〝ざまぁ〟の対価①

 異世界にある宿屋の一等部屋のベットの上で目覚めたオレは。

 窓のカーテンの隙間から射し込む、太陽の眩しさに目を細めた。

(もう朝か……退屈な冒険のはじまりか)


 オレの両側には、シーツを掛け布団代わりにした裸の女が二人──一人は褐色肌のダークエルフ、もう一人は色白の魔導士女だ。

 二人ともオレが旅の途中で仲間にした。隣の部屋にも数名の女が、オレのパーティー仲間として宿泊している。

 上体を起こしたオレが、素肌に直接シャツを着てボタンをとめていると。

 目覚めたダークエルフが、眠そうに目を擦りながらオレに聞いてきた。

「もう、出発するんですか?」

「そうだ、おまえたちも早く服を着ろ」

「わかりました、偉大な勇者マスター《冒険を続けますか?》今日はどこまで?」

 ブーツを履いて床に立って、ズボンのベルトを締めながらオレは、ダークエルフの質問に答える。

「続けるに決まっているだろう……今日は西の村まで行く、他の女たちにも支度するように伝えろ」


 ダークエルフと魔導士が。服を着ている間、オレは洗面場の鏡の前で歯を磨く。

 水瓶から柄杓ひしゃくですくった水で口をすすいでいる、鏡に映るオレが質問してきた。

《冒険やめますか?》

「黙れ!」

 オレは、持っていた柄杓で鏡を叩き割る。

 割れた鏡は、すぐに元の状態にもどる。

(まただ、なんなんだコレは)

 最近やたらと《冒険続けますか?》とか《冒険やめますか?》の言葉を耳にする。


「こんな楽しいコト、やめられるはずないだろう」

 転生だか、召喚だか、転移だか、なんでこの世界に居るのか?

 ずっと、旅を続けているオレ自身も記憶にはないが。

 オレは無双でチートスキルを得た最強の勇者だ、金も女もすべて思いのままに手に入る。

 この世界はオレのために存在している。

「ざまぁぁ! オレ無双! オレつぇぇぇ!」


 女性だけのハーレムパーティーを引き連れて宿屋を出発したオレは、その日の午後に、目的地の村に到着した。

 村に到着すると村人全員が、村の入り口に整列してオレを出迎えた。

 村長の男が愛想笑いを浮かべながら言った。

「これはこれは、勇者さま……これは、多少ですが村人からの気持ちです」

 村長が差し出してきた、布袋を上下に振ると硬貨がぶつかる音が聞こえた。

「これっぽっちか、少ないな……先に伝えておいた、オレに差し出す娘は?」

「ここに……」

 村長が示した村娘をオレは品定めをする。

「胸が小さい、顔もオレ好みじゃない……村を焼き払う」

 オレが昔、勤めていた職場の嫌な上司にそっくりな村長が、震えながら悲鳴を発する。

「ひっ! そんな」


 なぜかオレは、現実世界で嫌な思いをしたヤツのコトは鮮明に覚えている。

 オレが行く村や町の数名は、現実世界でオレがいつも嫌な思いをしていた職場の人間や、近所の嫌なヤツの顔をしていた。


 オレはパーティーの女たちに命令する。

「火を放て」

 どうせ、また新しい村や町がオレの行く先々でできているから、村や町の一つや二つ焼き払っても問題ない。

 火が放たれ燃え盛る、炎に包まれる村、悲鳴をあげて逃げ惑う気に入らない村人たちを、次々と悲しみの表情で抹殺していくパーティーの女たち。

 大嫌いな上司の顔をした村長が悲痛な顔で、オレの足にしがみついて許しを請う。

「酷すぎます、勇者さま!」

「うるせぇ! 汚れた手でオレに触れるな! ざまぁぁ! 謝ってももう遅いぃぃ! オレを職場から追放した報いを受けろ!」

 足蹴りにして倒れた、

上司の顔をした村長の腹をオレは、抜いた剣を突き刺す……オレ、最強!

 剣で腹を貫かれ、苦しそうに顔を歪める村長。

「ぐっ……《冒険続けますか?》勇者さま……」

「うるせぇ! やめるわけねぇだろう!」

 オレは、二度、三度と燃え盛る村で、村長の腹を剣で突き刺した。


 次の日、オレたちパーティーが向かったのオークたちが住む森だった。

 オレは、森で木の実を採っている。平和的なオークの姿を見つけると問答無用で斬りかかり、数匹を斬殺した──所詮はオーク、生きるに値しない生き物だとオレは日頃から思っている。


 学校に通っていた時に、オレをいじめていたヤツと、そっくりな顔をオークが悲鳴を発して逃げる。

「ひっ!」

 逃げるオークを追って、オークの巣窟に入ったオレは、オークを片っ端に叩き斬った。

 魔法のようなモノで応戦するオークもいたが、オレのチートなスキルはそれを無力化させる。

「ムダだぁ! オレ無双! オレつえぇぇぇ!」

 嫌なクラスメイトの顔をした、オークのオスもメスも手当たり次第にオレは斬殺した。

 転がるオークの生首が、オレの方を見て言った。

「ぐはっ《冒険やめますか?》」

「うるせぇ!」

 オレは、オレを小バカにしていたヤツとそっくりな顔をしたオークの頭を踏み潰した。

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