ゴールデンウィーク編前半

第24話 真弓の露出はこれから始まる

 新生活にも慣れ始めてきた四月最終週。僕はこの日が来るのを今か今かと待ち望んではいなかった。僕の通う大紅団扇大学付属高校は伝統的に運動部が強くないのだが、それは夏休みと冬休みの平日を除いた全ての休日に勉強以外の理由で学校内に立ち入ってはいけないという校則があるからなのだ。なぜそんな校則があるのか理由は不明なのだが、初代の学長が勉強しかしていないような人で運動嫌いだったという噂があるのだ。その噂の真偽はわからないのだけれど、僕はこの校則のせいでせっかくのゴールデンウィークを家で過ごすことになりそうだった。


 同級生でもある陽香は仲良くなった友人と遊ぶ約束をしているようなのだが、あいにく僕にはそのような友人が出来ることも無く寂しいゴールデンウィークへと突入してしまったのだ。

 こうなると、僕の望みはたった一つ。沙緒莉姉さんと真弓にも親しい友達が出来てどこかへ遊びに行ってもらうという事だ。そうすれば、僕は久しぶりに一人の時間をゆっくりと過ごすことが出来る。僕は積んでいるゲームや漫画に、まだ見ていないアニメを見ようと思っているのだが、家にいると沙緒莉姉さんと真弓が僕の邪魔をしにやってくるのだ。

 僕は必然的に家から脱出して学校で自習を繰り返しているのだが、同じ学校の大学と中学に通う沙緒莉姉さんと真弓も僕と同じように自習室や図書室を使うことが出来るという事に気が付いたらしく、僕の安息の地はお風呂とトイレくらいしかなくなってしまっていたのだった。

 春休みから一か月も経たずにこうなるとは予想もつかなかった。制服を取りに行ったあの日に戻ったとしても、僕は今の状況を避けることなんて出来ないのだとは思う。何より、沙緒莉姉さんも真弓も僕よりそう言った面で頭が働くので、僕の両親や陽香が見ても普通に仲良く遊んでいるようにしか見えないのだ。

 そんな二人もさすがに家の外では見せてくることは無いのだけれど、自室に戻るために階段を上がることになるのだが、階段を上がっている途中にスカートも上げてお尻部分を見せてきたり、僕の前で躓いたふりをしてよろけた拍子に大きく開いた首元からブラジャーを見せてきたりもするのだ。


 僕はそんな状況から逃げるように自習室にこもって勉強をしているのだが、全く勉強をしているそぶりを見せない陽香の方が小テストの点数が良かった事だけは納得がいかない。陽香を含めて沙緒莉姉さんと真弓と四人で勉強をすることもあるのだけれど、僕が少し考えるような問題でも三人はスラスラと解いていたりするので、基本的に頭の出来が違うのだろうと思うところはある。

 それだけ頭が良いのだから、僕以外に気付かれないように下着を見せてくるのもなんてことはないのかもしれない。だが、そんな二人も直接何かをしてくるような事はほとんどなく、真弓と夕食のためのおつかいに行った時に何となく手が触れたことがあったのだが、真弓は一瞬だけ触れた僕の手をじっと見て恥ずかしそうにしていた。何が恥ずかしいのかわからなかったのだけれど、僕が手を差し出しても戸惑っているだけだったりしたのだ。

 買い物の帰りに歩道橋を渡る場面があったのだが、真弓も荷物を持っていて下りるのが大変そうだったので手を差し伸べてみたところ、僕と手を繋ぐことに対して極端に恥ずかしがっていたりもしたのだ。

 沙緒莉姉さんも沙緒莉姉さんで、下着を見せてきた後に動けば触れそうな距離まで顔を近付けてくることがあるのだが、なんとなく沙緒莉姉さんの頬を僕の手の甲で軽く触れたところ、沙緒莉姉さんは顔を真っ赤にして震えていた。

