【カクヨムコン9】おじさん探偵団と怪人影男爵/おじさん探偵団と死神の城

雪うさこ

おじさん探偵団と怪人影男爵

序幕



 みなさんは、怪人をご存じでしょうか。その昔。陰鬱いんうつとした街を闊歩かっぽする怪人と、少年探偵団の攻防、冒険活劇を読んで、心躍らせた記憶があるでしょうか。


 ——大切なものを頂戴いたします。期日は、一週間後。水曜日の零時れいじ。怪人影男爵。


 銀色に輝く大きな月を背に。その人は、窓枠のところに足をかけて立っていました。


 漆黒のモーニング服に、シルクハット。目元を覆う黒い仮面。その下には、形の良い髭が、左右に細く伸びています。この場所には、不似合いな出立ちであるにも関わらず、すらりとした肢体は、どこか優雅で、気品すら感じさせられました。


 ここにいた誰もが、その人に視線を奪われ、身動きひとつすることが敵わなかったのです。


 ああ、その素顔は、正体は、一体……。仮面の下に隠された素顔を見てみたい。出会った者すべてが、この人の中身を覗いてみたい。そう思うに違いありませんでした。


「怪人——影男爵、なのか?」


 その場にいた人間が呆然としている中、中嶋くんはそう呟きました。


「いかにも。私が怪人影男爵である——」


 それが、この探偵団と、怪人影男爵との初めての邂逅かいこうでありました。


 探偵団と言いますと、プクプクとした頬を紅潮させ、まだまだ手足も伸びきっていない、幼さを残す体躯で町中を駆け回り、果敢に事件を解決する少年たちを想像するかも知れません。しかし、ここにそろっているのは、おじさんばかりです。


 そうです。ここにいる探偵団のメンバーたちは、みんなだということです。


 さあ、すらりとした紳士である怪人と、この中年のおじさんたちの出会い。ここに至るまでには、少々、込み入った事情があるに違いありません。


 まずは、おじさん探偵団が、この怪人と関わることになる最初の場面に、時間を巻き戻してみましょう。









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