第39話
秋の終わりに義母は冬の着物を2着譲ってくれた。雪柄と水仙柄。それから帯1つと羽織まで。
「足の大きさが違いますから冬用のたびや出掛ける時用のたびはロイに買ってもらうんですよ。足を冷やすと子が出来ん言いますからね。何で私が言わんといけないのですかね。本当に男はダメやわ」と言いながら。
少し分かってきた。義母は私に甘いけど嫁姑問題はありそう。姑はなぜか嫁を嫌うもの。
エイラからの手紙に「きっと誰が嫁でも気に入らんのですよ。息子を産めて育てられたら分かるかもしれませんね」と書いてあった。
今度母に会えたら、兄が嫁をとったらどう思うのか聞いてみるつもり。
それでロイに冬の着物と羽織の件を断ったけど「それならまた小物を買いますか」とうらら屋へ行くことになった。
たびが欲しいことを伝えてたび選び。
寝坊した時の義母の小言は怖かった。喉がヒュッとなる。たびは絶対に買ってもらわないといけない。
温かいというたび3足——毎日洗うから2つでいいのに3足になった——それから普段使っているたびの上にはける刺繍のされたたび1つ。
1年間使えるように縁起が良いという貝殻柄にした。
「リルさん。これからどんどん寒くなるので綿帽子か大きめで温かい手拭いが必要です。選んでおいて下さい。母上に何か買おうと思ってきたので、決まるまで他に欲しい物がないかゆっくり見ていて下さい」
「はい」
前回1年分買ったつもりだったけど、足りなかったみたい。
店員ミミが声を掛けてくれたので素直に相談。
一昨年からは寒さを我慢して冬用の手拭いを首回りだけに巻く女性が増えたというので、私もそうすることにした。
普通の巻き方と一昨年からの流行りの巻き方を両方教えてもらった。
「また気になるものがあればお声掛け下さいルーベル様」
「はい。ありがとうございます」
ルーベル
近所の長屋に住む竹細工職人のレオの娘から一気に短くなった。様だって。
客商売では当たり前のことだけど言われる側とは不思議というか痒い。ムズムズする。
可愛くて美しい小物は見ていて楽しい。店内をぷらぷらしていたら男性物もあると気がついた。
そして青鬼灯が2つついた根付けを発見。
ロイに鬼が寄らなくなり、幸せが訪れる。もしかしたら励んでいる試験も受かるかもしれない。さらにお揃いだ。
値段を確認。2銀貨。高いけど今まで色々買ってくれて、お出掛けに連れて行ってくれて、美味しい料理を食べさせてくれて、毎日毎日毎日優しいロイへ贈るには安い。でも高い。
私は財布の中のお小遣いを確認した。今週分ですと言われた2大銅貨。
今週分?
来週も2大銅貨?
急に大金持ちだ。それなら2銀貨は6大銅貨。つまり2銀貨……3週間分のお小遣いで買える!
えっ。お小遣いは月に2銀貨以上なの?
私は店員ミミに声を掛けた。
「すみません。こちらが欲しいです。ただ買うのを少し待っていただくことは出来ますか? 後日必ず来ます」
「こちらは数もありますし、1ヶ月くらいでしたらお取り置きしておきます」
1ヶ月なら間に合う。多分。
お小遣いの額の推測が外れたら松茸を探して銀杏も拾って売って、父の仕事を手伝って稼ぐ。松茸は見つからないかも。
秋冬は松茸やキノコや銀杏もだけど、竹細工も新年のお祝いに向けて稼ぎ時。燃えてきた。
どのくらいなら家を空けて良いか義母に相談しないと。
鮭といくらが大好きな義父は「人生最大の鮭を釣ろうリルさん!」と川釣りに燃えているので栗とキノコといくらも自分の分は売る。
必ず買える気がしてきた!