 その時は気付かなかったのだが、沙緒莉姉さんも真弓も僕に下着を見せるのは平気なのに、手を繋いだり顔に触れられるという事は恥ずかしいらしい。彼女たちがいったい何に対して羞恥心を感じているのかさっぱり理解出来なかった。

 だからと言って、僕は二人に対して故意に触れようとはしないし、あくまで度が過ぎたと感じた時の抑止力としてそれを使おうと思うだけだ。しかし、二人は頭がいいので僕がそう思う前にスッとその行動を控えることが出来るのだ。


「明日からゴールデンウィークだけど、陽香お姉ちゃんは学校のお友達と遊ぶの?」

「うん、とりあえず明日と来月の三日はその予定だよ。真弓はどこかに行くの?」

「真弓は特に予定無いんだけどさ、休み明けのテストのために勉強しようかなって思ってるんだよね。お兄ちゃんはどこか行く予定あるの?」

「予定って程じゃないけど、せっかくの休みだから自転車でどこかに行ってみようかなって思ってるよ」

「え、明日から雨なのに自転車に乗るの?」

「明日から雨って、本当に?」

「うん、天気予報見て見なよ。明日から五月入るまで雨っぽいよ。今年のゴールデンウィークは前半は雨だって天気予報で言ってたからね」

「そうか、それだったら家でゲームしてようかな。最近は一人でじっくりやることも無かったし」

「そっか、お兄ちゃんは家で一人でゲームしているのか。真弓は家だと落ち着かないから学校の自習室に行ってみようかな。ゴールデンウィークでも開いてるよね?」

「真弓って本当に勉強が好きなのね。調べてみたけど、自習室はゴールデンウィークでも普段の下校時間までは使えるみたいよ。でも、雨降りだからやめた方がいいんじゃない?」

「うーん、そうなると家で勉強することになるんだけど、自分の部屋で一人で勉強するのって集中力が続かないんだよね。誰かに見てもらわないとサボっちゃいそうでさ」

「それだったらさ、沙緒莉姉さんが帰ってきたら相談してみたらいいんじゃないかな。僕はゲームやってるから勉強の邪魔になると思うし、沙緒莉姉さんに相談するのが一番だと思うな」

「沙緒莉お姉ちゃんが用事あるって言ったらどうしたらいいかな?」

「そうなったらさ、父さんと母さんにお願いしてみるのはどうかな?」

「あれ、昌晃っておじさん達から聞いてないの?」

「聞いてないのって何が?」

「おじさんとおばさんは私達のパパとママに会いにイギリスに行ってるわよ」

「え、そうなの?」

「そうだけど、何も聞いてないの?」

「うん、聞いてない。そう言えば、先週からやけに旅行雑誌を見てるなって思ってたんだよな。僕の親って君達が来ることも僕に教えなかったし、その旅行の事だって教えてくれなかったってのは、普通にあり得る話だな」

「信用されてるんだかされてないんだかわからない話ね。私は約束あるから真弓と遊ぶのは帰ってからになるけど、それまでは昌晃が真弓に勉強教えてあげてよ。入学してから毎日自習室で勉強してるんだからさ、それくらい大丈夫よね」

「毎日のように勉強はしているけどさ、ハッキリ言って僕より真弓の方が勉強は出来ると思うよ。だから、どちらかと言えば教わるのは僕の方かもしれないね」

「それって、お兄ちゃんは真弓と一緒に勉強してくれるって事だよね?」

「そうだけど、沙緒莉姉さんがダメだった時はって事ね。沙緒莉姉さんが大丈夫だったら僕はゲームやるからね」

「あ、残念だけど昌晃はゲーム出来ないみたいだわ。お姉ちゃんからLINEが着たんだけど、四月は学校で資料集めしないといけないんだって。残念だったわね」

「そっか、沙緒莉お姉ちゃんは資料集めでいないのか.じゃあ、真弓はお兄ちゃんと一緒に勉強することにするね。ね、お兄ちゃん」

「よし、一度言ってしまったことは仕方ない。僕は真弓の相手をしてあげるよ。でも、毎日じゃなくてゲームをやってもいい日を作らせてね。それと、僕もちょっとこの辺の歴史とか知りたくなってきたんで、家じゃなくて近所の図書館で勉強しようか。学校よりも近いし、いつもと違う環境で勉強した方が身に付くと思うしね」

