辺境伯領に


 シャルの方は上手くいっただろう、次はマリアの実家だ、だが遠い。

 マリアが学生時代、生活していたのは辺境伯の王都の屋敷だ。だがいつもそこに辺境伯がいる訳ではない。


 辺境伯は辺境の領主なのでメインは遠い遠い辺境にお住まいなのだ。ましてやこちらから挨拶に伺うのが当たり前で王都にいる時に済ませよう等という甘えた精神ではいけない、と思う。


 ミヤキャソル領の領主がマリアの親父さん、トーマス・フレイン辺境伯だ。そして以前オークの群れに襲われていて助けたのがエリザベート・フレイン辺境伯夫人がマリアのお母さん。

 以前頼まれていて出来る様になったので、ウォータークッションをお土産にしよう。


 しかし辺境と言うだけあって遠いのだ、この世界には電車も汽車もないので主に馬車だ。

 日本とは違い平坦な土地が多いので馬車がメインになる。しかしコレがまた揺れる。ゴムのタイヤでも無いしショック吸収のサスペンションもない訳でダメージは直接ケツにくる。なのでクッションが必要なのだ。


 勿論うちの馬車には標準装備だ、更に車輪と車軸の摩擦を極限まで軽減する俺特製の水性ローションでスムーズに動く、コレにより馬の負担を減らしてスピードアップ、長距離運行が可能になった。


 でもやはり距離が距離なので三日以上はかかってしまう。でも今回は問題ない。進めるだけ進んでそこからはミストドアで戻ってくる。屋敷で一泊したらそこからまたリスタートする。

 

 馬車で寝泊まりしなくて良いだけでも負担が減る。到着したらそこから戻って来れば良いので片道だけならだいぶ楽になっていると思う。

 モンスターにも遭遇する、も俺が見つけ次第倒しているので馬車の速度はあまり変わらない。ミストサーチも今は半径800メートルくらい展開出来る。敵が察知するより早くこちらが気付ければ無理に戦う必要もなく一旦ミストドアで戻ることも可能だ。

 俺一人なら戦っても良いが馬車を守りながらでは分が悪い可能性もある、目的は辺境伯領に行くことでありレベリングではないからな。


 辺境伯領ミヤキャソルに着いた、領都センラックは大きい地方都市だ、うちのマイチー州とは話にならない。城壁の門の所で貴族口の方に並ぶ、と言ってもうちの他は馬車一台だけだ。


「マリア様、お帰りなさいませ!」


 衛兵さん達にもマリアは人気なのだろうな、顔が綻んでいる。マリアは微笑み返して通過していく。辺境伯邸門前に着いた。ここでもマリアは人気だな、帰って来た事を本当に喜んでいる。屋敷に入っていく。


「マリア、お帰りなさい。ネロくんもいらっしゃい」

「エリザベート様、ご無沙汰しております。こちら以前頼まれて出来なかったものが出来る様になりましたので、是非馬車にお使い下さい」


 例のクッションを渡す、前に頼まれたけど断ったからな、出来る様になったら渡さなきゃと思っていたんだ。


「まあ、まぁまぁ! ありがとう!! ネロくん」


 エリザベート様にハグされる、マリアが引き離しにかかる。


「お母様、ネロはダメです、離れて下さい」


「ホホ、ごめんなさいね、ネロくん。私ったら」

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