第239話 昏睡と崩壊の知らせ
「お疲れ様」
地上から離れたリディエル神は、天界に戻ってきていた。そんな彼女に声をかける者がいた。
「ありがとう、フェンリル。とりあえずはどうにかなったわ」
ホッとした様子でリディエル神が答える。
「私も、エリアスの恋人が無事でホッとしてるよ。凄い戦いぶりだったね」
「ええ、彼の力には目を見張るものがあります。今後の成長次第では、私が力をかさずともディザスターと戦えるでしょうね」
リディエル神のレンへの評価は高い。
「それで、あの子が使ったスキルはどうしたんだい?」
「〈蘇生〉などは、さすがに消えましたね。人がそう楽に辿り着けるものではありません……」
遠くを見るようにしてリディエル神が答える。
自らの神の力と合わせたインストールという名のユニークスキル。あれには無限の可能性が秘められているだろうと考える。
「今は眠っているようだね。大丈夫かねぇ?」
「ええ、その内目を覚ましますよ。さすがに神との協力は、人の身体では負担が大きいですので」
地上で意識を失い倒れるレンの様子を心配するフェンリルにリディエル神は告げる。
「そうかい、それなら良かったよ。エリアスがショックを受けたら堪らないからねぇ」
「いつか、彼は我々と同じ場所まで上がってくると確信しています。レン・オリガミ……これからの良い成長に期待します」
フェンリルの言葉を聞き、リディエル神は、ボソリと呟く。
「以上が、リディエル神聖国での出来事とマスターの身に起こったことです」
アルセンティア王国、王城の一室、ベッドに寝かされているレンの近くで、エリアス、ルティアやミラにナビゲーターが説明を行なっていた。
「レン……」
未だに目を覚さないレンを見つめエリアスが呟く。
「申し訳ありません、エリアス。私がマスターに付いていながら……」
ナビゲーターが謝罪をする。
「気にしないでって言ったら無理かもだけど、大丈夫だよナビゲーターさん!レンなら大丈夫」
とエリアスが答える。
「レンの寝坊なんてよくあることよ!その内起きてくるわ」
「私は、なんて声かけよー」
ルティアもミラも変わらずの反応だ。
リディエル神聖国での一件が終わり、1週間ほど経っている。レンが目を覚さないため、すぐさま王都に戻ってきたのだ。
「怪我が原因じゃないからねぇ……私には難しいねぇ」
「神と合わさった、とても興味深い響きだなぁ!早く目覚めて欲しいものだよ」
聖女ネーヴァンや、賢者カラミィでもレンを起こすのは難しいとのことだ。
結局、リディエル神が言っていた当分動かなくなることが今の状態なのだと納得するしかない。
「あ!そういえば、レンがお兄様に私が賭け事をしてるってチクったのよ。後で文句言わないと!」
ルティアが目を燃やしている。
「いや、それは自業自得でしょ……こんな王女滅多にいないから……」
呆れたようにミラが答える。
「言ったわねぇ、ミラァァア!」
「何よぉぉぉぉぉ!」
そんな2人の様子を尻目にエリアスは、レンを眺めていた。
「あなたの声が聞きたい。早く起きてね」
と呟きながら、レンの髪に触れる。
と、ここで扉が開かれて部屋に入ってくる人物がいた。すぐさまエリアスは振り向くと、それは自分の知っている人物であった。
「ハルカさん、ネーヴァンさん、それにカラミィさん!」
それぞれの師匠だ。
「レン殿の具合は、変わらずですかね?話が急に変わって申し訳ありませんが、知らせておきたいことがあります」
ハルカの表情から、あまりいい話ではないような感覚があった。
さっきまで、戯れていたルティアとミラも真面目な表情だ。
「お知らせって……」
エリアスが口を開く。
「ええ、帝国……その帝都が崩壊しました。魔門から出現したディザスターによって」
と言われる。
部屋が静まり返る。
エリアスは、自分の無意識のうちにレンの手を握っていることにも気づかないのだった。
リディエル神聖国編、完
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