第42話 闘技大会 ──ラグナロク──

 ダルメルカ王国は盆地を外郭として門が作られ、王城まで一直線に立派な街道が作られている。中央にある大広場には20メートル四方の競技台が備え付けられていた。

 竜人族にとっては憩いの場のひとつであり、双方が納得すればトラブルを戦いで解決する法があったり、友達ライバル好敵手ともが拳で語り合ったり、異性を取り合ったり様々なことで活用される。


 ラグナロク──

 竜人が守護するスヴェルダール迷宮への挑戦権をかけた戦い。

 ドラゴニュートに竜人おのれの力を見せつけ、認められた者だけが挑戦できていたが、いつしか種族不問で実施されるトーナメントの上位3名が挑戦権を得られるようになっていた。


「みなさん、今年はドラゴニュートが戻っておりますので、本来のラグナロク形式ルールでスヴェルダール迷宮への挑戦者を決定致します」


 竜人たちのアウラコールが地響きを巻き起こす。竜人にとってのドラゴニュートはよっぽどの存在なのだろう。


《特にアウラは人気者ですから。転生者としてこの国に生まれ率先して国を守った。ドラゴニュートという最上位種でありながら奢らないその性格にみんなが好きになったのです》


「ワーッハッハッハ、皆の者、待たせたのじゃ」


 上空から響き渡る声、競技台を照らす太陽を背に作られる大きな影。黒竜が立派な羽を伸び伸びと広げて留まっていた。


 竜人族の歓声は空へ咆哮となって放たれる。それを浴びた黒竜は一気に下降、人の姿に変態すると一回転して競技台に着地した。


 あれはまさしくアウラ84……真っ黒なツインテールがゆらゆら揺れている。エアフィルダール迷宮で師事を受けていた時はローブを着ていたがコスプレしたかわいらしい女の子だ。


「久しぶりじゃのー、ちょっとした野暮用で久しく留守にした。今日はお主たちがどれほど実力をつけたか楽しみにしておったぞ」

「ア、アウラ様、話し方が前と変わったようですが……何かありました?」


 司会の男は、腕組みで仁王立ちなアウラを覗き込んだ。歓声を上げていた竜人たちは子供のように目をキラキラさせてじっと見つめている。


《ふふふ、相変わらずですね。竜人はアウラのことが大好きなんですよ。ほとんどの竜人はアウラの子供時代を知ってますから。わたしの妹みたいなものでもあるんです》


 そういえばアウラ師匠は元々ベルダンディーの守り手って言ってたものなぁ。

 

「いい加減にさっさと始めろ! いつまで茶番に付き合わねばならんのだ」


 真っ白なスーツを着た35、いつの間に作ったのか立派な椅子に腰掛けるノブナガの前で男が声をあげた。


「ほう、それならそこの白いのと黒いの。同時で良いからかかってまいれ」


 眉間にシワを寄せ睨む目を、ノブアナガ達に向けるアウラ。あー、あの師匠の目はヤヴァイ……かなり怒ってるぞ。引っ張り出される師匠との記憶、恐怖……恐怖……それが全て。それ以外は何も考えられない。


「ほう、ダルマニカのドラゴニュートと言えば竜人にとって神のような存在。ふたりなら負けた時の言い訳が出来ますからねぇ」


 ノブナガが余裕の笑みを浮かべて立ち上がると、「セイヤ!」と視線を白い男に向けた。


 白スーツの男が変態していく……真っ白な馬、背中からは立派な羽が生えている。


 天馬ペガサス……セイヤって……「まさかクラスメイトの星矢くん?」

「はい、そうだと思います」


 ユーコが不思議そうな目をこちらに向けてうなずいた。


「なんでみんな本名を使っているんだ……なんの目的があって」

「罠にはめるためです。ひとりだと偶然だと思える名前も、何人もかたまっていれば必然に感じる。確かめに来た転生者を仲間に引き込んで、逃げられないようにするのです」


 そういえば……ユキナも言っていた。もし僕が何も知らなかったらフラフラと罠にかかりに行ってたかもしれない。


「勇者を作り上げて名前を広め……それにノブナガって一体」

「最初はユウジと名乗っていました。育成勇者の名が世界に広がると『第六天魔王ノブナガ』を名乗ったわけです。もしかしてと思っていたのですがやっぱりレム様も転生者だったんですね」


