、顔を上げる。
だが、こちらを見る目は、皆柔らかく、それがかえって羞恥を呼んだ。自分の顔が火照るのを感じる。
「あなたは、前の魔王の折、討伐隊として召喚されたと聞きます。その後の不幸もあり、女神アレクシーは新たな討伐隊を組織することはなかったそうです。ただ、そのことを、生き残った元討伐隊に知らせようとした、ということなのですが・・・」
うねめは言いよどむ。
なんだ?
「討伐隊の生き残りは2人、そうですね。」
ああそうだ。
リーダーのテレシアン騎士ベリオ。そして、テレシアン王女サーミヤ。俺たちを断頭台に追いやった二人だ。
俺は頷く。
「その二人の国は同じ、間違いないですか?」
俺は頷く。
最大かつ最強の国家テレシアン。
王女を討伐隊に入れることにより、その国力をさらに上げた。事実上一強。
「新たな魔王は、その国の中枢に顕現したそうです。女神は新たな討伐隊を組織することなく、天罰を与えた。城ごと天の雷を放ち、周囲に影響を与える前に討伐しようとされました。」
城ごと?
中枢が、って、まんまの意味なのか?
まさかの、テレシアン城に魔王が顕現した?
どういうことだ?
俺は、重厚で美しかった、そして寒々としていた、あの城を思い出す。遠い記憶、しかも前世。なのに、くっきりと心に刻まれているもんだな。しかし、城、か。二人はまだそこにいたのかな。
ベリオは引退でもしてない限りいた、だろう。
姫は・・・まぁ、結婚してどこぞの国に嫁いでる、か。
「魔王は一応討たれましたが、大国といえどすでに国の体をなさず。国土は魔物が跋扈する危険地帯となっている、とのことです。が、それはそれ。魔物の討伐を生業とする者がいるとか。人とはしたたかな生き物。新たな秩序がそのうち形成されるだろう、と、女神アレクシーは傍観されるようです。」
「ああ、だろうな。そもそも女神が討伐できるんなら、あのときもしてろって話だ。なんでも地上に過干渉はできない、とかなんとか言ってたって聞いたが・・・まぁ、いい。確かに前世の話。気にはなるが俺が聞いても、だからって?ってなるんだけど?それとも何かあるのか?」
何かあるんだろうな、と思いつつ、俺は聞いた。
実際、死んでしまった俺が今更アレクシオンの事後の歴史を知ったところで、そのへんのラノベを読むのと大して差はないだろう?
「そうですね。あなたはすでにシオン様ではなく、この世界の住人。遠い世界の話、です。なぜこれをお伝えしたか。女神アレクシーからの伝言の補助と思ってくださいませ。女神からの伝言は、あなたと共に処刑されたお二人の望みのこと。お二人は、先ほど申した事後を見た後、望まれました。シオン様と同じ世界へ転生ではなく転位したい、と。女神は彼女たちの願いを受け入れたいと、この世界を訪れ、そして、この世界でもとある条件にてその受け入れを決めました。」
「とある条件?」
「はい。彼女たちはそのままの姿で転位。そしてあなた様の、シオン様の力の解放、です。」
「俺の?」
「はい。あなたの記憶と力を解放する。2人を受け入れる条件、とさせていただきました。もしあなたが記憶と力を取り戻しているのであれば、お二人の転位はその時に叶った、と、申し上げることが出来ましょう。」
うずめは戸惑う俺の顔を見て、にっこりと微笑んだ。
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