「お取り置きありがとうございます」
「それではこちらの品物をお取り置きしておきます。クルス職人作の厄払い青鬼灯根付けでございます。商品名とお客様のお名前で分かるようにしておきます」
「はい。ありがとうございます」
忘れないように心の中で復唱。クルス職人作の厄払い青鬼灯根付け。クルス職人作の厄払い青鬼灯根付け。
ぐるっと一周店の中を見て、結構品物が変わったなと思いながらロイの隣へ移動。
ロイは
「旦那様、必要な物は選びました」
「必要な物以外に欲しい物はありました?」
「いえ」
嘘は心苦しいけどまだ買えてないから内緒。
「自分も特になかったので次回にします」
「店員さんが品物をまとめますと持っていってくれました」
「そうですか」
うらら屋の帰りに茶菓子屋へ行って、義父母に手土産の饅頭を購入。
父上と母上に何か買っていきます、と言ったのに3つなので私の分も入ってる。
今日も家の近くまで手を繋げる幸せ。
噛みしめていたら、あっという間に家に到着。本当に楽しい時間は早過ぎる。
義母に衣装部屋で買った物を見せて、嫁として恥ずかしくないかを確認。
「今日は随分と少ないですね」
「前回1年分と思って買ったので、足りない物だけです」
「そうですか」
「お義母さんに相談があります」
私は青鬼灯の根付けを発見したこと、お小遣いで買いたいこと、取り置きしてもらったこと、予想されるお小遣いで買えると思ったことを話した。
それから予想が外れていてお金が足りなかったら自分の分の松茸と銀杏と栗を売って、父を手伝って竹細工も売って買いたいこと、家事はしっかりすることと、休みの日にも寝坊しないように気をつけることを全部伝えた。
「珍しく長々と喋りましたね。話は分かりました」
「はい」
「ええですかリルさん。私やあなたは夫に感謝される側です。基本的に物は贈らんでええです。贈られたかったらそう言って夫がお金を出して共に選びます。あなたからお父さんや私への物もそう。ロイがお金を出して2人で選びます。嫁は家を守るために機嫌を取ってもらう側。代わりに家を守れん、内助の功が出来ていなければ追い出されます」
そうなんだ。それはまだ教わってなかった。
「お父さんに同じ話をしなさい。それで私に相談したら今の話をされたことと、今回は特別に贈ってええと言われたことを伝えなさい。それでお父さんは許して下さいますか? と聞きなさい」
「はい」
「今後もロイに言われていないのに贈りたい物を見つけたらお父さんと私に声を掛けなさい。お小遣いは自分に使う物で贈り物は別です。仲良くなったお嫁さんに使うとか、実家の妹達に少しお菓子くらいならええですけど。お嫁さんに甘味処へ誘われたりお付き合いが増えますから、しっかりやり繰りしなさい」
「はい」
「お父さんがええと言ったら、その根付けを持って学問の副神様のおられる神社へ行って願掛けしましょう。では夕食や他のことの続きをお願いします。風呂はいつもの週末のようにロイが準備するでしょう」
「はい。ありがとうございます」
そうか。勝手に贈り物は良くないのか。また卿家のことについて勉強した。相談して良かった。
勝手にしていたら義父母にもロイにも怒られただろう。まあロイは怒らなそう。次回からはこうして下さいと優しく教えてくれるに違いない。
1階へ戻り、お風呂の水汲みが終わっていて、薪の準備もロイがしてくれていたのでお礼を言い、家中の雨戸を閉めた。
それでロイがいないうちに義父に相談。義父は帰宅後に見た姿と同じで将棋盤と睨めっこ中。
「そりゃあロイはさらに勉強に励むだろう。ええ。買ってこい買ってこい。また何かロイに贈ろうと思ったらお母さんの言った通りにしなさい」
そう言うと義父は懐から財布を出して私に3銀貨くれた。1銀貨多い。
「料理本を増やしなさい。ふわふわたまご、あれは良かった。ロイに渡してケチャップを買ってもらってくるのもええ。西風料理も薄味気味だと好みかもしれん。この間のオムライスはとても良かった。リルさん、毎日美味い飯をありがとう」
「はい。ありがとうございます」
ぽんぽん、と義父に頭を撫でられてびっくりした。嬉しいけど父への気持ちと同じ。
ロイだと胸がきゅうううっとなる。
☆★
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