明日
「明日やろうはバカ野郎」
おじぃの代から続く、田舎のこじんまりとした本屋。
ご時世に関わらず、大して売れもしないその店番のさなか。
しばらくぶりの、顔なじみのアホ。
仁王立ちに腹式呼吸。
よく通る声が、店内によく響いた。
ピッ。
「お会計516円です」
「なんだよ、ツレないな」
「そんなヒドい餌で何釣る気だったのよ」
「そりゃモチロン、あんただよ」
ひどい。
「悪いわね、明日の仕事も今日やっちゃうような奴は嫌いなの」
「マジかよ。仕事が終わってるなら休めるし、一石二鳥じゃねぇか」
これだから労働したことの無いアホは。
「いい、仕事ってのはね、無限に湧くのよ。
明日の分が今日終わったのなら、明日は明後日の分をやるの」
「明日は明日の風が吹く、ってことか」
「・・・意味わかって言ってんの?」
「あー、あれだろ? なんかフレッシュな感じだろ?」
「ぜんぜん違う」
レジ下から、ブックカバーを取り出す。
お買い上げの商品に合わせて折り、包む。
こんなセンシティブな少女漫画、趣味だったのか。
続刊が出ないのは寂しい限りだ。
「しかし、アホが頑張って明日のことを言っていると思うと、鬼の気持ちも分かるわね」
「おうさ、一夜漬けだぞ舐めるなよ」
「迷わず百を取りそうね」
「人生大きく賭けていかないとな」
「そんなんじゃ、言いたいことも今日言ってしまうでしょ」
「何事も寝かせるってのはよくねぇと思うワケよ」
おぉ。意外と保つ。アホのくせに。
こいつの、こういうところは嫌いじゃない。
とはいえ、そろそろお開きのようで。
次のお客様がソワソワと伺っている。
キャッシュトレーを少し前へ。
アホはポケットから、ちょうどの小銭をじゃらじゃらと。
「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしています」
「ーー。あぁ、また」
いやに神妙な顔で言われたから、ちょっとツボった。
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