第18話 開発計画阻止計画(2)
宿に戻って夕食の時間。
昨日は、村人やらなんやら集まってちょっとした宴会の様相だったが、今日はその宴会場にグループごと、テーブルを置いての、いかにも旅館の料理、といった食事だった。
刺身、天ぷら、一人鍋。そしてサイコロステーキにミカン。
高校生の私たちは当然お酒はない。
前世では、それなりに飲んでいたけど、まだ我慢。
密かに楽しみにしているのは、キンキンに冷やしたビールや氷を入れたリキュール、そして温めた酒。
果実水=ジュースも酒も、基本的には常温だったからなぁ。
前世を思い出した時に、冷たいオレンジジュースを飲んで、あっちの世界には帰れないな、と、思ったものだ。それが、酒となると、いかほど・・・・
おっと、ダメダメ。私はまだまだ15の子供。
ってこれも違和感かな?あっちの世界では大人だ子供だ、といったことはほとんどなかった。一応成人は16。だからといって子供が保護される存在、なんて甘いことはなかったから。
そう考えると、やっぱり素敵な世界に生まれ変わったんだなぁ、と思う。だいたいこの年まで生きて、人の死体を生で見た、なんて経験はまだないんだから。
この広い和室には、私たち以外にもうひとかたまりのグループがある。
一応、離れてセッティングはされているけど、とくにパーテーションがあるわけでもなく、お酒で声が大きくなっているから、あっちの声もちゃんと届いている。
逆に高校生の集団がワイワイやっているから、こっちの声も当然聞こえているだろう。いや、聞かせている、の間違いかな?
もう1つの集団が、例の測量チームだ、とタツの情報提供があったから、みんなやる気満々で、今日の体験談(もちろんフェイク)を大声で話していた。
「だからぜっーたいなんかいるって!」
ミコが、わざとらしく声を上げる。
「そうそう、カタッて人形も動いたし!」
ナコもさらに大きな声でさわぐ。
「あの神社も、生まれ変わるっていう洞窟もぜったいやばいって!!」
「ねぇー。」
双子がどんどんテンションを上げて話している。
そして、その声が耳に入ったのか、もう1つの集団から話し声が消えた。
聞き耳を立てている様子が、感じられて、タツがくすっと笑った。
「そ、そんなの、備えられたあの人形に触ったからだろー。」
微妙に棒読みのタチバナ。
あちらの集団の誰かがこっちに顔を向ける。逆に棒読みが怖がっているように感じたようだ。
「シッシッシッ、あれは地蔵。あんなのをいたずらで触ったら祟られて当然。」
いつもの調子で中川さん。普通の話をするのでもプチホラーなのに、これは怖い。
「はいはい、分かったから。おしゃべりだけじゃなくて食事にも口を動かしなさい。確かに悲鳴とか聞こえたけど、ちゃんとお祈りして元に戻したら聞こえなくなったじゃない。あのね、幽霊とかお化けとかってそのことについて話したら寄って来ちゃうってきいたことあるわよ。だからもうこのお話しはおしまい。いいわね。」
「そんなこと言って、香音さん、怖いんでしょう。」
「こわ、怖くなんかないわよ。幽霊なんていません。お化けもいません。いいわね!」
「でも、声が・・・それに動いたし・・・」
姉さんとピーチの掛け合いは、気になるだろうなぁ。
この二人、絡め手がもともとうまい。こんなときに発揮すると、妙な信憑性をもたらすのだなぁ、と、ぼんやりとやりとりを見ていた。
「あのう、君たち、ちょっといいかなぁ?」
そのとき、あっちの集団から唯一の女性が声をかけてきた。
一番若そうなお兄さんを伴ってやってきたが、二人を他の人達も心配そうに見守っているようだ。
「なんですか。」
姉さんが、代表して尋ねる。
「あのね、ちょっと声が聞こえたんだけどぉ。」
「あ、うるさかったですか?すみません。」
「あ、違う違う。ちょっと気になることがあってね。あなたたちの話って高津彦分社のことよね、山の上の。」
「えっと、神社の名前とかは、分かんないです。小さなお社と、裏に洞窟があるところなんですけど。」
「間違いないわ。番頭さんが今日は高校生のグループが見学に行ってるって言ってたし。」
「はぁ。」
「その、声が聞こえた、とか、人形が動いた、とか、ね。」
「なんやあんさん、そんなん信じてるんかいな。」
タツがニタッと笑いながら言った。
「え、いいえ、その、ね。ここいらにはいろんな伝説があるのよ。龍神様が現れて雨を降らせる、とか、村から女の子を連れ去ろうとした人が大きな蜘蛛に殺された、とか、ね。」
「伝説ですよね?」
「そうなんだけどね。でもこの辺って怪奇現象が多いってことでも知られてるしね。今朝もね、この近くに来たら、急に電話が使えなくなったのよ。今は使えるのにね。」
あぁ、それってひょっとして、タツとの力試し?
