第37話 中川さん家
気がつくと、見知らぬ天井だった。
ハハ、本当にこんなベタな感想抱くんだな、って、ぼんやり寝ぼけ眼の私こと、京央学園高校1年A組吉澤詩音15歳は、思った。
うん。私は誰?はなかったね。ここはどこ?だけど・・・
私は、自分の体を覆うずっしりしっかりしたお布団を感じる。
旅館みたい。
上半身を起こすと、8畳ほどの畳の部屋で、しっかりと床の間までついてる。
うん、知らないとこだよね?
部屋の隅を見ると、服がたたまれていて、あれは、私の服?じゃあ、今は何を着てるの?って思い、布団をめくって自分を見てみる。
かわいいピンクと白のストライプのパジャマ?私のじゃないね。私は今黄色地に熊さんのスウェットパジャマだもん。うん、私はスウェット生地のパジャマがお好み。
なんて、考えていた。
どのくらいぼんやりと考えていたかな?
しばらくしたら、障子の向こうから、トントンってノックされた。
「詩音ちゃん、起きてますか?」
あ、この声は知ってる。中川さんだ。
「あ、はい。えっと、中川さん?」
「シッシッシッ。良かった、起きたんですね。開けてもいいですか?」
私は慌てて、布団をめくってその上で何故か正座し、髪の毛を軽く手でなでつけて、どうぞ、って言ったんだ。
そうっと、障子が開けられて、中川さんがニコニコと入ってきたよ。
「大丈夫ですか?」
「えっと・・・うん。ていうか、ここはどこ?」
「ここは、私のうちです。えっと、詩音ちゃんは色々覚えてますか?」
うーん・・・・
えっと、仮入部したミス研でのお出かけっていう名目で、タツと中川さんで地震を起こす大ナマズ、ってのを見にいくことになったんだよね。中川さんちの岩永さんっていう人が運転手をしてくれて、なんか森の中の小さなお社がある場所まで行った。
そこで大きな力の塊を感じて、タツがその場所の次元をずらした。
私は、シオンの力で、対峙して・・・
あっ!
私は、おそるおそる中川さんを見たよ。
中川さん。
不思議なことが大好きで、なぜか私に近寄ってくるきれいなモデルみたいな同級生。小学校からの友達?うーん。私はあんまり話したことはなかったけど、いつの間にか仲良しグループの中にいて、よく一緒にいてた女の子。美人さんなのに変な笑い方をして、ちょっぴりみんなに引かれてるから、お友達は多くない、と思う。けど本人はいつも楽しそう。そして、実は憧れている男の子がいっぱい。女の子もルックスにあこがれを持ってる子がいっぱい。実は私もその一人。だって、中川さんって私の対極のスタイルなんだもん。
そんな中川さんだけど、高校になってタツと出会って、なんだかとってもお話しするようになった。この前のゴールデンウィークからかな?
なぜか中川さん、タツの正体が龍神だ、なんてことを知っていて、しかも平然と敬っているみたい。ひいおばぁちゃんが有名な霊能者?なんてことを言ってた。
私は、テレビとかで特集をやっていたら興味本位で見ることはあっても、オカルトなんて遠い世界の話だから、本当に霊能者、なんているなんて思ってもなかったけど、最近になって、霊能者どころか神様とかあやかしとかがいる、なんてことを知ったの。そうそう、岩永さんって、そのひいおばぁちゃんのお弟子さん、だって聞いたけど・・・
そうなんだ。
中川さんも岩永さんも、オカルトな世界の人。
だから、なんとなくの流れで、タツと一緒に、私がやっちゃったことを見せちゃったけど・・・
なんで、気にもせずシオンの力を使っちゃったんだろう。
そりゃ、あのときは先にタツのバカが次元をずらすなんてことをやらかしていて、自分の中で大ナマズの対処にしか頭がいってなかったってこともあるんだけど・・・
霊能者の関係者、かなんか知らないけど、シオンの力は別物だって、私でも分かる。はじめの時タツがとっても警戒していたのを知っている。タツが京央学園にやってきたのは、私を探すため、って聞いた。変なでっかい力が現れて、神様界隈が危険視したから調査のためだって。
そんな神様的な人達まで動かしちゃったこの力は、そもそもがこの世界の力じゃなくって、言葉どおりの異次元の力だ。
私は元の世界の神様に、平和でホワホワと暮らしたいって希望して、送られたこの世界で、ゆったりスローライフを目指している。だから、前世の力なんて持ってくる必要は無かったんだけど、なぜかこっちの世界にないステータスがくっついちゃってきて・・・
そう。
このことは大切な家族にも親友にも内緒、だったのに・・・
タツは仕方ない。だって神様だもの。
でも・・・
中川さん。
一応、友達?でもそんなに親しくなくて、それなのにシオンの力を見せちゃった。
目の前でニコニコしている彼女は、私のことを怖れているようには思えないけど・・・
だけど知っている。
ニコニコしていても、心の中で怖れていて、同じ人間とは見てくれない人達を。
俺は、いやというほど見てきたんだ。
力を利用するだけして、思い通りにならないと知るや、殺そうとする多くの人々・・・
力を持つ者は持たざる者に隷属せよ、口では美味しいことを言っても、そんな風に思っている、自称親切な人たち。
私の沈黙をどうとったのか、中川さんはやさしく言った。
「詩音ちゃん。すごかったですね。私の想像の何倍も上をいってました。シッシッシッ。いやぁ幼少期から見守ってきた甲斐がありましたよ。でもね、心配しないでくださいね。私、一生懸命、詩音ちゃんの穏やかな生活を守っていきますから。」
「えっと・・・」
「シッシッシッ。私のひいばぁちゃんって有名な霊能者だって言ったの覚えています?実は先祖代々たまぁに強力な霊能者が現れるんですよね。私、産まれた時からひいばぁちゃんの跡継ぎだって言われたんです。シッシッシッ。小4の時、私の運命の人が覚醒したって、ひいばぁちゃんに告げられました。私の運命の人。詩音ちゃん。初めて詩音ちゃんを見た時、嬉しかったなぁ。ホワホワとして可愛くって、私がこうなりたいって思う理想の女の子だったんですもの。それから私はずっと詩音ちゃん一筋です。ひいおばぁちゃんがね、詩音ちゃんは平和な世界で生きたいって願って産まれてきてくれたんだよって。大切なお人だから、その願いを叶えられるように、影になり日向になって守って上げなさいって。」
私は絶句した。絶句したっていうのはこういうのを言うんだな、なんて、頭の片隅で考えてた。
よくよく考えてみれば、中川さんが気がついたら側にいたっていうのは、シオンの記憶が戻った直後。いつでも中川さんと目が合うと、優しげに微笑んで、例のシッシッシッっていう笑い方で笑っていた気がする。
けど、ひいおばぁちゃんに言われて、って、どういうことなんだろう?
それに、中川さん、変わらない。
あんな力を見せちゃったのに、良い意味でも悪い意味でも、まったく変わらず私を見ている。
聞かないのかな、力のこと?
私は、シオンのことをこの人に言うべき、なんだろうか?
「フフフ。混乱、しちゃうよね?ひいばあちゃんに会いますか?今、ひいばぁちゃん、龍神様とお話し中なんですよ。フフフ。」
そう提案した中川さんの笑い方はいつもよりとってもおしとやか、だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます