あるギルド職員の日誌


 今日は外回りで王宮付近に行く事になって仕事をして来た。今は帰りで王宮の城壁外周を歩いて帰っている。そう言えばこんな時期だったかな? あの頃に騒ぎになった事を思い出した。


 冒険者ギルドの職員として務めている俺だが以前はこの王宮の衛兵としてこの城壁の内側で働いていた頃の事を。


 あの日は本当に奇妙な夜だった。夜の見回りをしていたら食料倉庫の付近に妙な気配を感じて行ってみたんだ。見た事ない火の魔物が居て正直ビビったよ。俺の悲鳴に仲間の衛兵も集まって来たしな。槍を投げつけたら軌道が変わって倉庫に火がついちゃって本当に焦った。消火する水が無くて焦って狼煙の袋なんか投げつけてしまって、臭ぇのなんの。

 そしたら、急に雨が降って来て倉庫も火事にならなくて済んだ。本当に安心したよ。


 そのあと、衛兵仲間から新しい皮袋を貰ったなぁ。あれは今も持ってる。もっとも今は衛兵じゃないからあまり使ってないんだけどな。


そのあとは冒険者になるべく王都学院を受験した。結果は不合格だった。

 隣で建物を吹っ飛ばした奴がいたからな。俺の印象など霞んでしまったのだろう。アイツもあんな事しちまったら合格どころじゃなかっただろうな。


 その後は衛兵も辞めたのにどうしようかと思っていたところでギルド職員の募集があって助かった。


 思い出し笑いを堪えながら歩く、良い匂いがしてきた。これは定食屋の匂いだ。女将さんが気風が良くて、貧乏人や学生にも優しい店だ。俺も何度行ったかわからない。特に味噌カツ定食が美味いんだ。



 ⁉︎ ん? 見間違いか?

 さっきネロさんがいなかったか?


 ネロさんは冒険者の中でも腕利きでランクも最高のSランクだ。遥かに年下だけど凄い人だと素直に尊敬している。


 確か明日が結婚式だったはず。今朝もギルマスが張り切って結婚前夜の宴の段取りを話していたはずだ。


 何でこんな時間にこんな所にいるんだ?

 思い切って話してみようか?

 でも俺なんかが話して良いのか?


 どうしよう、どうしよう。

 あ、列が進んでる。やばい。

 ええーい、ジーン、勇気を出せ!


「あのー、ネロさんじゃないですか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る