第194話 プライド捨てて
「…」
「…」
観覧車の中、半ば無理やり陽葵に朝香と二人きりにさせられてから、向かい合って座っている俺たちの間に会話なんてものはなかった。
…うん、予想通りですね。
いやまぁ、こうなる気はしてましたよはい。
だって結局、答えも言わずに有耶無耶なまま話が切られてしまったから、俺と朝香の間の空気は未だに澱んだままなのだ。
結論から言うと、非常に気まずい。
でも話さないまま終わるのもまずいよな。
とりあえず話そう。なんでもいいから話をしよう。
「…今日楽しかったか…?」
「…うん…楽しかった…」
「そっか…」
「…」
「…」
やっべー会話終わっちゃったよ。
これ無理じゃない?後日でよくないか?
そんな風に現実逃避をしていると、ふと陽葵がさっき言っていた事を思い出す。
『どうせあんたたち二人とも気を遣って距離置いたまま何日か過ごす事になるんだから!』
…やっぱりこのままはまずいよな。
観覧車の窓から外を見ると、高さ的にまだ四分の一も回っていない様に見える。幸いにもまだ時間はあるようだ。
俺は静かに肺の中の空気を吐き出して、新しい空気を入れ込んで、頭をスッキリとさせる。
「…朝香」
「…?」
「さっきはその…ごめん」
「…旭が謝る必要なんてないはずだよ?」
「それでも、俺がお前を不安にさせてしまっているのは事実だ。だからごめん」
事実、不安にさせているのは俺の優柔不断な行いのせいだ。
だからまず、そのことに対しての謝罪は絶対にしなければならない。
「…じゃあ、どうして…どうして旭は私を頼らないの…?」
不安そうに揺れる瞳で俺を見る朝香。
あぁ…ダメじゃんか…好きな人にこんな顔させるとか、マジで救いようがなさすぎる。
結局、今の状況も俺がいつまでも余計な事を考えて、差し伸べられていた手を無意識に振り払っていたのが原因だ。
だから、さっさと変なプライドは捨てろ。俺。
「…怖かったんだ」
「…怖い…?」
「人を頼って、幻滅されるのが嫌だったんだ…」
「そんな…幻滅なんて…」
「しない、だろうな」
「なら…!」
「でも…それでも怖かったんだよ…今まで仲良く話してたやつらが呆れてみんな離れていっちゃうのが…」
「旭…」
嘘偽りなく俺の胸中を全て話した。
これから何を言われるのかわからない。わからないから怖いんだ。
自分の弱いところを見せて、醜態を晒し、それを見た人の反応はいいものじゃないだろう。
いつのまにか震えている手。
その震えを抑え込む様に俺はギュッと膝の上で強く握った。
そこで急にはっとした。
あれ…?これって遠回しに『あなたたちを信用していません』って言ってる様なもんじゃ…?
そんな考えが頭によぎって、一瞬で血の気が引いていくのがわかった。
「い、いや、違う!ごめん!言い方が悪かった!」
「へ?」
未だにこんがらかった頭で否定する。
「言い方的に信用してないみたいになっちゃってるけど、そういう事じゃないんだ!えっと…信用はしてるんだよ!じゃなきゃこんな風に遊んだりしないって言うか…あれ…?えっと…」
考えがまとまらないまま喋り始めたせいで、文脈も言ってることもめちゃくちゃになってしまっている。
そんな無様な姿を、朝香はじっと見ていた。
「…」
「…っ!えっとだな…俺が言いたいのはそういう事じゃなくて…!あの…!」
パニックっていうのはこういう事を言うんだろう。
言葉は出てこないし頭は回らない。
何を言えばいいのか、何をすればいいのか、今、自分がどんな顔をしているのかすら考える事ができなかった。
「っ!ご、ごめん!ちょっとじか…ん…」
時間をくれ、そう言おうと顔を上げた時だった。
がばっと俺の首に何かが巻き付いて、ふわりと甘い香りが鼻に通って来た。
「…大丈夫、落ち着いて」
その声が耳元で響いたん瞬間、首に巻きついたのは朝香の腕だということを理解した。
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