第260話 敵の正体

「命をかけた闘い? なにか勘違いしているようですねぇ。

 これから始まるのは闘いなどではなく……ただの蹂躙!!」


 ニタァっと嗜虐的な笑みを深め……


「なっ……!」


「き、消えたっ!?」


 思わずって感じで声を上げちゃったリアットさんを含む生徒達の前で、アメリアさんのいうように男の姿が闇に溶けるようにして掻き消えた……けど。


「ふむ……」


 とはいえ……どうやら、完全に消えたわけじゃない。

 確かに姿は目視できないし、気配も希薄ではっきりとはわからない。



 ギィン!



「何だとっ!?」


 振り下ろされたナイフを白で受け止めて……驚愕の声を上げてる男を。

 姿は見えないけど、確かにここにいる男を蹴り飛ばすっ!


「ぐぅ……!」


「むっ」


 今のでお腹を抑えて膝をついてるとはいえ、それだけで大したダメージを負ってないとは……結構やるじゃん。

 私が蹴り飛ばす瞬間に自ら後ろに飛んで、蹴りの威力を相殺された。


 並の魔物なら今の蹴りだけでもパァッン! って弾け飛ぶんだけどな……うん、我ながら血生臭くなったわ。

 公爵令嬢なのに、仮にも第一王子の婚約者で未来の国母なのに、蹴りで魔物が弾け飛ぶって……


「ふふっ」


 世界最強を目指すって決めたのは私自身だけど、完全に貴族令嬢の考えることじゃない。

 本当に物騒で血生臭くなったもんだわ。


「き、貴様ぁっ! なぜだ! なぜ私の居場所がわかったっ!?」


「確かに貴方の隠密は優れてますよ?」


 実際に生徒達は完全に見失ってたし、この私ですら朧げにしか居場所をつかめなかったんだから。


「でも……どこにいるのかなんとなくはわかりますし、攻撃を仕掛けられたら完全にわかります」


「なぜ私の攻撃がわかったのかと聞いているですっ!!」


 あぁ、そっちね。

 それは身体の周りに数十センチくらいの魔力の層を作って、なにかに触れたら即座に反応できるようにしてたからだけど……


「ふふっ、それを教えると思いますか?」


 敵にわざわざそんなことを教えてあげる必要は一切ないのだよっ!!


「ッ〜!!」


 ふっふっふ〜ん! どうだ、これは前世の記憶にあるマンガとかアニメから着想を得て、私のユニークスキルである探求者の権能で身につけた技っ!!


 魔闘法・纏いで雷を纏うことで、反応速度を極限まで上昇させしまえば……たとえフィルだろうと、ルミエ様だろうと私の防御を破られないのだ!


 まぁ実際にはフィルはともかく、ルミエ様の場合は力技で押し切られるし。

 そもそも範囲攻撃をされたら意味ないんだけども。


「クッ、クフッ! クフフッ……!! ここまでコケにされたのは久しぶりですねぇ。

 さすがは特異点、と言ったところですかぁ?」


「っ!」


 特異点……ということは、もしかしてって思ってたけどやっぱり!


「貴方、教団の」


「いかにも! 私はペルセ・ベラン、真なる神に仕えし者にして、十使徒が1人……第九使徒、忍耐のペセル・ベラン様です」


「第九使徒……うそっ」


 いやいやいや、確かに教団のメンバーなのかなぁっとは思ってたよ?

 けど……最高幹部である十使徒が1人っ!?


 教団の最高幹部の十使徒といえば魔王の一角でもあったナルダバートとか、そのナルダバートすら凌駕するピアとか!

 あとはレヴィアさんが怖い笑顔で始末したっていってたけど、史上初めての七大迷宮・大海のスタンピードを誘発したシュルトって人とか、他を圧倒する強者ばかり!!


 目の前のこの男の人が……このペルセ・ベランって人が、そんな十使徒の1人っ!

 しかもナルダバートよりも上位の第九使徒っ!? いやまぁ、ナルダバートは末席の第十使徒だったらしいから当然なんだけども……とにかくっ!!


「その実力で……十使徒?」


「き、貴様っ……! クッ、クフフ、まったく……どれだけ私を不愉快にさせるのでしょうかぁ?」


 あっ、私としたことが、衝撃すぎてついつい声に出しちゃったわ。

 でも、これは仕方ないと思う! 確かにこの人も強いよ?


 生徒達レベルだとなにもできずに皆殺しにされるだろうほどには強い。

 けど……今まで出会った他の十使徒に比べると、どうしても見劣りするもん。


「私は殴り合うしか取り柄のない野蛮で低脳な、貴様達のような冒険者共とは違うのですよ!

 クフフ……貴様に絶望を与えてあげましょう!」


 そういって、白衣の懐に手を入れ……


「1ついい事を教えてあげましょう。

 実はこの白衣の裏地は、私の研究室に繋がっているのですよぉ」


「っ!!」


 これは……!


「そこで、貴様にはコイツの試運転の実験材料にでもなってもらうとしましょう!」


「それは……」


 透明なビンに入った、赤黒い液体。

 それも……


「その魔力はいったい……」


 この禍々しいまでの魔力!!


「クフフッ! アヒャヒャヒャヒャッ!!」


 男が、ペルセ・ベランが狂ったような嗤い声を上げながら腕を振りかぶり……


「せいぜい足掻いてくださいよぉ〜!」


 赤黒い液体が入ったビンが、地面に叩きつけられて砕け散る。


「この臭い! これは……血?」


 いや、それよりもいったいなにを……


「召喚魔法……開け! 血の門よっ!!」

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