第186話 気まぐれとレン対クシフォン

『準々決勝第2試合のレン選手は、少し前に迷宮イージスの50階層を突破したクランの一員でもあります!その実力楽しみです!』


『対するルシファン選手は、これまた先程の試合に出場したミーズ選手と同じでこれまで目立った活躍を耳にしたことがない選手ですが、確かな実力を持っています!』



 と紹介が始まっている。実況っていうのも大変なもんだよなとレンは思いながら正面のクシフォンを見る。


「面白い試合になりそうなのじゃ。何となくで試合に参加した甲斐があったのじゃ」


 腕を振り、ストレッチをする様な動きをしながらクシフォンが言う。この世界にストレッチなんて言葉はないかもしれないが、やはり身体をほぐしておくというのは大切なのだろう。


「やっぱり、単なる気まぐれか!付き合わされるフィーズも大変だ」


 と言いながら控え室の方を見てみると、こちらの方をフィーズはじっと見ていた。あまりの眼力に恐ろしくなってしまう。隣ではエリアスも若干引いているような顔をしているのだ。



『さあ、それでは準々決勝第2試合開始です!』



「嬢ちゃん、やっちまえー!」


「兄ちゃんも負けんなー!」


 など良く聞くと色々な歓声が聞こえてくることに気がついた。ボーッとしていると危ないためすぐさま気持ちを切り替える。


「ご飯とスイーツはもらったのじゃぁ!」


 拳に火魔法を乗せたクシフォンがレンに向かって駆けてくる。やる気は、食べ物のために傾いているようだ。


「俺も負けるわけにはいかないからな」


 クシフォンが勝った時にくれるものが気にならないと言えば嘘になる。エリアスも勝ち上がっているためレンは、ここで負けたくないのだ。


 レンは、剣を抜いて迎え撃つ。


「ふふっ!妾には効かぬのじゃ」


 レンの剣とクシフォンの拳がぶつかった瞬間に、剣が壊れる。


『あーっと、ルシファン選手の武器破壊だぁ!武器を壊されたレン選手、どうするかあ?』


「やっぱり壊されるか!凄い才能だな」


 武器を破壊するというのはそう簡単に出来る芸当ではない。折れた武器を見ながらクシフォンの技量に感服する。


「ふふっ、どうするかの?レン。武器はなくなったのじゃ!んん?お主、何を笑っておる……!」


 武器を破壊されたのにレンに余裕があることに少し驚きながら壊した剣に視線が注ぐ。


「壊した?なんのことだ?」


 レンの手に握られている漆黒の剣は壊れておらず、綺麗な状態で握られている。


「まさか、修復したのじゃ?むむむ……厄介なのじゃ!」


 修復してしまうのなら壊してもあまり意味が無くなってしまう。


『レン選手の壊れた武器が綺麗に直っている!さすがは、Aランク冒険者!使っている武器もとてつもない一級品だぁ!』


「凄いな!」


「あんな武器欲しいぜ」



 実況の話に合わせて会場も盛り上がる。



「むう、こうなったら妾も武器を使うのじゃ!」


 と言いながら手にガントレットを装着する。銀色のガントレットで、なかなか豪華なデザインに感じた。観賞用と言ってもいいようなレベルの作りだ。


『ルシファン選手もここで武器を装備だ!さらに強力な一撃期待するぞぉ!』


 ガントレットを装備したクシフォンの拳に火がついた。


「じゃあもう一回やるとするか!」


「どっちが勝つか試してみるのじゃ!」


 レンも自らの武器に炎を纏わせてクシフォンに向かっていく。


 ガキンッ


 と金属音を立てた剣とガントレットがぶつかる。レンもクシフォンも互いにかなりの熱気を感じていた。


「折れないのじゃ!うぬぬぬぬ!」


「なんて力の強さだよ!」


 レンの武器は、使うたび強固になっていくため、今度は簡単には壊れない。


「アイス!」


「なに!」


 武器をぶつけ合いながらレンは氷魔法を発動する。自らの武器とクシフォンのガントレットごと氷漬けにしたのだ。


「おりゃぁ!」


 と言いながら自分の剣とごと、それに引っ付いたクシフォンを場外に落とそうと投げ飛ばす。


「冷たいのじゃ!炎付与」


 飛びながらクシフォンは、炎を出しながら氷を溶かし場外に落ちる前に止まることが出来た。



『クシフォン選手踏みとどまりましたぁ!まだ試合は続きます。盛り上がってきましたよ』


 と実況が言っている間にもすぐにクシフォンは、走り出す。


「ウインド!ファイヤ!」


 クシフォンが足から風魔法を発動させて、一気に加速する。


「風魔法も使えたか!」


「炎拳!」


 レン目掛けてクシフォンの拳が迫る。


「アクアウォール!」


 レンは、水の壁を張って回避するが、クシフォンはすぐさま突き抜けて追撃してくる。


「逃さないのじゃ!」


「俺について来られるかな?」


 レンも魔法を発動させて飛ぶ。久しぶりの飛行戦闘な気がした。


「マジックバレット!」


 レンはクシフォンに向かって様々な魔法を連射して浴びせる。



「ゴホッ、ゴホッ!やられたらやり返すのじゃ!マキシマムマジック……ドラゴンファイヤー!」


『かなり強力な魔法ですね。モロに食らえば、かなりのダメージは避けられないかもしれません』


 ナビゲーターさんが言う。

 炎が巨大な龍のような形になってレンに向かって放たれる。



「ならこっちは……借りるぞ、ルティア。アクアジャイアント!」


 レンが水の巨人を出現させて炎の龍に立ち向かう。


『強力な魔法の応酬!これは面白い戦いだぁ!』


 会場の盛り上がりも凄まじい。



 炎の龍と水の巨人がぶつかり合いとてつもない水蒸気が舞台に広がる。レンとクシフォンは、吹き飛ばされそうになりながらも踏ん張る。



 若干舞台が暖かくなった気がした。


「妾はまだ元気じゃぞ?」


「俺も元気だよ、さあ続けよう!」


 蒸気の煙が晴れ、再びレンとクシフォンがぶつかり始めるのだった。

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