「へえ、学校以外にも図書館があるんだ。今度私も連れて行ってよ」

「学校ほど大きくはないけどね。暇な時を教えてくれればいつでも案内するよ」

「いつでもって、昌晃に何の予定もないみたいじゃない」

「まあ、予定なんてなんも無いからさ」

「なんかごめんなさい。でも、約束したからね、ほら、小指を出して」


 僕は陽香に言われるがままに小指を出すと、陽香は僕の小指に自分の小指を重ねて指切りをした。この指切りがどれくらい固い約束なのかはわからないが、陽香は真弓や沙緒莉姉さんと違ってスキンシップを取ることに恥ずかしさは感じていないようだ。その代わり、陽香は自分の脱いだ下着を見られることはもちろん、履いているパンツを見られることにも恥ずかしさを感じるようだ。それが普通だとは思うのだけれど、沙緒莉姉さんと真弓を見ているとどちらが異常なのかわからなくなることがある。


「ほら、真弓も昌晃と指切りして明日の約束をしなさいって」

「え、真弓はそういうのしなくてもお兄ちゃんの事を信じているからいいよ」

「信じる信じないじゃなくて、形だけでもいいからやっておきなって。昌晃も小指を出して待ってるんだから、早くしなって」


 陽香と違って真弓は僕に触れられることをとても恥ずかしがっていた。パンツを見せるのは平気なくせに、肩についているゴミを取るだけでもびっくりして変な声を出すほどだった。

 そんな真弓が僕と指切りなんてするはずがないと思ってはいたのだけれど、なぜかこういう場面では強気になる陽香に押し切られる形で、真弓は僕と渋々指切りをしたのだった。その顔は熟したリンゴのように赤くなっていたし、緊張からくるのかわからないけれど、僕の小指と触れている真弓の小指は異常に震えていた。


「ああ、もう。お兄ちゃんは明日の約束破ったらダメだからね。絶対だよ」

「うん、約束したから守るよ」

「ああああああああああああああああああああああああ」

「何恥ずかしがってるのよ。子供じゃあるまいし。じゃあ、私は晩御飯の用意でもしようかな」


 僕は全く自然な流れで真弓の頭をポンポンと軽く叩いたのだが、真弓は嬉しいのか恥ずかしいのかわかりにくい表情を浮かべて声をあげていた。

 陽香が夕飯の準備をしにキッチンへ向かったのだが、陽香がこちらを見ていないことを確認した真弓は僕にだけ見えるようブラウスの前を開けていた。いつの間にボタンをはずしていたのだろうという思いはあったのだが、ブラウスの中に着ていたキャミソールのお陰でブラジャー自体は見えなかった。

 僕はそれに対して安どの表情を浮かべていたのだろう。それを見た真弓の表情が一変すると、何を思ったのか真弓はキャミソールをたくし上げて僕にブラジャーを見せてきたのだ。

 しかし、キャミソールだけをたくし上げることは出来なかったようで、少しだけ膨らみかけている胸が見えていた。途中でそれに気付いた真弓がたくし上げるのをやめたおかげで事なきを得たのだが、真弓の顔は先ほどよりも赤く染まっていた。


 下着を見せるのは平気なようだが、それ以上見せるのは恥ずかしいらしい。

 僕にはその感覚が理解出来なかったのだが、ゴールデンウィーク中にこの家には僕の両親がいないという事も理解していなかったのだった。

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