海岸

「こんばんは。今日は、星がよく見えるね」


秋の夜。

自宅から歩いて十数分の海岸。

岩場に腰掛けている彼女は、私にそう挨拶をしてきた。


「そうなん? 私はまだ目が慣れんくて、よう分からんわ」


そう、挨拶を返しつつ。砂を踏む。

きゅ・きゅ・きゅ。

岩に乗り、彼女の隣に腰掛ける。


夜に紛れる、藍の外套。

月明かりを吸った金色の髪。

その美しさは、出会ってから1年が経とうとしていても、色あせはしていない。


特に話すこともなく。ただ、海を見つめる。

ざざー。ざざー。

波の音が、私達をつつむ。


海の風に熱をもっていかれないように、膝を抱える。


「ねぇ、てんびんざ、って、どれ?」


「天秤座? あれ、夏の星座やなかったっけ」


「あれ、そうなの、なんだ残念」


「どうして?」


「いや、私って、天秤座らしいから」


「あぁ」


12星座か。どうやら彼女は秋の生まれらしかった。


「うお座なら、見えとるけどな」


「えっ、どれどれ?」


「んー、ほら、あそこに秋の四辺形があるやん?」


お尻を持ち上げて、半歩近づく。

見上げた彼女の視線の先に、指を滑らせる。


「そのちょっと下の方に、輪っかがあって、そこからこう、しゅー、と」


「へぇ・・・・・・」


西のうお。

北のうお。

双魚座とも呼ばれる、二匹のうをを宙に書く。


そうやって、せがまれるまま。

夜空に絵を書き続けた。


そうしている間に、海風は、容赦なく私の体温を奪っていく。

くしゅん、と、くしゃみを一つ。


「あー、そろそろ帰るわ」


「そう、じゃあ、また今度」


「あぁ、またな」


ひらひら、と手を振り、別れる。

立ち上がり、彼女に背を向け、来た道を戻る。


ぱしゃん。


ひときわ大きな、波の音がした。

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