第14話 ランニングはしたくない

 いよいよだ。

 いよいよ、私の最強伝説への第一歩が! お兄様達との修行が始まるっ!!


「とは言っても、まだ初日だし。

 暫くの間は基礎的な事しかしないけどね」


「え〜」


「そんなに不満そうな顔をしない」


「むぅ」


 だって不満だもん。

 1週間もウズウズする気持ちを我慢して、やっと修行が始まったと思ったのに……しばらくは基礎だけって!


 苦笑いしながら頭を撫でてくるけど、そんなことでこの私は誤魔化されない!

 不満たらたらの顔になっちゃうのも仕方ないのだ!


「ソフィーは最強を目指すんだろ?

 だったら基礎を疎かにしたらダメだって事は賢いソフィーならわかるだろ?」


「エレンお兄様……」


「エレンの言う通りだよ。

 それに、いくら素質が高いからと言って基礎をちゃんとやっておかないと怪我をしちゃうからね」


「むぅ……わかりました」


 お兄様達のいってることはもっともだし。

 私の怪我を心配してのことだから反論できない。


「流石はソフィー! 偉いぞ〜!!」


「わっ!」


 エレンお兄様、いつの間に私の背後に……さすがは剣帝と称されるSランク冒険者。

 まぁ、私の頭を撫でるためにその力を使ってる時点で残念なお兄様ではあるけど……


 まったく、お兄様ったら。

 まっ! 褒められて悪い気はしないし、お兄様達に頭を撫でられるのも嫌いじゃない。

 よって! お兄様達がそんなに私を撫でたいのなら撫でさせてあげるとしよう!!


「騎士達と一緒に遊……こほん、訓練をしていたとは言え、ソフィーはまだまだしっかりと身体もできていない子供だからね。

 基礎はしっかりとする事、いいね?」


「は〜い……ん?」


 ……あれ? ちょ、ちょっと待って!

 今、アルトお兄様から聞き捨てならない言葉が聞こえたんですけどっ!!


「ア、アルトお兄様? 騎士達と訓練ってなんのことでしょうか?」


「ソフィー、実はね……ソフィーが毎日のようにこっそり訓練場に忍び込んで騎士達に混じって訓練をしていた事は全員知ってるんだよ」


「っ!!」


 そ、そんなバカなっ!


「ファナにすら内緒にしてたのにバレるはずが……マリア先生にも、騎士のみんなにも口止めしてるしどうして……」


「ふふふ、ソフィーちゃん。

 心の声が漏れてるわよ?」


「はっ!」


 ま、まずい!


「ついつい声に出しちゃって、焦ってるソフィーも可愛いっ!」


「父上、何を当たり前のことを言っているのですか?」


「そうですよ。

 ソフィーが天使なのは周知の事実でょう?」


 お父様達が何やら騒いでるけど、そんなことはどうでもいい。

 今重要なのは! この窮地をどうやって乗り切るかという一点のみ!!


「ソフィーちゃん、毎日1時間ほどもいなくなればバレないはずがないでしょう?」


「っ!!」


 な、なんだって!!

 まさか誰にもバレずに訓練場に忍び込むという完璧に思われた私の計画に、そんな落とし穴があったとは!


「こほん、騎士達にも口止めしようとしたようだけど……彼らの主人は公爵である私だからね。

 いくら公爵令嬢であるソフィーから命令されても、いやソフィーだけじゃなくてアルトやエレン、ユリアナの命令だろうと私に報告する義務があるんだ」


「えっ……」


 そ、そんな! まさか騎士のみんなが裏切ってたなんて!!


「騎士団長のリーメルから、涙目になって目をうるうるさせなが必死に虚勢を張ったソフィーから黙っているように可愛らしく命令されたと自慢され……」


「公爵閣下、少々お口が過ぎるようですね?」


「リ、リーメル君っ!?」


 いつの間にかお父様の背後に立っていた美女。

 エレンお兄様の初恋の人でもあるルスキューレ騎士団団長のリーメルがいい笑顔を浮かべてて、なぜかお父様が焦ってるけど……今はそれどころじゃない!


 た、確かに訓練場に忍び込んで、速攻で見つかった時は非常に焦ってたし動揺もしていた。

 それは認めよう。

 けど……断じて! 断じて涙目になんてなってないっ!! たぶん……


「ふふふ、ソフィーちゃん」


「は、はい!」


「じゃあ私は戻るけど、怪我をしないように頑張るのよ?」


「うん」


 あれ? 怒られないの??

 仮にも公爵令嬢が訓練場に忍び込んで騎士達と一緒に訓練に参加してたのに……それと、粉々になっちゃった魔石は?


「ほら、戻りますよ貴方」


「えっ? だ、だがソフィーの可愛い修行姿をこの目に焼き付けなければ……」


「貴方にはお仕事があるでしょう?

 うふふ、ソフィーちゃんが寝込んでいる時は私が貴方の尻拭いをする事になったのですよ?」


「そ、それは、その……」


「さ、行きますよ」


「えっ、ちょっ! ユリアナ、あれは謝っ……」


 お父様がお母様に引き摺られて連行されて行ってしまった……ご愁傷様です。


「じゃあ、こっちも始めようか。

 まずは基礎体力をつける事から始めます」


「ソフィー、俺達の訓練は厳しいけどついて来られるかな?」


 ふふふ! エレンお兄様ったら、誰に言っているのかしら!


「もちろんです!」


「では! 訓練場の周りをランニング3周。

 その後は魔力操作の練習だね」


「はいっ!」


 私はいずれ最強に至る存在!

 この程度、余裕でこなしてみせる!!








 ……って、30分前までは思ってたのに!


「ハァ、ハァ……っ!」


 なんとか、なんとかランニング3周は走り切った!

 けどもう足がプルプルして動けない……


「ソフィー、無理をしたらダメだって言ったでしょ?」


「でも、よく頑張った! 偉いぞ」


「んくっ……と、当然です!

 私は、一度決めた、ことは……最後までやり切ります!!」


 でも……もうランニングはしたくない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る