心の読める月夜見ちゃんは、ツンデレ二人で遊びたい

一般決闘者

プロローグのような何か

とある日の一幕―――炎天下時々ゲロ―――

 激辛ラーメンって、ありますよね。


 所謂、パーティーグッズの一つで、火を吐くほど辛いと噂です。


 一口食べれば、それはもう地獄の苦しみ。


 よっぽど辛い物に耐性がなければ、好き好んで食べたいと思いません。

 辛いものが苦手なのに、なお食べつづけようとしている人がいたら、それはただの狂人です。


「ほひほひ、ひほりかははんほ、ほうへんはいははいほは?(おいおい翠川さんよ、もう限界じゃないのか?)」

「あふひんほほ、ほうはひはへはは? ははひほはひほひほへははひ(安居院君こそ、もう諦めたら? 私の勝ちを認めなさい)」


 まあ、そんな狂人が、ここに二人もいるわけですが。


 放課後の、無駄に広い部室。

 私の目の前に座るのは、2年の先輩。


 ご自慢の金髪を整髪剤で整えたイケメンと、とても真面目そうで、(胸まで)すれんだぁな黒髪美少女が、額に脂汗を浮かばせながら、激辛ラーメンをちびちびと啜っていました。


 今日も今日とて、我らがボードゲーム部は、ざわざわと効果音を響かせながら、Eカードで遊んでいました。

 しかし、突如として始まったのは激辛ラーメン耐久レース。


 どうしてこうなった!


 あ、いや、言ってみたかっただけです。

 正直にゲロります。

 私が敗者復活兼、罰ゲームとして用意しました。

 

 この手の心理戦ゲームには、滅法強い私です。

 負けなしです。

 いつも、勝つことを前提にして、あらかじめ、いくつかパーティーグッズを用意しているのです。


 悪気はなかったんです。

 楽しみたかっただけで!


 ―――とまあ、言い訳はこのくらいでいいでしょう。

 もしかしたら、どこかの誰かに心の声でも読まれているかもしれませんからね。

 これは必要な儀式です。


「お二人とも、大丈夫ですか? どちらか一方が食べ切らないと終わりませんけど……」

「「ははっへふ!(わかってる!)」


 息ぴったりに応える先輩方。

 もはや喋るのも苦しそうで、涙と鼻水を垂れ流しながら顔を真っ赤にしています。

 それでも、箸を止めるようなことはしません。

 二人は健気です。

 私は愉しいです。


 いえいえ、もちろん、罪悪感がないわけではありません。

 お二人とも私の先輩ですから、こんな失礼なことを考えてはいけないとは思います。


 ですが、ねぇ?


(俺が先に食い終わって、翠川をこの地獄から解放する! つーかこいつには負けたくねぇ!)

(先に食べ終えて、私が貴方を救ってみせる! そして安居院君にも勝つ!!)


 表面上は喧嘩している二人の心の声を、私はグルメを楽しむ一流シェフのような気分で聞き入ります。


 直後。


「「うぷっ……ごはぁあ!!!」」


 耐え切れず、互いの顔に下呂を吐き合う二人を前に、私は必死に笑いを堪えていました。


 ―――こんな面白い玩具、楽しまなきゃ損ってものでしょう?

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