第5話 待ち伏せ
強烈な視線を感じたと思ったら、自分の意志とは関係なく、シオンのステイタス盤へと、表示が変わった。
え?
戸惑う私の意識を持ちつつも、広がる感覚の中で、その視線に吸い寄せられる。
彼、か、彼女か知らないが、十分強い魔力を持つ視線だ。
魔力?
この世界に転生して初めて感じた、他者の魔力か?
自分が転生している以上、他にも同じように転生していてもおかしくはないけれど・・・
こっちの戸惑いが分かったのか?
視線が、警戒から観察、に変わった。
『誰だ?』
俺は、思考にのせて、そう言った。
・・・・・
こちらの声は届いているはず、そんな直感があるも、相手は答えない。
もうちょっと、相手に近づくか?俺はそんな風に思いつつ、でも、と、私は戸惑う。平和に平穏に過ごすには、大切なことがある。
好奇心、ネコをも殺す。
俺は、一瞬強烈な魔力を広げ、残滓を自分とはまったく見当外れな場所へと留めると、急いで詩音へとステータス盤を戻した。
これで、ごまかされてくれればいいけれど、そんな風に思いつつ、意識を教室に戻した。
その日は特に何もなく入学式を完了した。
特筆するほどではないけれど、中学の時から相も変わらず学級委員はピーチだし、ナコとミコの双子は、騒がしいし、知らない顔は、1/3程度。
特に受験もせずに上がってきた私たち内部組はのほほんと騒いでいて、緊張気味の外部組とは明らかに違う。
あ、ちなみに受験はある。
でも、受験番号はクラスと出席番号だし、受験の部屋はいつものクラス。席は出席番号順だけど、いったら普段の実力テストと同じ感じ。
日程は外部と同時だけど、気軽さは多分違うんだうなぁ、と思う。
中学の受験の時もそうだったけど、内部生は欠点レベルじゃなきゃ落ちないし、本来は落ちる点でも校長室に親共々呼び出しで、追試を受ければ大概通る。
でも、だから内部生はおバカか、っていえば実はそうでもないんだって。
一応、全国でも有名な大学の付属校。ランク的にはかなり高い。
で、内部もそれなりに高い水準の教育を施している(パンフレットに寄れば)ので、入試合格者の外部生と内部生の平均では内部生の方が高い、らしい。
まぁ、そんなことを話ながら、私はナコとミコと3人で帰宅する。
私は、さっきの、怪しげな攻防のことは、すっかり忘れて、は、さすがにないけど、頭の片隅に追いやって、全然変わらない、新しい生活に突入した。
そう、突入した、はずだろう?
翌朝。
朝礼が間もなく始まるギリギリにいつものように学校にたどり着いて・・・
教室に入ろうとしたんだ。
ぼんやりしている、と双子に言われたところで、俺だって自分の教室ぐらい一人でたどり着く。
そもそも、この学校、中学校と高校は同じ校舎で階が違うだけ。迷いようがない。
で、俺。
いや、私。
今、途方に暮れて、自分の教室前で、知らない少年と相対していた。
「見つけた。」
その少年は、ずっとこの教室に張り付いていたらしい。
仁王立ち。
腕を組んで睥睨し、ずっとこのクラスに入る人物を観察していた、というのは、後ろからささやかれる声。
誰かを待ち伏せしていたみたいだけど、まさか、ホワホワの詩音とは。
まさかの告白?
等々、外野が騒がしい。
そして、一応私をかばうつもりなのか、ピーチが、へっぴり腰でおどおどしながら私の前に立っている。
ピーチ。本名中田桃太郎。
小柄で気が弱く、でも頭はそこそこいい。真面目で、みんなが嫌がる雑用係=
学級委員を小学校の頃から押しつけられている。
そんな恐がりで泣き虫の彼が、学級委員の使命感からか、俺の前に立ち、その少年に「か、彼女に、な・・何か、ご用ですか!」なんて言ってる。
ピーチじゃなくても、怖いだろうな、と、思う。
ぴかぴかの制服を見ると、俺たちと同じ新入生か。
それにしては、170センチ後半はあるだろう、しかも、武道の一つもかじってそうな筋肉質。髪は真っ黒でツンツンしてる。三白眼、というのだろうか。黒目が小さくつり目がち。
一方、ピーチは私とそんなに身長は変わらない。私たちの友情はこの小さい身長で育まれているといっていい。というのは言い過ぎか。
二人とも140台前半。いや、まだまだ伸びるけどな。
「あんさんには用はないわ。わかっとるやろ?まぁ付き合えや。」
なんで関西弁?
彼は、ピーチの頭越しに、私の腕を掴もうとして、ガシッと、背後から腕を捕まれた。
ナコとミコだ。
私より遅かったのは、きっとミコが寝坊したんだろう。そうでなければ、同じ電車に乗り込んでいたはずだから。
で、二人はどうやらこの様子を廊下の向こうから見て、慌ててやってきてくれたらしい。
「ちょっとあんた何よ。」
「うちの子にちょっかい出さないでくれる?」
強面の彼になんとも頼もしい。
けど、大丈夫か?こいつ、相当強いぞ。シオンに切り替えてなくてもビンビンとやばそうな雰囲気が分かる。というか分からせるために、殺気、まではいかないけど、威圧を俺に向けている、よな?
ひょっとして、いや、ひょっとしなくても、昨日の気配はこいつか?
「離してぇな、ねえちゃんら。儂は女の子に手を出す趣味はないねん。」
腕を掴んでる双子に困ったような顔をする、そいつ。
なんか、えらく雰囲気が変わるなぁ。
「そんなこと言って詩音に手を出そうとしてたでしょ?」
「詩音?へぇ、おまえ詩音って言うんかいな?じゃあ、詩音。分かってると思うけど、昨日のん儂や。ちょっと話あるさかい、付き合いいな。」
「・・・はぁ。で、あなたはだあれ?」
一応15年もとろい女の子として生きていれば、それっぽい口調はできるもんで・・・
俺の言葉に一瞬目を丸くしたのを見て、ちょっとやってやったぜ、と、思ったのはつかの間。
「へぇ。エライかわいいしゃべりやなぁ。まぁ、ええわ。儂は龍雄。日向龍雄や。D組におる。あんたは?」
「A組古澤詩音。ごめんなさい。おつきあいはできません。」
「ブッ、キャハハハハ。あんた、おもろいなぁ。まぁ、いいわ。なんか朝礼始まりそうやし、後で来るわ。恋愛とかのことやのうて、例の昨日の話や。なんの話か、このそっくりなねぇちゃんらに話した方がええんか?いややったら、まぁ、つきあえや。」
チッ。
俺は小さく舌打ちした。
ギャアギャアと双子が奴に文句を言っている。
が、俺のシオンとしての片鱗について、こっちの世界の人間にバレるのはお断りだ。
せっかく女神に与えられたご褒美の世界。つまんないことでかき乱されたくは、ない。
俺は、この男の真意を確かめるべく、付き合わなきゃならないのかなぁ、と頭の片隅で思う。
ふと、こいつを黙られるための、口封じの方法を頭で検討している自分に気付き、自分自身に呆れてしまったのは、詩音、だった。
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