第4話 美人貴族公爵
「ではそちらにおかけになって」
そう促すはマクルーハン卿、当主のクリスティン。
青の瞳に金髪の短髪、上はブラウスに下は長ズボンと貴族の女性らしからぬ格好。
どちらかといえば騎士にも見えるような格好をしているが、凛としている印象もあって、それが彼女が本来持つ美しさに拍車をかけている気がする。
おそらく二十歳前後だろうか。
その若さで当主という事はたぶん両親に不幸があったんだと思う。
俺は直感として彼女に好感を持った。
「俺はランス、こちらはミミと言います。聞いているとは思いますが、冒険者ギルドから紹介されてきました」
「私はクリスティン、であちらにいるのが執事のハーバートです」
「ハーバートと申します。よろしくお願いいたします」
俺たちは軽く会釈する。
マクルーハン卿は公爵だ。
俺たちが住むエディンバラ王国は国王を頂点に、階級は王族、大公、公爵、侯爵と続いていく。
大公はこの国では三公とも呼ばれており、王都に拠点を持つ三大貴族だ。
次に公爵。公爵は地方の支配貴族である。
という事で彼女クリスティンは、すでにこの地方都市カラカスの支配階級であるのだ。
こんなにも若く美しい女性が。
俺の表情から何かを読み取ったのか、ミミはクリスティンに対していきなりガンを飛ばしている。
怖いものしらずか。こら、止めなさい。
「さて早速だが、ランス、依頼内容を説明する前に君たちについて知りたい。ランスがBランクでミミが登録をしたてというのは知っているが、それぞれの適正について教えてもらえるだろうか?」
なるほど。ってミミって適正なんなんだろ。俺も知らないや。
「ミミって適正は?」
「ミミは格闘士!」
「……で俺は適正なしです」
「「適なし!?」」
クリスティンとハーバードはハモっていう。
いやいや、そんなに驚かなくても……。
「いや、失敬。にしてもランス、君は適なしか……だとしたら今回アンデットの討伐を、神聖教徒教会の人と一緒にお願いしようと思っていたのだが荷が重いかな?」
神聖教徒教会は、世界中に信徒を多く持つ女神アテネを信仰する宗教団体だ。
神聖教徒教会の頂点に立つ教皇などは、われわれが暮らす小国エデンバラ王国の国王などよりも、大きな権力を持っているといっていい。
つまり、有力な貴族であってもある程度、気を使う相手であった。
適なしで実力も全くないものを派遣などしたら、自分たちの信用問題にかかわるのだろう。
クリスティンの疑問は最もではあるよ。
だが、俺は適なしは適なしでも、ただの適なしではない。
「最もな疑問ですが、俺には
「瞬神?」
「目にも止まらぬ速さで動けるというスキルです」
「早く動けるかぁ……まあ無いよりは良いかもしれないが…」
所詮、適なしの大した事のない、スキルだと思っているのだろうな……そうだな。
「じゃあ…クリスティン、何か近くの屋台で食べたいものはありますか?」
「え? 近くの屋台? そうだなエルダーボールかな」
「じゃあ10秒以内にエルダーボール、買って持ってきますね」
「いや、そんな事できるわけ……」
とクリスティンが半笑いで否定している途中で、俺は瞬神を発動して彼女たちの目の前から突然消え失せる。
(
「あ、あれ? ランス? さっきまでそこに……ランスはどこ行ったの?」
クリスティンはランスが突然消えた事に少し慌てた様子を見せていた。
クリスティンの邸宅の近くには、軽食を売っている屋台がいくつか並んでいる。
エルダーボールはその軽食の中でも、球状のパンを砂糖でまぶした食べ物だった。
「すいません、エルダーボールを10個ください」
屋台の店主は、一瞬で目の前に現れて注文をする俺に目をパチクリさせて一瞬固まる……が、自分の気のせいかと、すぐに自分を取り戻して商品を用意する。
「はい、エルダーボールを10個、銅貨20枚ね」
「じゃあ、銅貨20枚」
「まい……ど……あれ?」
店主がそう言おうとした時は、俺はすでに戻ってその目の前から消えていた。
「突然、ランスはどこに消えたんだ?」
「ミミ、分からない」
とクリスティンとミミが言っている最中、俺は一瞬で彼女らの前に現れ、
「ただいまー、はい、エルダーボール」
ドン! と応接室のテーブルの上に買ってきたエルダーボールを置いた。
クリスティンとハーバードだけでなく、ミミまで大口を開けて驚いた顔をしている。
なんだ? こんなの大した事はないだろ。
適有りのユニークスキルの方がよっぽどすごいのでは?
「ば、ばば、馬鹿な、そんなに早く買ってこれる訳ないでしょ! あっ分かった! これはあれでしょ! ここにくる前にエルダーボールを買ってて、部屋の前に置いてたトリックでしょ!」
全然見当違いの事をクリスティンは言い出す。
「それは違う。ミミとランスは、そんなの買って持ってきてない」
ミミは否定するが、クリスティンはそれを聞いても自分の考えを変える様子はない。
そうだな、じゃあ次なる一手は。
(
パチン
俺は、目の前のクリスティンのブラの後ろのホックを、目にも止まらぬ速さで外してやった。
クリスティンは、ブラのホックを外された事に気づいていないようだ。
なるほど、綺麗なピンクだな……。
「クリスティン……」と俺は胸を指差し、ブラのホックを外した事を伝える。
「…………………」
パチーーーーーン!
俺はクリスティンのビンタをくらった。
あっ、それは瞬神使えても避けられないんだ、とミミは思う。
「全くもう! 二度としないでくださいね! ハーバード、あなたもいまの動き見えなかった?」
「はい、見えませんでした」
顔を赤くしたクリスティンの問いかけに対して執事のハーバードは少し、ふさぎ込み顔を隠しながらいった。
おい、じいさん。今、ちょっと顔がニヤついてるだろ。
「そう、じゃあ本物ね。あなたには言ってなかったけど、ハーバードは元A級冒険者で雷神流剣術の師範代でもあるのよ」
得意気にクリスティンは言う。
貴族は自身のパトロン、身内にどれだけ優れている人材をすなえているかによっても格が変わる。
確かに元冒険者ランクがAランクで、さらに剣術の師範代の腕前を持つ執事はなかなかいないだろう。
ハーバードは今、俺の動きが見えなかったと言ったがお世辞だろうか?
多少強力ではあるが、適なしのスキルなんだけど。
「じゃあ、アンデットの討伐、あなたたちにお願いするわ。神聖教徒教会と連携して対応して。」
「了解です。じゃあ、この依頼受領しますね」
「まあ、そんなスキルがなくても、最初からあなたをみたときにはお願いするつもりだったけど……」
クリスティンは、最後に小声でボソボソっと言う。
「え?」
俺はよく聞こえなくて聞きかえすが――
「ああーもう! 依頼するから、早く行きなさい!」
クリスティンは顔を赤くしてそっぽを向いた。
なんなんだ? 隣ではまたミミがクリスティンにガンを飛ばしている。止めなさい。
まあ報酬はかなりいいし、貴族にコネクションができるのもありがたい。
新たなパーティーとしてかなり順調だ。
俺たちは意気揚々と神聖教徒教会へと向かった。
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