 あっ……しまったー。せっかくここまで隠し通してきたのに自爆してしまった。


「あっ……いやっ」

「ふふ、まあいいですわ。私にとってあなたはレム様、私はオークのユーコです」


「「「おー」」」


 観衆の大歓声、ペガサスに仁王立ちするノブナガが宙に留まる。次の瞬間、白い羽を大きく羽ばたかせると、多量の光矢ひかりのやが一斉にアウラに向かって飛んでいった。その数はゆうに100は超えているだろう。


 2陣、3陣と埋め尽くさんばかりの光矢が飛び交う。それをアウラは右へ左へ手を振り払って霧散させていた。


 ペガサスから跳び上がるノブナガ、ペガサスセイヤはそのまま光矢を撃ちまくる。


「三魔眼──」巨大な目が3つ出現、アウラを取り囲む。「──奥義、終焉の旋律ラストフィナーレ


 前方からはペガサスの光矢、左右後方からは目玉から放たれた美しい光線レイ、そして上空からは炎を纏いメテオの様に襲い来るノブナガ。


 ズッドーン── 全ての攻撃が同時に着弾、巻き上げられた砂埃が煙幕のようにアウラを包むこむ。


 徐々に晴れる砂埃……しかしそこに人影は無かった。

 僕は見逃さなかった、ノブナガの刀を片手で受け止め、飛んでくる光線を避けもせずに受け止める。砂埃が舞っている間に次元歪曲を使って消えて行ったのを。


「ワーハッハッハ、お主らは口だけで大したこと無いのぉ」


 宙空に留まり、刀を掴んでいるアウラ。ノブナガは刀を握ったままぶらさがっていた。握った刀をペガサスセイヤに投げつけると、ノブナガの体が真っ白な羽に直撃し、そのまま真下に落下した。


「場外により勝者はアウラ様です」


 審判の掛け声とともに歓声が一気に沸き上がる。アウラは両脇に手を添えて、胸を突き出すと、高笑いして余裕を見せつけた。


 刀を杖に立ち上がるノブナガ、スーツ姿の男に戻ったセイヤ。苛ついているのか顔を歪めてアウラを睨みつける。


「お主らは合格じゃ。そのちょんまげと白いの、それと……あの女の3人を挑戦者として認めよう」


 アウラが指名したのは……ノブナガとセイヤと……ミサキ! どういうことなのだろう。それよりも一条ノブナガがあっけなく負ける様を見てザマァと思ってしまったのは僕だけだろうか……。


「レム様、顔がにやけてますよ……」

「そういうユーコだって……」


 同族がいた。


 その後は滞りなくラクナロクが続けられた。次々とアウラに挑戦しては軽くあしらわれる。しかし流石はドラゴニュート、竜人たちがより強くなるように稽古をつけていた。


《ラグナロクとは本来、ドラゴニュートが竜人たちを鍛える場だったんです。ラグナロクという名はアウラがカッコいいからとという理由だけで名付けました》


 そういうことだったのか。ラグナロクという位だから、物々しい大会かと思ったら、ただ竜人たちがアウラに遊んでもらう会じゃないか。


《竜人は、いかにアウラに近づくかを目標にしています。いつかは時の宝珠を手に入れて、わたしを開放しようとみんな頑張っているんです》


 って、『時の宝珠』を持っているノブナガが迷宮への挑戦権を得たということはベルダンディーを開放出来るってことか?


《そういうことではありません。迷宮は上層、中層、下層、最下層、最奥へと分かれ、下層を抜けなければわたしに辿り着けないようになっています》


 その鍵が『時の宝珠』ってことか……って、もし僕が優勝しても宝珠がないからヴェルダンディーを開放できないってことじゃないか!


《落ち着いて下さい。わたしは既に開放されていますし、宝珠がなくてもわたし自身で封印した迷宮なので問題なく入ることができます》


「あとは、お主たちだけじゃぞ、挑戦するのか?」


 アウラのニヤリとした顔。僕の正体には気づいてないようだ……師匠、どれだけあなたに近づいたか見て下さい!


 僕はコクリと頷いた。

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