第20話 開発計画阻止計画(4)

 「人も殺せるだけの力を持っとる、ちゃうか?」

 タツの言葉に私は訝しげな目を向けた。

 「あ、ちゃうちゃう、殺せ、いうんちゃうねん。」

 「どういうこと?」

 「あんたの魔法、ちゅうんは最悪、人ぐらい殺せるやんな、ちゅう確認や。殺されたらかなんけど、殺せるんやったら、殺さんレベルのこともできるんやないかな?思て。」

 殺さないレベルのこと、か。


 戦いとなれば、殺すより殺さず無力化するほうが何倍も難しい。よほど格下でも、いや、格下であればあるほど、思わぬことで殺してしまう可能性があって、難しい。

 Sランク冒険者って言うのは、依頼によって生け捕りをも可能にするレベル、という信頼があの世界でもあった。それを考えると、このタツの質問はある意味正しい、のかな?


 「殺すだけなら簡単よ。この世界のモラルを別にしたら、だけど。」

 「そやんなぁ、じゃあ、殺さずにビビらすんは?」

 「死ぬ手前まで殺しにかかる、ってこと?可能不可能でいえば可能。」

 「そりゃええわ。うん期待通り。」

 「・・・どういうこと?」


 「あんな、人間、だけやのうて、生きとし生けるものっちゅうんは、何でできてると思う?」

 質問の意図がわからないんだけど・・・

 「ハハ、さっぱりっちゅう顔やなぁ。あんな、いきもんっちゅうんはな、大きく分けて肉体と魂でできてんねん。シオンなら、魂っちゅうんがあんのは分かってるやろ?なんせ、ここに生まれ変わってるんやさかい。」

 私は、頷いた。

 「ほんでな、実は肉体と魂ってのは、けっこう反発するもんでな、その両方をちょっとずつ溶かしてできるもんがあるんや。わてらはそれを霊体っていうとる。」

 「霊体?」

 「そや。そやから、いきもんちゅうんは、肉体と魂と霊体、この3つが一体となってできてる、ちゅうわけや。まぁ、細かく分かる必要はない。でな、この3つの要素、その配分でいろいろ存在が変わるんや。たとえば人間やとな、生きてるときはおもに肉体がメインや。ほんでな、人間が死んで肉体から霊体が離れる。これが幽霊とか霊魂言われるやっちゃ。基本的には霊体っちゅうんは肉体、っつうか正確には物体やな、実体あるものにくっつきたいっちゅう性質がある。ほんで、人間やった霊体はまだ霊体の入ってない肉体、すなわち胎児とくっつく。これが普通の生まれ変わりやな。」

 タツはうむうむと頷いてるけど、正直理解出来てるかっていうと微妙。


 「まぁそこはええ。ニュアンス的には肉体の世界、霊体の世界、魂の世界が重なって世界がある、思ったって。で、ものによってこの3つの世界のどこに重きをおいて生活してるか違うねん。まぁ、人間がバリバリ肉体の世界メインは分かるやろ?あやかしって言われてるもんは肉体の世界と霊体の世界に片足ずつ突っ込んでる存在や。神になると、霊体の世界か魂の世界か、そのへんに暮らしてるんやなぁ。朝、儂が作り出した世界は、霊体の世界にちょっとだけ魂の世界をひっかけたとこ、て感じや。物質の目線だけでいうのは難しいけど、これらの世界は重なってる、ちゅうか、見ようによっては同一であり、見ようによっては別々の世界、なんや。儂の本体っていうか、本当の居場所ってのは朝に連れて行った世界に近いんやけど、言うたら儂は、ここの世界に顕現できる強い神ってことやな。でな、強すぎて本来の力を使ったら、人間なんて吹き飛んでまう。儂が自分で祟りを起こすとなったら、大雨に大風や。天変地異ってやつになってまう。言うたら、生き残せるだの力は使われへん。そやから、の、シオンやねん。わかるか?」


 「なんだか、いろいろ言ってるけど、結局、タツは力加減が下手だから、私に頼みたい、ってこと?」

 「・・・まぁ、簡潔すぎるけど、極論は、そうや。」

 「祟りだなんだ、って言ってるけど、ようは怖がるだけの実力行使をしろ、と?」

 「うーん、できれば暴力はやめたって欲しいねん。シオンの魔法ってやつでなんとかならんか、思ってんねん。」

 「魔法?祟りの魔法なんてないよ?恐怖心を与えるような精神的攻撃は、私は使えないし。」

 一応、精神的に弱らせる、みたいなのはあったけど、シオンは習得していない。せいぜいが相対したときに殺気で攻撃を封じる程度。強者には通じないけど、殺し合いの経験の無い者相手なら、これで十分だった。


 「あ、それはええねん。てか、やったあとや。あやかしとかな、そういうのは怖がらせるんは専売特許みたいなもんやかい、うらめしや~的なんはもうやってん。それこそ、人魂見せたり、な。」

 「だめだったの?」

 「物理的なダメージは、よう与えんからなぁ。ほら火は火でも人魂とか狐火なんかは熱うないやろ?」

 ないやろ?と言われても知らないんだけど・・・

 「たとえばな熱い火で囲むとかな、できひんか?」

 「それぐらいならできるけど・・・」

 「ほなら、物を動かしたり飛ばしたりは?」

 「・・・できないことはないけど・・・」

 「うん、それでええ。怪我せんレベルで、あいつの周りに物を飛ばして、ちょっとぐらいは壊したり、とか、体の周りを熱い本物の火で囲む、とか、ほんまに怖い、って経験させて欲しいねん。でな、最後にこれを、な。」

 ニヤッと、悪い笑顔で差し出された物を見て、思わず性格悪!と思ったよ。

 でも、そうね、これならきっと、原因があそこだ、ということだけは気付くね。

 まさか、ポルターガイストみたいな騒動のあとに、こんなものが、って、考えるんじゃないかな?


 こんなことしてるのバレたら最悪退学だよ、と、思いつつ、タツからその品を受け取っちゃったよ、もう引けない・・・

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