第35話 ナマズ、開戦
どうやらこの空間、魔法で作り出したこの剣に相性が良いらしい、俺は愛剣を手にしてほくそ笑む。しっくりくる。ああしっくりくるよ。前のからだとは違う小さな柔らかいこの体。なのに手に馴染むこのグリップ。体中に魔力を浸透させると、柔らかいこの体だって、十分に普通の剣を弾くだろう。むしろこの小さな体、軽くて上手く操れば、前の体よりスピードがでそうだな、俺は、そんな風に自分自身を確認する。
間違いない。
前回タツと戦ったときより、ずっと魔力が体になじむ。
剣の感覚もこの体に馴染んでいる。
「なぁ、シオン。もうちょい待ったら、知り合いに頼んだ新しい要石が届くと思うんや。そうしたら封印はできる。むろん、あの力を削ぎ取って活動できんまで小さくしたら、地震を起こすだけの力はとりあえず消える。完全に消せたら、あのナマズの心配は永遠に消える。まぁ、別で発生せんとは言えんけどな。少なくとも目の前のやつからの脅威はなくなるっちゅうわけや。」
「へぇ。それで?」
「正直、削る、とかは期待してへんねん。シオンがどうこう言うより、そんなことできるんは、神でもむずいわ。なんせ相手は力の塊、エネルギーやさかいなぁ。太陽に喧嘩売るみたいなもんや。」
「へぇ。」
「そんな物騒な相手をとりあえずここで引き留めて欲しい、そう言ったら、どのくらい持たせられる?」
「・・・どのくらいがお望みで?」
「無理は承知で、最悪3日。」
「ハハ。3日間も戦い続けろってか?」
「最遅、要石が届くまではそのぐらいかかるんや。」
「フン、・・・・断る。」
「ハハハ、そりゃまぁ無理、やわなぁ。」
「まさか・・・・3日も家に帰らなかったら家族が心配する。学校だって欠席になるだろ?それは認容できないな。」
「へ?・・・・ハハ、いやいや、地震でこの辺り、もちろんあんたの家や学校も含めてな、地震でボロボロになる、いう話やねんけど?」
「あのなぁ、俺は人間なんだよ。そんな3日も戦い続けられないっての。まぁ、経験が無いわけでもないけどな。でもな、そんなことするぐらいだったら、さっさと
「いや、そやからな、相手は!」
「相手は!目の前にいる化け魚だろうが!」
「せやけど。」
「情報!」
「え?」
「だから、情報!やつの弱点とか、力を削るって言ってたんだったら、削り方の候補ぐらいあるんだろうが!」
「それはまぁ・・・」
ここに来て言いよどむタツに、正直イライラする。
早く片付けて家に帰る、今、俺の、私の、気持ちは完全にそこにシフトしていた。
それに、はじめに見たときはさすがにビビったけど、こうして愛剣を手に対峙していたら、最初ほどの恐れは消えていた。
確かに、強い。
だけど、もっと強いやつらを、俺は知っている。
「単なるエネルギーの塊だろ?なんで動くんだよ。それが分かれば対策もできるだうが!」
「あ、ああ。本来発生した力は霧散する。せやけど、何らかの核があれば、周りの細かい力を吸い寄せてでっかくなるんや。それは引力のように魔力を吸い寄せ、さらに大きくなる。はじめは周りの力が吸い寄せられるだけやけど、ある程度大きくなって周りに吸い寄せられる力がなくなると、なぜか力を感知し、それに向かって動き出す。」
「だったら、その核を破壊すれば単なるエネルギーの塊だろうが?散らすのは難しくないだろ?」
「核は、なんていうか、肉体よりは、魂寄りの存在なんや。せやから普通の物理攻撃は効かん。要石は術を施してなんとかその核に影響を及ぼせるようにしたもんや。核は貫いただけやったら破壊できん。液体の金属に棒を刺すみたいなもんや。術によって、触れたところだけ固められるけどな。核自体は1つって概念から外れられへんから一部が固まったら、それを捨てて動くってことはほぼない。そうやって、そこから動かんように封印するんや。」
なるほどね。
タツの話のとおりだとすると、ある程度大きくないと動き出さないってことか。
それと、その要石の術、というものに触れれば、固められる。ってことは剣で切れるってことだ。
「術ってのはどんなもんだ。」
「一種の浄化の術と聞いてる。死した屍が動き出すことがあるんやけど、それを葬る術の応用らしい。」
ん?