私は、チラッとタツを見る。
(あんなぁ、異界を開いたら、なんか電気とか電磁とか、ようわからんもんが乱れるらしいわ)
私の耳元にそうささやくタツ。なるほどね。
「それで、どうなの?声を聞いたの?人形は?」
「あー、悲鳴っぽいのも聞いたし、人形は動きました。でも、それって科学的にあり得ますよね?」
「科学的?」
「洞窟だったら風だってあるし、変な風にすきま風が吹いたら悲鳴っぽく聞こえるかもしれないし、人形だって、たくさん積んでたから、たまたま風や人が通った振動で動くこともあるでしょう?」
「ハハハ、そんなこと言って、香音さん自分を納得させたいだけじゃないんですか?」
「ピーチ君!私は常識を言ってるだけです!」
「シッシッシッ。科学的に証明できても、それが霊現象じゃないとの証明にはならない。シッシッシ。」
「そういうこっちゃ。声っぽいのを聞いた。人形は動いた。事実はそれだけ。原因が風や振動なんか、幽霊が祟っとんかは、それこそ神のみぞ知るっちゅうこっちゃな。」
「ハ、ハハ。そうね、そうよね。」
そう言うと、二人はありがと、と言いながら、すごすごと戻っていった。
そのあとは、彼らは部屋へと戻っていったけど、こんなことで噂話とか聞かせて怯えさせる、とかなるのかな?
思ったより食いついてきて驚いたけど、そんなことで計画が阻止される、なんてことはありえない、と思う。
「そうやなぁ、それだけやったらないわなぁ。せやけどな、あの連中も地元民やろ?それに開発とかに携わってるとな、ほんまに祟りとか出くわすんよ。家の解体とかでもそこそこ霊現象が起こる。せやからな、案外ああいう仕事のやっちゃ、信心深いんや。ゲンを担ぐっちゅうのもあんねんけどな。」
「それに、科学的うんぬんって香音さんの話で、そっちの逃げ道も穴が開けられましたしね。」
ピーチが言う。
科学的に説明できるから安心、という理屈を科学的にも証明できるだけ、と敢えて書き込むというのが姉さんの作戦、なのだという。
ひょっとしたら理屈が通らない現象かもしれない、と、目の前のやりとりを見て思うはず、なんだそうだ。あえて姉が科学的説明を言い、ピーチが別の可能性をちらつかせる、あくまでちらつかせて自分で考えてるように思わせるのが、プロの仕事よ、なんて、作戦会議で言ってたけど、一体なんのプロなんだろう。
ちなみに私は、こういうのに向いてないから、大人しくご飯を食べててね、と言われて、戦力外通告。いつものことだから、気にしないけど、こんな作戦が本当にうまくいくかは微妙だ、と思う。
「まぁ、これは補助や補助。こんな話もあったなぁ、でええんや。本番はあんさんにきばってもらうさかい、な。」
私の懸念に、そんな風にタツは耳打ちした。
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