第78話 ようこそ、我が城へ

 魔王ナルダバートの居城!

 荘厳な魔王城の扉を張り巡らされていたであろう数々の罠と、侵入者を阻む結界ごと吹き飛ばし!

 襲い掛かってくる敵を薙ぎ倒しながら、魔王の元までいざ行かんっ!!


「って、思ってたのに……」


 おかしい。

 これは明らかにおかしい!


「あら、ソフィーちゃんどうしたの?」


「お母様……魔王城に踏み込んでから早10分ほど。

 仕掛けられてる罠はともかく、これまで一度も敵に遭遇しないなんて不自然じゃないですか?」


 なにせ、敵は八魔王が一柱ヒトリ! 不死の呪王と恐れられる魔王ナルダバート!!

 あれだけの大群をイストワール王国に差し向けてるわけだし、普通なら魔王城の警備が手薄になってるだけだと考えることもできるけど……


 ガルスさん曰く、魔王ナルダバートは自身の魔素エネルギーを媒体として無限に不死者アンデッドを作り出すことができる。

 つまり! ヤツはその気になれば今イストワール王国の王都を包囲してる軍勢をこの場に作り出すことも不可能じゃないはず。


 まぁ、魔王ナルダバートの魔素エネルギーが底をついているのなら配下の不死者を生み出すことができないのも納得できるけど……このお城に充満する濃密な魔力。

 そしてお城の奥から感じる、全身の毛が逆立つような圧倒的な魔力の波動。


 まず間違いなく魔王ナルダバートのモノだろうし、魔素エネルギーが尽きてるわけじゃない。

 にも関わらず、魔王ナルダバートの本拠地たる魔王城に踏み込んでるのに敵に一切出会わないっていうのはさすがに不自然すぎる。


「ふふっ、確かにそうね。

 この城に入ってから……いえ、マリア様の転移魔法で死王国セカンデスに着いてから周囲に敵の姿も、その気配すら一切ない。

 城の入り口を破壊した時も妨害が一切なかったし、これは恐らく……」


「誘い込まれてるな」


「あら、ガルス様はお気づきになっておられましたか」


「当然だろ。

 魔王の領域で1人たりとも敵に出会わないなんて普通ならあり得ねぇからな」


「しかし……魔王はどういうつもりなんでしょうか? 誘い込みなんて、こんな見えすいた罠を仕掛けてくるなんて」


「そりゃあ、俺達をナメてるんじゃないか?」


「それは違うわね」


「ルミエ様!」


 転移魔法でここに来てからずっと難しい顔で黙り込んでたから心配してたけど大丈夫なのかな?


「ふふっ、心配ないわよ」


「むふ〜」


 むへへ! ルミエ様に頭をなでなでされちゃった……って! 和んでる場合じゃない!!

 ここは敵地のど真ん中! ここまで一切敵とエンカウントしてないとはいえ、油断することなく周囲を警戒しなければ!!


「魔王ナルダバート、アイツの性格から考えればこれは罠なんかじゃないわ。

 これはただのご招待よ」


「ご招待?」


「そう、アイツはかなり真面目というかお堅い性格をしていてね、誘い込んで袋叩きなんて姑息な真似をするヤツじゃないわ。

 これは私達を自身の元まで招き入れてるのよ、自分自身の手で私達の相手をするためにね」


「へぇ〜そうなんですね」


「いやいやいや! ソフィー、簡単に鵜呑みにしすぎ!!」


「えっ、だってルミエ様がいってることですし……」


 でも……確かに、宣戦布告してきたときのヤツが本当に魔王ナルダバート本人だとすると、ルミエ様のいうような真面目でお堅いって人物像とはかなり違う印象を受ける。

 となると、やっぱりあのとき喋ってたのは魔王ナルダバート本人じゃないのかな?


「ソフィーからそこまで信頼されてるなんて……ルミエ様、やりますね」


「ふふふ、私とソフィーの仲だもの!」


「「っ……!!」」


 えぇ、なんかルミエ様の言葉を受けてお兄様達が悔しがってるんだけど……


「それで……ルミエ様と魔王ナルダバートのご関係は?

 今の話を聞く限り、知り合いのようですが」


 確かに! ルミエ様と魔王ナルダバートとの関係性、気になる!!

 さすがはお母様、素晴らしい着眼点だわ!!


「そうね……実は魔王連中とは見知った仲でね、魔王全員に何度か会った事があるのよ。

 まぁ暇つぶしの遊び相手みたいな感じね、ナルダバートもその1人」


 ほぇ〜、魔王を遊び相手扱いだなんて……


「それで、一応魔王連中とは相互不可侵の契約を結んでいるの。

 まぁ、今回はナルダバートが私の加護を持つソフィーを狙ったわけだし、悪いのは全面的に向こうなんだけど。

 一応他の魔王達に連絡を入れて、今まで根回しをしてたってわけ」


 なるほど、だから難しそうな顔をしてたんだ。


「それで根回しの結果は?」


「ふふっ、私も可愛いソフィーを狙ったおバカさんにキツくお灸を据えてやるわ」


 おぉう、いい笑顔。


「クックック、酷い言いようですね」


 むっ! この声は……


「白竜王ルミエ様、私と貴女様の仲だというのに」


「ふんっ、別に大して仲がいいわけでもないじゃない。

 ナルダバート」


 歩いてきた廊下の突き当たり。

 両開きの巨大な扉がゆっくりと開かれていき……


「初めまして、無謀で愚かな人間諸君」


 豪華絢爛と称するに相応しい謁見の間らしき空間で、たった1人。


「ようこそ、我が城へ」


 玉座に腰かけた金髪の男が笑みを浮かべて私達を出迎えた。

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