アンデッド、という類いの魔物がいた。
死した生物が魔素を貯めて魔物化したもの、と言われているが、定かではない。
それを倒す魔法がいくつかあった。
聖属性、なんて言われた魔法だ。治癒の魔法、と同じだ、なんて教会では教えていたし、治癒魔法を使うものが使える場合が多かったけど、実際は別物なんだ、と、聖女な姫様が言ってたことを思い出す。治癒魔法と葬送魔法を両方使える者だけが聖女を名乗れるの、そう言って自慢していたっけ。
そう。前世では葬送魔法って言った。その魔法に近い、とみた。
「だったら・・・」
俺は、魔法の中では得意な火魔法、その初級ともいえる現世風にいえばファイアーボールを剣を持たない左手の上に顕現させた。
サッカーボール大のファイアーボールをナマズめがけて投げつける。
ポシュッ
へぇ、当然効かない、か。表面上はな。
俺はにやり、と笑った。
「なぁ、シオンはん?火の玉か?全然効いてないんやけど・・・」
「本当にそう思うか?」
「あぁ。吸い込まれて消えてもたやん。」
「ハハ、あのレベルだったらな。魔力だって限界があるんだ、効くかどうか分からない魔法を初めっから全力で打ち込めるかよ。」
「え?だったら?」
「今のはお試しさ。前世の魔物で似たような処理方法のやつを思い出してね、それと同じように効くか試したみた。」
アンデッドは基本的には聖属性の葬送魔法がよく効く。俺は治癒魔法はちょっとぐらい使えたが、葬送魔法となると、からっきしだった。
だが、アンデッドに効くのは葬送魔法だけじゃない。
聖属性を纏わせた水。聖属性を纏わせた風、そして聖属性を纏わせた火。
この「聖属性を」っていうのが肝だ。多くの人が簡単な治癒魔法を使う。そして、ここでいう聖属性って言われるのがこの治癒魔法。治癒魔法が聖属性の1つとされる由縁でもある。
ただし、名前は聖属性だが、その性質は物体の安定化、だ。
形を留めようとする、そういう性質を与えるもので、戦いに使える程度の魔法には、大なり小なりこの力を使う。魔法に指向性を与えるのに必須な技能だ。
当然、俺だって戦うための魔法には、こいつを使っている。
で、その聖属性っていう魔法の量を多めにつぎ込むことで、アンデッドを倒すことが出来る、というのは、あっちの世界じゃ常識だ。まぁ、それが難しいからアンデッドっていうのはやっかいとされているんだけど。
でだ。結論から言うと、さっきの攻撃で、微々たるものとはいえ、削れた。
微々すぎて、すぐに削れたかどうか分からないぐらいに復活したけど、間違いなく当たった瞬間、その部分が消えたんだ。
「てことは、十分対処可能!」
魔法はイメージ。
剣に炎を纏わせる。
左手には先ほどのものよりも数段濃く魔力をつぎ込んだファイアーボール。質も大きさもさっきの比じゃない。直径1.5メートル、つまりは今の自分がすっぽり入る大きさの火の玉を顕現させる。
ペロリ。
ナマズが舌なめずりをしたように感じた。
単なる力の塊。
だが、捕食の本能のみで動いているのか?
俺の生み出したファイアーボールを凝視しているのが、その存在しない目から感じる。
ごちそうだ!!
そんな幻聴がふくれあがり、今まで止まっていたナマズが跳ね上がった。
まっしぐらに、俺の横に浮くファイアーボールめがけて飛びついてくる。
「そんなに欲しけりゃ、くれてやる!」
俺は、ファイアーボールを思いっきりナマズにたたきつけた。
!!
歓喜!
のあとの、驚愕?
ナマズとファイアーボールが強烈にぶつかり、空間が揺れるぐらいの衝撃を生み出す。
「うっ!!」
タツ?
そばにいたタツは、一瞬で後方に下がったけど、この衝撃で震えた結界を支えていたタツに、反動が来たようだ。この空間を支えているのがタツなんだ、と、改めて知って、キリッと唇を噛んだ。
これ以上の衝撃で結界を破壊したらタツが危ない?
俺は、頭の隅でそう考えつつ、状況が理解出来ていないであろうナマズへと斬りかかっていた。
この愛剣に纏わせたのは、さっきと同じ聖属性多めの炎。
炎のサイズこそ小さいが威力は変わらない。
小さい分、そこに剣の物理力もしっかり乗る。
俺は自分の持てる力で、剣を振り続ける。
剣が当たるその場所は蒸発するように黒い塊が消滅した。
ハァ、ハァ、ハァ・・・
さすがにデカいな。
焼け石に水、現世ではそんな言葉もあったっけ?
いやいや削れてる。
ちりも積もれば、なんて言葉もあるだろう。
実際、最初のファイアーボールで頭部分の三分の一は削り取った。
そして今の乱れ斬りで、さらに三分の一。
幸い、最初の衝撃で驚いたかのように固まったナマズを斬りつけるのは難しくはなかった。
時間にして数分。
数千の剣戟。
が、さすがにただじっと斬られてはいないか。
ここにきて、ズルリ、と不気味な胎動。
これは怒り?
俺にロックオンされた怒りの感情。
と、ともに、もともと不定形の黒い塊がプルプルと収縮する。
頭の方に集まり、随分と小さくなって再びナマズの形をとる。
が、さっきより、質量が濃い、のか?
多分削り取ったのは全体の半分から三分の二程度。
しかし、今、目の前には、もとの5分の1程度に小さくなった、が、より質量を感じさせる黒い塊が、殺気を俺に対して放っていた。
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