第80話 甘いもの
「はい!午前の人は終わってもいいよー!」
残り少ない高橋の仕事の時間が終わりを告げた。
午後から高橋を誘ってみようか?
それとも、こういう時って一人にしておいた方がいいのか?
「んー…」
「…あの…旭くん…」
「へい?」
エプロンを畳んでロッカーに入れようとした時、後ろの方から声がかけられた。
「おー楓じゃん。楓も今終わり?」
「あ…うん、そうだよ」
「お疲れ〜」
「あ、うん、お疲れ様」
さて、どうしようか。
これから高橋を誘おうにも、まず高橋が見つからないし…いや、楓は?
いやでも、楓は多分美波と回るよな。
あれ?俺ぼっち確定?
「やべ、帰ろうかな…」
「きゅ、急にどうしたの?!」
「現実を見て悲しくなっちゃった」
「え、えーと?」
いまいち意味がわからないようで、楓は首を左右に傾げている。かわいい。頭の上にハテナマークが見えそう。
「じゃ、楓も文化祭楽しんで!」
財布を持って別れを告げ、教室の出口に向かう。
「ま、待って!」
一歩を踏み出したところで楓に止められてしまった。
「どったの?」
「あ、旭くんさ!今から一緒に回らない?!」
「…え?」
完全に予想外のセリフを言われて、一瞬思考が停止してしまう。
「…だめかな?」
「あ、あぁごめん、だめじゃないけど…美波とかじゃなくて…俺でいいのか?」
「うん…美波ちゃんは他の子と回るって言ってたし…わたしは…旭くんと回りたいかな…と…思って…」
そう言ってチラチラとこちらを伺うように見る楓。
え、なにこれ、かわいいですか?
こんなのが世に放たれちゃっていいんですか?
こんなの男の子は勘違いしちゃうって。
「お、おーけー行こうか。俺も回る人探してたからさ」
「よ、よかった…」
そんなあからさまにホッとしないでくれ。
頭撫でたくなっちゃう。
楓って何か小動物っぽいんだよな。
「楓って、お昼はもう食べた?」
「ううん、まだだよ」
「んじゃ、とりあえず昼飯にしようか」
「うん」
さて、楓が好きなものってなんだろうか。
この前の花火大会では、わたあめが好きって言ってたから甘いものか?
「何か食べたいものある?」
「うーん…こういう時って、何食べたらいいのかな?」
「え、適当」
「適当?!」
そんな驚かなくても。
「こういう時だからこそ好きなもの食べればいいんだよ」
「う、うーん…」
唸りながら悩む楓。
そんなに悩む?
「えと、それじゃ…クレープ…とか…あるかな?」
「…ふっ」
「な、なんで笑うの?!」
「いや、ほんとに甘いの好きなんだなって」
「バカにするんだ!」
「あ、いや、してないしてない」
「う〜…」
どうやらちょっと怒らせてしまったようだ。
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