第4話 西條詩音(3)

「おはよう暮内くん・・・ちょっと良い?」

「おはよう。何かな?西條さん。」


 朝、登校してから席に座っていると、珍しく隣の席の西條が話しかけてきた。 

 なんだろう?

 西條はおどおどしながら話しかけてくる。

 絵に書いた様な陰キャだ。


「あの・・・今日、私達日直だから・・・」

「あ、そうか!ごめん。えっと・・・号令の係と、クラス日誌を先生の所に取りに行って、帰りに日報を書いて、先生に渡せば良かったよね?」

「うん・・・あの・・・クラス日誌はもう持って来てあるから・・・」

「あ、ありがとう。じゃあ号令は僕がやるよ。」

「・・・お願いします。あ、後、日報書く時手伝ってくれる?その・・・そう言うの苦手で・・・」


 日報か・・・帰宅が遅くなりそうだけど、仕方がない。

 仕事はきっちりやらないとな・・・


「良いよ。一緒に考えよう。」

「・・・ありがとう。」


 こうして、一日を過ごす。

 例によって、少し光彦と話したり、そんな光彦に話しかけている女子から無視をされたりする。

 よしよし、今日も俺の存在感は皆無だ。

 

 そして、放課後になり、西條と二人で相談しながら日報を書き終えた。

 ・・・西條は頭が良いようだ。

 苦手だと言っていたけど、特にそんな感じはしない。


 あれ?俺必要だったのか?

 まぁ、いいや。

 仕事だしな。


「さて、それじゃあ提出は僕がやっておくよ。西條さんは帰っていいよ。」


 俺は日誌を手に立ち上がろうとした。

 その時、西條がすっと手を伸ばした。

 

 その手が俺のメガネのレンズ部分にあたる。

 メガネが油脂で曇ってしまった。


「ご、ごめんなさい!日誌は私が持って行こうと思って・・・」


 西條が申し訳無さそうに言う。


「ああ、良いよ。僕が持っていくから。メガネも気にしないで。」


 どうせ度も入っていないしな。

 ただ、油でメガネが曇ったのはいかん。

 カバンからメガネ拭きを取り出そうとした時だった。


「せめてこれくらいはさせて下さい!」


 同じ様にメガネをしている西條が、メガネ拭きを既に取り出していた。

 まぁ、コレくらいは良いか・・・


「じゃあ、お願いします。」


 俺はメガネを西條に渡す。

 西條はメガネを拭き。

 顔を上げた後、


「あら?暮内くん、髪にホコリがついてるよ?」

「え?どこ?」

「そこ・・・違う違う。取ってあげるね?」


 そう言って手を伸ばした。

 そして・・・前髪を上に上げた。


「・・・やっぱり・・・」


 驚いた様な顔をして小声で何か言った西條。

 

「え?どうしたの?」

「・・・ん〜ん。なんでもないよ。はい、メガネ。お詫びに、日誌は持っていくから渡して?」

「・・・わかった。じゃあ、お願いするね?」

「うん。よろしくね?」


 ん?

 なんか変な言い方だな。

 まぁ、日直は同じペアで一年間だからな。

 別に気にしなくてもいいか。


「うん、同じ日直として、よろしく頼むよ。」

「・・・ええ。」


 こうして日誌を西條に手渡し、先に教室を出て帰宅する。


 思えば、しっかり会話をするのは、去年から思い返しても初めてかもしれんな。

 まぁ、良い。

 どうせ深く踏み込むつもりは無い。

 

 さて・・・今日は夕飯何にするかな・・・確か鶏肉が安かった筈だから、先にスーパーに行こう。

 売り切れてたら目も当てられん。

 主婦は軒並み化け物だからな。

 奴らの値段に対する意識は侮れん。


 特売の為に労力と身体をバリバリに張るからな。

 俺も負けていられん!!


 駆け足で自宅に向かう。


 この時の俺は、致命的なミスを犯していた事に気づいていなかったのだ。



side西條


「・・・間違いないわね。まさかとは思ったけど・・・やっぱり彼がクレナイだったのか・・・よし!」


 あたしは一人残った教室で独りごちる。

 あれから、色々な人に聞いて、クレナイについて調べた。

 伝説のヤンキー狩り。

 

 まさかこんな身近にいたなんて・・・

 自分と同じ様に陰キャを演じているとは思わなかった。

 今まで発見されなかったのも頷ける。


 でも、そんな事よりもあたしは彼に興味が湧いた。

 彼がクレナイなんて事は関係ない。

 でも・・・仲良くなるのには利用させて貰おうっと。


 これから面白くなりそう・・・

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